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二話
一章 再来する狙撃者
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空中に文字が浮かび上がり、「復活回数ゼロ回 再生なし」と表示され、消える。つまり一回死んだら終わり、という意味。今回は先に敵を倒したほうの勝ちなのだ。再生なし、というのは以前、教師中村と加賀が戦った時のように、切れた腕の再生や、修正がない、壊れ続けた状態で戦闘が行われるという意味。
「ただいまから、加賀河割と山本静香の模擬戦闘を開始します。」
目の前にあった文字が消え、開始までの時間を告げる数字が浮かび上がる。
3・2・1 開始!
始まった。
開始が告げられ、加賀はとりあえず走っていた。それはただ適当に走っていたのではなく、地図を見ながらだ。
その地図がどんなものかというと、腕に、小さく、真っ黒な表示枠のようなものがあり、それを展開することにより、地図が拡大表示される。(展開しないと、ただの黒い四角)そしてもう一度小さいサイズに縮小できる。
そして加賀が見ている地図に表示されている場所は
・・・大型ショッピングモール
そう、そこはとても大きな、四階建てで、真ん中が大きくえぐられているように、空いている。

とりあえず加賀は地図を見てみる。すると、右下に「フロア2」と表示されていたので二階と分かった。
・・・とりあえず、適当に歩いてみるか
そうして穴から離れ、地図を見ながら歩いてみる。敵の気配はない。
ただ茫然と歩いていると、背後にあった服屋のマネキンの腕が落ちた。
「!?」
それはただ重力の方向に落ちた、脆くて、風化して限界がきて落ちたのではない。
落とされたのである。
それに身の危険を感じた加賀はとりあえず走る。飛んできた方向もイマイチわからず、あるものを引きずるように、ただ怖いものから何もできずに走る。
マネキンの腕がやられてから数十秒後。敵は撃ってこないが、どこを目指しているかもわからず、走った結果、加賀は食品売り場に来ていた。
「ここまでくれば大丈夫か・・・。とりあえずいい方法を見つけないと」
始まって数十秒で見つかるとか、どんだけ相手は察しがいいんだ、運が強いんだ。と、思っていた加賀は、緊張で、壁に背をついた。身を低くして。
長座体前屈でもするかのような体勢の加賀は目の前の食品の棚を見る。そこに、あったあるものに、打開策があるとふんだ。それを手に持つと、
「これでなんとか・・・いけるかもしれない!」
あるところ。そこには一人、三階からスナイパーライフルを構える女がいた。
彼女は構えたライフルのスコープを覗き、見失った男を探す。
「・・・リロードの時間が遅くて捕捉しきれなかった」
しかし、先ほど男が走って行った方向はわかっている。たしかさっき見た地図では一番奥に食品売り場があったはず、おそらくあの男は広い食品売り場に逃げただろう。だから、
「ちょっと移動して、食品売り場を適当に射撃してあぶりだしてやる・・・そして出たところを・・・」
構えを崩し、ライフルを抱えながら小走りで食品売り場の正面へと向かった。
その時、加賀は小麦粉の袋をたくさん抱えていた。そう、彼はこの小麦粉で目くらましをしようというのだ。以前、スナイパーとして戦っていた自分ならわかる。いくら視界が悪くなろうと影はうそをつかない。その影を狙えば当たる。しかし、そこに影があったら人じゃなくても撃ってしまいそうになるはずだ、と。その一瞬の躊躇を狙うのだ。
だから、
「よし、いくか」
彼は食品売り場の出口らへんまでたくさんの小麦粉の袋を大きな袋に入れてから、それを抱えて走った。
よし、いまだ!
出口から二十メートルほど離れたレジに身をひそめていた。割と出口から近いところに来たが、敵は撃ってこない。これは敵が自分を捕捉しきれていないのか、それとも出てきたところを慎重に狙うのか。どちらにしろ作戦は変わらない。そう決めた加賀はポケットから小さな球体を取り出す。魔術回路だ。それを展開し、赤黒い剣を手にもつ。
それを出口付近に置かれた数十のショッピングカートへと向けて、放つ!
直後、そこにあった数十のショッピングカートへと赤い光が落ちてきて、爆発した。
金属を吹き飛ばす、甲高い音。空気を割る、鈍い爆発音がモール内に響いた。そして、
「届け!」
袋に入った複数の小麦粉の袋を出口あたりにぶん投げる。重い、しかしながらちゃんととんだ袋は滑った距離も入れて十メートルくらいは進んだ。出口には残り十メートル足りないが構わない。再び剣を向け、赤い光が、袋に届くとき、
爆発に巻き込まれた小麦粉は、あたり一面を真っ白に、まるで吹雪の吹く雪原地帯のように広がる。
「よしっ!」
敵の視界どころか、自分の視界も悪くなっているが、気にしている場合ではない。重い剣を両手で持ちながら、全速力で出口に向かって行く。そして来た。
霞む景色に、それを潰すといわんばかりな光の一線が通る。しかし音はしない。光が通った場所は白くなく、かき消されていた。
そして「爆発音」が聞こえた後、その線は出口に向かったものにぶつかる。
思わず、視界が悪くて当たらないと思っていたが、うまく当たったことに安堵した。山本だ。
「ふぅ・・・。たいした作戦じゃなかったわね」
そして、広がっていた白の煙幕も徐々に落ちてゆく。床部分が真っ白に変られてゆくのを肉眼で見ていた。
しかし、彼女はある異変に気付いた。そう、通達がこないのだ。仮に、敵が倒れると「戦闘不能となりました」というのが来るはず。しかし、こないということは・・・
思うより先に、体は動いていた。ライフルのスコープを覗く。するとそこには「加賀の姿」はなく、代わりに、「先ほど腕を飛ばしたマネキン」の脳天を光が貫いていた。
「はあっ!?」
しかし、気づいたときにはもう遅かった。もう、そのあたりに加賀の姿は見えない。逃げられた。
「はあ、はあ」と息を吐き出す加賀は、三階へとエレベーターで来ていた。
あの時、マネキンを引きずり持って行って正解だった。をおとりにしてから、壁を壊して違う道から逃げていたのだ。

そしてさっきの光はおそらく三階?から来ていたと仮定し、来た。
二階と、店が違うだけで、基本のつくりは変わらない。フロアには大きくえぐれた穴がある。とりあえずそこに進んで、全体を見回した時、何もないことに安堵し、振り返る、否、振り返ろうとしたとき、それは叶わなかった。それは
加賀の背中に、固いものが押し付けられていて、「カチャ」と聞き覚えのある、リロードをする音が聞こえたからだ。
加賀は、振り向かず、腰に剣を下げて、
「山本さん。撃たないの?」
それに返答が来る。
「ええ、撃たないわ。なんでだと思う?」
わからない、という意味で黙った。すると、
「あなたを実力で潰してみたいの」
へえ、と
「でも、近接の僕と遠距離の山本さんじゃあ、不利がありすぎるかもよ?」
いいえ、
「スナイパーっていうのは、勿論、見つかってはならないもの。しかし、」
背中に当てていた、銃口が離れて。
「見つかってからが本番。楽しいじゃない!」
「!?」
背中に風圧が届く。それは決して弱いものではなく、強いもの。それが危険と判断した加賀は、屈んで、後転した。
直後、いままで加賀がいた場所には、刃のついた長銃、剣銃が高速で通った。
後転した加賀は、バックステップ気味に立ち上がり、後ろへと下がる。そこへ振り向いた山本は右旋回で剣銃を回し、突きの形で不安定な加賀へと向かう。
不気味に、加賀は苦笑いで剣を腰から右手で抜く動作のまま、受ける。銀に輝く剣銃の刃は、赤黒い刃と鍔競り合いをしていた。
それは、山本の突きを、下からすくうようにして持ち上げたからだ。一瞬でも遅かったり、ずれていて、赤黒い刃の上を滑走していたら、加賀の体は間違いなく貫かれていただろう。
そして、山本へと加賀は問いかけた。
「その銃・・・。僕の知らないようなものだけど?」
刃のギリギリ、という音の先で山本は答えた。
「収刀できるタイプだからね・・・っ!」
言い切ると同時に鍔競り合いは払われ、解除された。バックステップとともに、手をついて、転ばぬようにスライドさせて下がる。
両者の間は二メートル。目と目でお互いがいつ攻めようかと、考えている。
そして、加賀は重い剣、否、魔術回路を展開。剣には赤いオーラのような帯が揺れる。
それに対抗しようと、山本は、銃を、本来の長銃の使い方として構える。しかし、いまだに先には刃がついている。
その時、加賀の足元から、赤い光の柱が三百六十度を囲むように立つ。「これはなんだ」と思い立った山本はとりあえず長銃で穿つ。しかし、
赤い柱の向こうにいる加賀にあたるどころか、柱の二十センチ前で光は消滅。
驚く山本。しかし、こんなところで驚いている場合ではない、と考え、刃で柱を砕こうと両手でもった銃を上から雑に振り下ろす。しかしそれもかなわず。
赤い柱は刃が当たると同時に消えた。しかし、その刃はぐにゃりとひしゃげ、まるで強い力ではじかれたように反動が襲う。その力で肩から指先の力が抜け、吹き飛ばされる。加賀と山本の距離、三メートルだ。そして床にたたきつけられた反動で銃を落とす。
「まずい!」と、剣を拾うこともできぬまま、柱の中の住人が姿を現す。
彼は、銃を拾おうとする、防御もクソもない格好の山本に、剣を構え、駆けた--------------
と、意地になり、左手を前にだして防御まがいとする。しかし、
しかし、いまだに二メートルほど空いた距離で剣は山本ではなく、床を叩き、加賀は言った。
「広がれ!」
そのまま、赤黒い剣の放っていた赤いオーラが、剣の正面から横に六十度ずつ、百二十度広がる。
まるで、扇の形が、波のように高速で広がって---------------------
・・・なんだこの攻撃は!?
と、山本は考える。前回はスナイパーライフルだったはずの加賀が剣に変え、使いこなしている上に、あまつさえ謎の技。一体全体どうなっているんだ、と思考はフル回転する。しかし、そんなことをしている暇はない。
今さっき。剣が自分に振り降ろされると思い、左腕を剣の進行方向の前に出して肘を曲げず、まっすぐにした。これをすることで、肉(模擬的肉体)が斬られるとき、抵抗で力が落ちて、致命傷に至らないと踏んだ。
・・・腕の一本なら、まだ何とかなると思ったのに。どうすれば
その時、体は動いていた。
今は、落ちた銃を拾おうと、左脚を曲げ、腰を軽く落とし、右手でとろうとして切る状態。右手から銃までの距離、一メートル。とっさで、イマイチきれいな形では取れない。これでは前に倒れるように進み、不安定な足取りで加賀からの攻撃を避けなければならなかった。しかし、それに対応しようとして、前に出された山本の左腕は、残念ながら、当たるどころの話ではない。ただ出されただけという形になってしまった。
それは、加賀が謎の広範囲攻撃を行ってきたから。そして加賀の赤黒い剣が地面にあたったところから、山本までの距離はわずか二メートル。それは波で、高速で広がり、当たってしまう。「前に倒れる動作を応用して、前転で回避しようか」いや、その回避距離ではこの波をよけきれない。「ジャンプは?」無理だ。こんな変な体勢。踏ん張りが利かず、飛べても数十センチほど。波は床から五十センチの高さを持っている。だが、その波にも短所があった。それを山本は見逃さない。
・・・波が通り過ぎた後。すぐ、一秒もたたずにそこにあった波はなくなり、そこから移動している。
つまり、だ。速い分、通り過ぎるのも早い、ということだ。高速で、高さを持って、幅がある広範囲攻撃は、確かに横には逃げられない。ならば
倒立気味に側転して、波がとおったところへと落ちればいい!
前転ではなく、側転。これは無意味となったまっすぐの左腕を内側として、銃を拾おうとした右腕を左腕の横に、下半身を、前に倒れようとする力で持ち上げ、一瞬倒立。波が来たところで波側に倒れる。側転だ。そうすれば、何もない床へ着地できるかもしれない。だから、
「やってみるしかない!」
迫る。赤い波はいまだ高さを落とさず迫る。この時、山本へと迫る波の主は、こう思った。
・・・もらったな。まあ、あの距離じゃかわせないだろう。
叩きつけた剣を持ち上げ、行方を見届ける。そして今、山本にあたろうとした。
「よし」
といったのは加賀ではない。
山本だ。
彼女は迫りくる波に対し、側転を利用することで波を超え、回避した。
「何?!」
完全、否、完璧だったはずの攻撃は、見事ひらりと宙をかえって回避する山本。
しかし、致命傷、とまではいかなかったが、手を戻すとき、遅れが出てしまったため右手首から先はなくなっていた。
だが、そんな時でも、うまく回避しきった彼女は笑っていた。正直、加賀は気味が悪かった。そして、加賀は、自分から二メートルほどの距離にいた、右手首あたりを左手で押さえている山本へと問いかけた。そのなくなった右手があったところからは、魔力の放出を意味する「水色の光」が出ているが、すぐにそれは収まり、ただ切れた部分が水色になっていた。
「あのさ、よくよけられたね」
といったのは加賀。依然として向かい合う二人の距離は二メートル。その短いような微妙な距離感で、返答が来た。
「なんでよけられたと思う?」
と、山本は問いかけた。「なんで」とはどういうことなのかよくわからない。だけども
「なんか、訓練してるとか?」
バチッ、と二人の距離で何かが切れた音がした気がした。それは山本の顔で----------
「惜しい、裏実験部よ。聞いたことない・・・?」
加賀は、裏実験部、という言葉に知識をフルに活用する。
「あ、あの怪しい、「同好会」の類なのに「部」って名乗る怪しい同好会か!」
その言葉に眉をひそめた山本は
「なんか、失礼な物言いね。まあいいわ。つまりね---------」
彼女はポケットに左手を突っ込む。
そして俯きながら、
「ねぇ、「魔術技巧部」ってあるでしょ?あれは学園との公式で開発したりするの。ほら、魔術回路初めてもらう時に、エンジニアいたでしょ?あれ魔術技巧部。
それで、「裏実験部」は学園とは非公式で秘密に開発したりするのよ。実はそこに転がる銃も、普通の回路にとりつけた試作品なのよ」
と、彼女がそこまで言ったとき、加賀は口を挟み、
「つまりは、「秘密の開発部」ってことか?」
「ええ」、と答えたところで、俯いていた顔をあげて-----------
直後、ポケットから左手を抜いた彼女の手には、二つの長銃が握られていた。
「非公式ってことは、自由にカスタマイズできるってこと」
彼女は手からそれを落とす。その落ちて、重力方向に向かった銃は、次の瞬間。重力との反対方向に向かったのだ。
そして言った。
「どうぞ、裏実験部の試作品008番「双長銃」を」
双の長銃は、それぞれ左右に広がって、その長い銃身の先端を加賀に向けた。
今加賀は全力で走っていた。それは「先ほど落とした銃剣を拾った山本」から逃げているのではない。そんな、銃を拾わせる暇があったらとっくに襲いかかっている。それで、何故逃げているのかというと、勿論、「浮遊して襲いかかってくる双長銃」から逃げているのだ。
「ああっ、もううざいなあ!」
双長銃、というくらいだ。その二つは適切な場所に行き、適切なところで、加賀を狙う。そして加賀は過去の経験から「長銃はリロード時間が結構長いから、その隙に距離を離せば・・・!」と推測。その時、ちょうどその状況が起こった。加賀から見て正面。双長銃は左右に分かれ、「青い銃身」が右へと、「赤い銃身」が左へとゆき、さきに加賀から斜め上のところで先に「青の銃身」が撃った。
それは、以前に加賀が使っていたもののように、光線が宙を通る。狙いは加賀の右脚。ふとももあたりを狙うものだ。
それを、普通に立っている状態だった体を加賀は、右足を後ろへと動かしてかわす。イメージとしては回れ右をする時の右足を後ろに下げる動きだ。
加賀の右脚、数センチ横を通り、床を削る。その時だ、右足を下げた状態の加賀の「右脚」へと再度、光線が狙う。「赤い銃身」だ。
そう、赤い銃身は、加賀を正面とし、左の背後にまわっていたのだ。だから、そのまま下がった右脚へと、穿った。
だが、勿論それだけでやられることはない。左手に持っていた剣を逆手に持ち、右手で左手を支え、剣の刃の体、「刀身」の横を盾のように使う。そして来た。
光は、銃口から発生し、それは空気中でも崩れることなく一線として宙を進む。それは「赤い銃身」から発せられたものだ。
そしてその光の一線は、加賀の後ろに下がった右脚を貫こうとしていた。しかし、右脚の前には赤黒い剣が待ち受けており、その剣の横部分を盾として構えていた。
当たる。
剣にあたったその光は、全力で前に進もうとする。まるで光に意志があるようにだ。空気との摩擦で起こる音はなっていない。しかしながら剣にあたることで、チリチリ、と削れていくような音がした。そして剣を両手で支え、右脚を守る加賀は、あることに気づいた。
・・・山本さんがいない?!
いやはや、どこへ行ったのだろう。剣を衝撃から支えているためか、それとも嫌な予感がするのか、彼の顔には数滴の汗が頬を垂れている。
しかし、このようなことを考えている場合ではない。このまま光の進行を許せば、右脚を失ってしまう。けんけんはできるかもしれないが、よってかかられたらボコボコだろう。
光が剣に着弾してから、一秒ほどたつ。その時には、もう右脚にうまく力が入っていた。
加賀は、右脚を軸として、体を右に旋回。その時に、ずっと進行してきていた光が横へと動く剣の力に影響されて、すこし、剣に連れてゆかれる。連れてゆかれた光は剣の先端に、斬られると同時に引っ張られ、旋回することにより、光の円ができていた。だが、旋回したことによる不安定な体に光の一線は向かって・・・こない。先の旋回でできた光の円。それは右回転をしていて、まっすぐ進む光の一線とぶつかり、摩擦を起し、爆破する。
加賀を囲むあたりには、光の爆破による煙が、煙幕のように存在していた。
加賀の周りには先ほど同様、赤い光の柱が守ってくれていた。しかし、この柱を構築するさいに、多く魔力を消費していたため、正直、もう無理な使用はできない。
問題は周囲。煙のようなもので、何も見えない。
「くそっ!何にも見えないじゃないか!」
無駄だとわかっていても、手で煙を払うために宙を掻く、が、掻いたところは一瞬だけ晴れるも、その先も煙があるし、周りの煙がそこをふさぐように来る。
そして、数十秒。なにも攻撃が来ない。正直、ふつうこういうところを狙いに来るものだろう、と加賀は思うが、生きられているのだから文句は言えない。
完全に煙は沈んだ。先ほどの双長銃は爆破に巻き込まれ、壊れていた。あたりは、砕け、床も少しえぐれていた。
「と、とりあえず。速く山本さんを探さなきゃ・・・」
と、思った時。音はない。無音で剣が飛んできた。
「!?」
それは加賀から見える限界の左の位置から飛んできて、それをギリギリでかわすと、思っていた軌道とはずれていて、左手首を落とす。
「しまった・・・!」
そして、その剣は剣だけではなかった。というのは
「どう?この短剣。試作品なんだけど」
彼女は加賀の五メートル先に立っていた。
そして、彼女の失った右手の反対、左手には、左手、逆手で短剣が握られている。
彼女はわざとらしくジャンプして、タップするように足部分、靴をコツコツと床にあてる。
それを加賀に意識させてから
「これは魔力で稼働させ靴の裏から、空気を押し返して高速で移動できるもの。試作品」
じゃあ、
「今のは床か何かを蹴って、その短剣で?」
そう、とだけ彼女は答えると、
「どうかな、裏実験部に入部したいと思った?ちょっとでも思ったならどう?」
加賀は腰に下げていた剣を右手で取り、
「遠慮、しようかな」
じゃあ、と山本が
「私に負けたら入部ね?」
と、山本は背後にあった壁に近づき、その場でジャンプ。高く上がった体、主に上半身に重心をかけ、床に体を平行にしたとき、膝を曲げ、壁を空気で蹴った。山本の落ちていった体は、地面すれすれで平行に進んだ------------
山本は回想。
裏実験部には本来部員が三人いた。自分と男女二人だ。しかしあるとき、その男女二人は付き合い、それを期に、放課後「二人で帰るから」とか言い出して、それ以来部活に来ない。その二人に後日山本は「なんで付き合ったからってこなくなる?」と聞いたところ、「興味がなくなった」。それしか言わなかった。
それから一人きりで、放課後部室に籠り、ただひたすらに非公式で研究をしていた。
しかし、夏休み前、顧問から通達が来た。
「ただでさえ部員が一人しかいないのに、一年生だけだし。学園側から廃部しろ、とね。まあ、君の無理を言ってなんとかできた部だからね。潮時かもしれないよ・・・?」
その時、山本は、あの二人が退部していたことに、まずは落ち込む。その次、廃部するということに驚き、そのまま疑問に思ったことを言う、
「ど、どうすれば廃部は見逃してもらえるものですか?」
それに、白けた顔で教師は答える。(何故白けた顔なのか、それは顧問がめんどくさいから)
「部員がお前を入れてまた三人にでもなればいいんじゃないか?」
と、適当に答えた教師だったが
「それは本当ですね?!今聞きましたよ?あ、これですか?何って、「証明書」ですよ」
どうせ、部員なんて集まらないだろうと教師は軽い気持ちでサインした。
まあ、こういったことは絶対あとで後悔することになるものだろう。
山本は宙を床に平行な体勢で飛んでいた。
もう一秒もたたず加賀へと当る。腕を前にだし、少し左へと傾ける。そのまま、逆手で持っていた左腕の短剣の攻撃軌道を左から右にスライドさせるようにして加賀の首を狙う。それに対し、加賀は首元に赤黒い剣を持って行き、防御を望んだ。
直後。加賀の首を狙おうと体を少し上に傾けて、斬りあがると同時に体が浮く瞬間。
加賀が予測していた軌道とはまた違う軌道で向かってきていた。それは、本来首狙いだと思っていた攻撃は、なんと加賀の横っ腹狙うものに変わっていたからだ。
「!?」
・・・何故。先ほどは左から右へと切り上げる形でスライドさせていた。しかし、今はどうだろう。
左手の短剣は逆手。それは変わらない。だが、首にあたる直前。不意に、左から右だった軌道が
「右から左への、切り下げの形になっている?!」
そう、その通り。
「正解」
と、山本は加賀の剣が防御を待つ首元ではなく、左手の逆手を右から左へ突き刺し、傷口を広げるように、「腹を切り裂いた」
無残にも、体の中心が裂かれ、まるで木の伐採のように、残った左の腹へと体重がかかり、そのまま崩れた。
その時だ。二人へと通達が来た。
「加賀 河割さんが戦闘不能になりました」
うーん、なんか真剣勝負じゃなくて、道具を使われたのは何か引っかかる。そう思いながら、加賀は転送された。
放課後。授業、帰りの会も終わり、帰れる。そう思い寮へと足を向けたとき。加賀の目の前には一人の女子が立ちふさがっていた。彼女は、眉が吊り上り、腰まである長いストレートの黒髪を持っていた。
・・・髪乾かすの大変そうだなあ
そう思っていると、女子が
「ねえ、約束覚えてる?」
「イイエ、ナンノコトヤラ」
彼女は右脚を地面に強くたたきつけ、
「まさか、忘れたなんて言わせないわよ?」
「ああー、おもいだしたー!裏実験部のことだねー?」
そう、と言いながら彼女は胸ポケットにかかっていたボールペンと、制服の内ポケットからたたまれた紙を取出し、加賀に渡す。
それをしぶしぶ受けとり、開く。衝撃の事実に思わずそのまま読んだ
「入部届
部活名:裏実験部
氏名:
サイン:
」
あのー、と小さく問いかける
「これは裏実験部の入部届では・・・」
その時、今までに見たことのないような笑顔が、厳しそうな性格の彼女の顔に取りついた。
「書いてね♥」
「え、あ、ちょっ」
こうして、加賀は裏実験部へと入部させられることとなり、後にそれが結衣に伝わり、先輩である、一年でない結衣も入部したことから、裏実験部は存続という形となった。
めでたしめでたし
「あれ?ちょっと、、、今回の戦闘のあの最後。なんで攻撃の軌道が逆になったんだ?」
「実は、壁とか床がなくても、魔力で宙に障壁を作って踏み台を作れるようにしたの」
「え?」
「じゃなかったら、平行方向に進んでいたあの体をどうやって上に、しかも切り上げる力がてにはいるってのよ」
「あー」
「あと、最初の質問。軌道を逆にしたのは、双長銃と同じで魔力による遠隔操作で、「攻撃が右に向かうのを左に向かうように操作した」の。つまりあとは握ってるだけで方向が逆になるってわけよ」
「うーん」
「あと、途中。音がしなかったときあったでしょ?あれが私の固有魔術。自分の出す音が消せるの。でも、剣にあたった時の摩擦音とかは消せない」
「なんか・・・後付けみたいだね」
「そうよ、後付けだもの。まあ、裏実験部に入ったから、これからそういうことができるようになるよ」
再び満面の笑みとなった山本をみた加賀は、仕方ないか、と妥協したのだった。
その後、裏実験部顧問に入部届けを渡した加賀と結衣。
しかし、結衣はやる事がある、と言って帰ってしまったので、山本と加賀は二人で、部室へと廊下を歩いていた。
その時、加賀は気づいた、それは、
「なんかさ、入学してから一年もたってないからかも知んないんだけど。一度もこんな所、来たことないんだが・・・」
それは、校舎の端の端。それも、廊下に不自然なほどにボロボロの横にずらすタイプの木の扉。そしてその扉の真ん中に書いてある文字を声に出すと同時に紹介っぽく山本はアレンジしてみた。
「ようこそ、新入部員。加賀 河割。歓迎するよ」
後ろ手に彼女は扉を開ける。加賀を先に入れるようにして自分も入り、扉を手で閉めると、その空間は真っ白で何もない、ただの部屋。例えようとも、無、ただそれしか言えないほどに、白くて何もない空間だった。
「あのー、裏実験部って、いつ、お引越ししたんですか?」
見た感じ、開発するような道具も材料もない。
「いやあのね、実は・・・」
彼女が、黙った直後。部屋が暗くなる。
「うわっ!?なんでいきなり?!」
急に暗くなって、ブレーカーでもおちたのか?、と思った加賀であったが、次の瞬間、とても先ほどのような無の空間とは思えないものになっていた。それは
「我が部。否、私が今までに作った試作品、全三十七種。」
そう、先ほどと白い空間、というところは変わっていない。しかし、大量の武器が床、山本と加賀を避けるようにきちんと置かれていた。
「な、なんかすげえなあ」
「いやー、非公式でしかも学校で取り扱う魔術に水をさすような武器ってバレたら面倒だから、部員がこの部屋に来てから三十秒経つと自動的に実験できるように部屋ごと変えたんだ」
部屋ごと、というところに加賀は、ものすごい技量を感じた。一体、山本は何者なのだろうかと
「山本さん。何故、そんな技量を持っているんだ?」
そりゃねえ、と苦笑いで
「この学園のシステムや魔術回路を指揮している最高責任者が私の父だからよ」
は、
「え、じゃあ山本さんはその娘で、そんな技量を?」
ふふふ、と彼女は笑い、
「それ以上の私話は、私に勝ったら教えてあげる」
「負けたら?」
「実験される側になる・・・」
「よおおっし!頑張るぞー」
でも、と、加賀は
「さっきの授業みたいに、試作品を何個も使うのはずるいよ。だから、一個にしてくんない?」
あらあら、と
「女の子にそんなハンデ頼むなんて、自信ないの?まあいいわ、じゃあ、これも試作品段階なんだけど」
彼女は武器の寝転がる床をやり過ごしながら、部屋の隅へと進む。そこには、部屋の白と保護色になっていて気づかなかったが、扉があった。
それは先ほどと違って、自動ドアで上へと上がっていった。その先へと二人は進んでゆく。
そこには、
「街か?!これ」
普段は寮生活なので見ないが、そこには、信号や道路、横断歩道、家、電柱、駅、店などが多数ある街の風景があった。
「父の技術を盗んで作った模擬戦闘街」
「は、はあ」
そのとき、確かに加賀の体は反応していた。それは
「体が、軽い?!しかも何だこれ身体能力が格段に上がっている!」
加賀は、跳ねたり、走ったり、電柱を殴ってみたりする。その答えとして、軽くジャンプしただけで余裕に一メートルを縦に超え、いつもはバテる体力も今ではずっと走れるよう。おまけに速い。殴った電柱は素手にもかかわらず、ヒビが少し入った、そしてフィードバックの痛みもない。
「なんだよこれ!すげぇ!」
あまりの現実との違いさに、この空間への感動を山本に伝える。すると、山本は腰から一本の立方体を出す。
「私の武器はこれ」
その立方体は彼女の手に収まるぐらいだった。それは宙に浮き、この女の手のひらでくるくると回る。
「そっちの武器は?」
もちろん、
「この剣さ」
自分は小さい球体を剣に変形させてから、
「というか、そんな立方体。どうすんの?」
それに応えると同時に、立方体を上に投げた。
「まあ、戦ってみればわかるわよ」
上に投げた立方体は下へと今落ちてゆく。その立方体が彼女の胸の高さに落ちた時。それをバックハンドの右平手で叩いた。ゆっくりとそれが加賀の方へと飛ぶ過程。二人の距離十メートル。彼女は払ったあとの右手を宙で円を描くようにして回した。
加賀は飛んできた立方体への対処を考える。
・・・そのままこっちのコアを狙う、一直線の攻撃。
その立方体は未だ真っ直ぐ進み、加賀への距離五メートルの地点で、形を崩し、
加速した。
「!?」
加速した立方体は形を崩して、幾本のナイフのような形に分裂し、今はもう加賀へと三メートル。
急ぎ手に持った赤黒い剣は右手が上、左手が下で、そのまま上に上げ、右上から左下へと下げるようにして払い落とそうとする。その時だった。
幾本ものナイフは、まるで、海を泳ぐ魚の群れのように乱れぬまま、右へと動いた。
その右に曲がった群れは、次に左斜めにゆき、下へ、また右へと、回転しながら動く。その動きは先ほどの山本の手の動きと同じだった。
現在、右上から左下へと向う加賀の剣は、全く持って無意味になる。
まるで避けるように回転したドリルのようなナイフは加賀の左肩を落とす、筈だった。
いつも使う重い剣だが、今は違う。まるで自分の体のようにも思える剣。加賀の正面で表すと、今、加賀は右上から左下へと斜めに振ろうとしていた。しかし、その軌道を避けて、ナイフは、加賀の左肩を左下からアッパーするように斬りかかる。それに対して加賀が行ったのは、右手を剣から離したのだ。そして、左手は中指と人差し指でグリップの左面を、親指で右面を挟むように持った。前へと進む力で、左手を中心に剣は縦に旋回。そのまま旋回した剣を再度、加賀が取ると、それは逆手の構えとなっていた。
しかし、今から逆手で斬り上げるも、突こうにも、もう間に合わない。だから、この空間でのみでできた、逆手でもったグリップの先端部分を人差し指と中指で強く弾いた。その弾かれ、飛んでいった剣は、ナイフの群れへと相対する---------------
「ただいまから、加賀河割と山本静香の模擬戦闘を開始します。」
目の前にあった文字が消え、開始までの時間を告げる数字が浮かび上がる。
3・2・1 開始!
始まった。
開始が告げられ、加賀はとりあえず走っていた。それはただ適当に走っていたのではなく、地図を見ながらだ。
その地図がどんなものかというと、腕に、小さく、真っ黒な表示枠のようなものがあり、それを展開することにより、地図が拡大表示される。(展開しないと、ただの黒い四角)そしてもう一度小さいサイズに縮小できる。
そして加賀が見ている地図に表示されている場所は
・・・大型ショッピングモール
そう、そこはとても大きな、四階建てで、真ん中が大きくえぐられているように、空いている。

とりあえず加賀は地図を見てみる。すると、右下に「フロア2」と表示されていたので二階と分かった。
・・・とりあえず、適当に歩いてみるか
そうして穴から離れ、地図を見ながら歩いてみる。敵の気配はない。
ただ茫然と歩いていると、背後にあった服屋のマネキンの腕が落ちた。
「!?」
それはただ重力の方向に落ちた、脆くて、風化して限界がきて落ちたのではない。
落とされたのである。
それに身の危険を感じた加賀はとりあえず走る。飛んできた方向もイマイチわからず、あるものを引きずるように、ただ怖いものから何もできずに走る。
マネキンの腕がやられてから数十秒後。敵は撃ってこないが、どこを目指しているかもわからず、走った結果、加賀は食品売り場に来ていた。
「ここまでくれば大丈夫か・・・。とりあえずいい方法を見つけないと」
始まって数十秒で見つかるとか、どんだけ相手は察しがいいんだ、運が強いんだ。と、思っていた加賀は、緊張で、壁に背をついた。身を低くして。
長座体前屈でもするかのような体勢の加賀は目の前の食品の棚を見る。そこに、あったあるものに、打開策があるとふんだ。それを手に持つと、
「これでなんとか・・・いけるかもしれない!」
あるところ。そこには一人、三階からスナイパーライフルを構える女がいた。
彼女は構えたライフルのスコープを覗き、見失った男を探す。
「・・・リロードの時間が遅くて捕捉しきれなかった」
しかし、先ほど男が走って行った方向はわかっている。たしかさっき見た地図では一番奥に食品売り場があったはず、おそらくあの男は広い食品売り場に逃げただろう。だから、
「ちょっと移動して、食品売り場を適当に射撃してあぶりだしてやる・・・そして出たところを・・・」
構えを崩し、ライフルを抱えながら小走りで食品売り場の正面へと向かった。
その時、加賀は小麦粉の袋をたくさん抱えていた。そう、彼はこの小麦粉で目くらましをしようというのだ。以前、スナイパーとして戦っていた自分ならわかる。いくら視界が悪くなろうと影はうそをつかない。その影を狙えば当たる。しかし、そこに影があったら人じゃなくても撃ってしまいそうになるはずだ、と。その一瞬の躊躇を狙うのだ。
だから、
「よし、いくか」
彼は食品売り場の出口らへんまでたくさんの小麦粉の袋を大きな袋に入れてから、それを抱えて走った。
よし、いまだ!
出口から二十メートルほど離れたレジに身をひそめていた。割と出口から近いところに来たが、敵は撃ってこない。これは敵が自分を捕捉しきれていないのか、それとも出てきたところを慎重に狙うのか。どちらにしろ作戦は変わらない。そう決めた加賀はポケットから小さな球体を取り出す。魔術回路だ。それを展開し、赤黒い剣を手にもつ。
それを出口付近に置かれた数十のショッピングカートへと向けて、放つ!
直後、そこにあった数十のショッピングカートへと赤い光が落ちてきて、爆発した。
金属を吹き飛ばす、甲高い音。空気を割る、鈍い爆発音がモール内に響いた。そして、
「届け!」
袋に入った複数の小麦粉の袋を出口あたりにぶん投げる。重い、しかしながらちゃんととんだ袋は滑った距離も入れて十メートルくらいは進んだ。出口には残り十メートル足りないが構わない。再び剣を向け、赤い光が、袋に届くとき、
爆発に巻き込まれた小麦粉は、あたり一面を真っ白に、まるで吹雪の吹く雪原地帯のように広がる。
「よしっ!」
敵の視界どころか、自分の視界も悪くなっているが、気にしている場合ではない。重い剣を両手で持ちながら、全速力で出口に向かって行く。そして来た。
霞む景色に、それを潰すといわんばかりな光の一線が通る。しかし音はしない。光が通った場所は白くなく、かき消されていた。
そして「爆発音」が聞こえた後、その線は出口に向かったものにぶつかる。
思わず、視界が悪くて当たらないと思っていたが、うまく当たったことに安堵した。山本だ。
「ふぅ・・・。たいした作戦じゃなかったわね」
そして、広がっていた白の煙幕も徐々に落ちてゆく。床部分が真っ白に変られてゆくのを肉眼で見ていた。
しかし、彼女はある異変に気付いた。そう、通達がこないのだ。仮に、敵が倒れると「戦闘不能となりました」というのが来るはず。しかし、こないということは・・・
思うより先に、体は動いていた。ライフルのスコープを覗く。するとそこには「加賀の姿」はなく、代わりに、「先ほど腕を飛ばしたマネキン」の脳天を光が貫いていた。
「はあっ!?」
しかし、気づいたときにはもう遅かった。もう、そのあたりに加賀の姿は見えない。逃げられた。
「はあ、はあ」と息を吐き出す加賀は、三階へとエレベーターで来ていた。
あの時、マネキンを引きずり持って行って正解だった。をおとりにしてから、壁を壊して違う道から逃げていたのだ。

そしてさっきの光はおそらく三階?から来ていたと仮定し、来た。
二階と、店が違うだけで、基本のつくりは変わらない。フロアには大きくえぐれた穴がある。とりあえずそこに進んで、全体を見回した時、何もないことに安堵し、振り返る、否、振り返ろうとしたとき、それは叶わなかった。それは
加賀の背中に、固いものが押し付けられていて、「カチャ」と聞き覚えのある、リロードをする音が聞こえたからだ。
加賀は、振り向かず、腰に剣を下げて、
「山本さん。撃たないの?」
それに返答が来る。
「ええ、撃たないわ。なんでだと思う?」
わからない、という意味で黙った。すると、
「あなたを実力で潰してみたいの」
へえ、と
「でも、近接の僕と遠距離の山本さんじゃあ、不利がありすぎるかもよ?」
いいえ、
「スナイパーっていうのは、勿論、見つかってはならないもの。しかし、」
背中に当てていた、銃口が離れて。
「見つかってからが本番。楽しいじゃない!」
「!?」
背中に風圧が届く。それは決して弱いものではなく、強いもの。それが危険と判断した加賀は、屈んで、後転した。
直後、いままで加賀がいた場所には、刃のついた長銃、剣銃が高速で通った。
後転した加賀は、バックステップ気味に立ち上がり、後ろへと下がる。そこへ振り向いた山本は右旋回で剣銃を回し、突きの形で不安定な加賀へと向かう。
不気味に、加賀は苦笑いで剣を腰から右手で抜く動作のまま、受ける。銀に輝く剣銃の刃は、赤黒い刃と鍔競り合いをしていた。
それは、山本の突きを、下からすくうようにして持ち上げたからだ。一瞬でも遅かったり、ずれていて、赤黒い刃の上を滑走していたら、加賀の体は間違いなく貫かれていただろう。
そして、山本へと加賀は問いかけた。
「その銃・・・。僕の知らないようなものだけど?」
刃のギリギリ、という音の先で山本は答えた。
「収刀できるタイプだからね・・・っ!」
言い切ると同時に鍔競り合いは払われ、解除された。バックステップとともに、手をついて、転ばぬようにスライドさせて下がる。
両者の間は二メートル。目と目でお互いがいつ攻めようかと、考えている。
そして、加賀は重い剣、否、魔術回路を展開。剣には赤いオーラのような帯が揺れる。
それに対抗しようと、山本は、銃を、本来の長銃の使い方として構える。しかし、いまだに先には刃がついている。
その時、加賀の足元から、赤い光の柱が三百六十度を囲むように立つ。「これはなんだ」と思い立った山本はとりあえず長銃で穿つ。しかし、
赤い柱の向こうにいる加賀にあたるどころか、柱の二十センチ前で光は消滅。
驚く山本。しかし、こんなところで驚いている場合ではない、と考え、刃で柱を砕こうと両手でもった銃を上から雑に振り下ろす。しかしそれもかなわず。
赤い柱は刃が当たると同時に消えた。しかし、その刃はぐにゃりとひしゃげ、まるで強い力ではじかれたように反動が襲う。その力で肩から指先の力が抜け、吹き飛ばされる。加賀と山本の距離、三メートルだ。そして床にたたきつけられた反動で銃を落とす。
「まずい!」と、剣を拾うこともできぬまま、柱の中の住人が姿を現す。
彼は、銃を拾おうとする、防御もクソもない格好の山本に、剣を構え、駆けた--------------
と、意地になり、左手を前にだして防御まがいとする。しかし、
しかし、いまだに二メートルほど空いた距離で剣は山本ではなく、床を叩き、加賀は言った。
「広がれ!」
そのまま、赤黒い剣の放っていた赤いオーラが、剣の正面から横に六十度ずつ、百二十度広がる。
まるで、扇の形が、波のように高速で広がって---------------------
・・・なんだこの攻撃は!?
と、山本は考える。前回はスナイパーライフルだったはずの加賀が剣に変え、使いこなしている上に、あまつさえ謎の技。一体全体どうなっているんだ、と思考はフル回転する。しかし、そんなことをしている暇はない。
今さっき。剣が自分に振り降ろされると思い、左腕を剣の進行方向の前に出して肘を曲げず、まっすぐにした。これをすることで、肉(模擬的肉体)が斬られるとき、抵抗で力が落ちて、致命傷に至らないと踏んだ。
・・・腕の一本なら、まだ何とかなると思ったのに。どうすれば
その時、体は動いていた。
今は、落ちた銃を拾おうと、左脚を曲げ、腰を軽く落とし、右手でとろうとして切る状態。右手から銃までの距離、一メートル。とっさで、イマイチきれいな形では取れない。これでは前に倒れるように進み、不安定な足取りで加賀からの攻撃を避けなければならなかった。しかし、それに対応しようとして、前に出された山本の左腕は、残念ながら、当たるどころの話ではない。ただ出されただけという形になってしまった。
それは、加賀が謎の広範囲攻撃を行ってきたから。そして加賀の赤黒い剣が地面にあたったところから、山本までの距離はわずか二メートル。それは波で、高速で広がり、当たってしまう。「前に倒れる動作を応用して、前転で回避しようか」いや、その回避距離ではこの波をよけきれない。「ジャンプは?」無理だ。こんな変な体勢。踏ん張りが利かず、飛べても数十センチほど。波は床から五十センチの高さを持っている。だが、その波にも短所があった。それを山本は見逃さない。
・・・波が通り過ぎた後。すぐ、一秒もたたずにそこにあった波はなくなり、そこから移動している。
つまり、だ。速い分、通り過ぎるのも早い、ということだ。高速で、高さを持って、幅がある広範囲攻撃は、確かに横には逃げられない。ならば
倒立気味に側転して、波がとおったところへと落ちればいい!
前転ではなく、側転。これは無意味となったまっすぐの左腕を内側として、銃を拾おうとした右腕を左腕の横に、下半身を、前に倒れようとする力で持ち上げ、一瞬倒立。波が来たところで波側に倒れる。側転だ。そうすれば、何もない床へ着地できるかもしれない。だから、
「やってみるしかない!」
迫る。赤い波はいまだ高さを落とさず迫る。この時、山本へと迫る波の主は、こう思った。
・・・もらったな。まあ、あの距離じゃかわせないだろう。
叩きつけた剣を持ち上げ、行方を見届ける。そして今、山本にあたろうとした。
「よし」
といったのは加賀ではない。
山本だ。
彼女は迫りくる波に対し、側転を利用することで波を超え、回避した。
「何?!」
完全、否、完璧だったはずの攻撃は、見事ひらりと宙をかえって回避する山本。
しかし、致命傷、とまではいかなかったが、手を戻すとき、遅れが出てしまったため右手首から先はなくなっていた。
だが、そんな時でも、うまく回避しきった彼女は笑っていた。正直、加賀は気味が悪かった。そして、加賀は、自分から二メートルほどの距離にいた、右手首あたりを左手で押さえている山本へと問いかけた。そのなくなった右手があったところからは、魔力の放出を意味する「水色の光」が出ているが、すぐにそれは収まり、ただ切れた部分が水色になっていた。
「あのさ、よくよけられたね」
といったのは加賀。依然として向かい合う二人の距離は二メートル。その短いような微妙な距離感で、返答が来た。
「なんでよけられたと思う?」
と、山本は問いかけた。「なんで」とはどういうことなのかよくわからない。だけども
「なんか、訓練してるとか?」
バチッ、と二人の距離で何かが切れた音がした気がした。それは山本の顔で----------
「惜しい、裏実験部よ。聞いたことない・・・?」
加賀は、裏実験部、という言葉に知識をフルに活用する。
「あ、あの怪しい、「同好会」の類なのに「部」って名乗る怪しい同好会か!」
その言葉に眉をひそめた山本は
「なんか、失礼な物言いね。まあいいわ。つまりね---------」
彼女はポケットに左手を突っ込む。
そして俯きながら、
「ねぇ、「魔術技巧部」ってあるでしょ?あれは学園との公式で開発したりするの。ほら、魔術回路初めてもらう時に、エンジニアいたでしょ?あれ魔術技巧部。
それで、「裏実験部」は学園とは非公式で秘密に開発したりするのよ。実はそこに転がる銃も、普通の回路にとりつけた試作品なのよ」
と、彼女がそこまで言ったとき、加賀は口を挟み、
「つまりは、「秘密の開発部」ってことか?」
「ええ」、と答えたところで、俯いていた顔をあげて-----------
直後、ポケットから左手を抜いた彼女の手には、二つの長銃が握られていた。
「非公式ってことは、自由にカスタマイズできるってこと」
彼女は手からそれを落とす。その落ちて、重力方向に向かった銃は、次の瞬間。重力との反対方向に向かったのだ。
そして言った。
「どうぞ、裏実験部の試作品008番「双長銃」を」
双の長銃は、それぞれ左右に広がって、その長い銃身の先端を加賀に向けた。
今加賀は全力で走っていた。それは「先ほど落とした銃剣を拾った山本」から逃げているのではない。そんな、銃を拾わせる暇があったらとっくに襲いかかっている。それで、何故逃げているのかというと、勿論、「浮遊して襲いかかってくる双長銃」から逃げているのだ。
「ああっ、もううざいなあ!」
双長銃、というくらいだ。その二つは適切な場所に行き、適切なところで、加賀を狙う。そして加賀は過去の経験から「長銃はリロード時間が結構長いから、その隙に距離を離せば・・・!」と推測。その時、ちょうどその状況が起こった。加賀から見て正面。双長銃は左右に分かれ、「青い銃身」が右へと、「赤い銃身」が左へとゆき、さきに加賀から斜め上のところで先に「青の銃身」が撃った。
それは、以前に加賀が使っていたもののように、光線が宙を通る。狙いは加賀の右脚。ふとももあたりを狙うものだ。
それを、普通に立っている状態だった体を加賀は、右足を後ろへと動かしてかわす。イメージとしては回れ右をする時の右足を後ろに下げる動きだ。
加賀の右脚、数センチ横を通り、床を削る。その時だ、右足を下げた状態の加賀の「右脚」へと再度、光線が狙う。「赤い銃身」だ。
そう、赤い銃身は、加賀を正面とし、左の背後にまわっていたのだ。だから、そのまま下がった右脚へと、穿った。
だが、勿論それだけでやられることはない。左手に持っていた剣を逆手に持ち、右手で左手を支え、剣の刃の体、「刀身」の横を盾のように使う。そして来た。
光は、銃口から発生し、それは空気中でも崩れることなく一線として宙を進む。それは「赤い銃身」から発せられたものだ。
そしてその光の一線は、加賀の後ろに下がった右脚を貫こうとしていた。しかし、右脚の前には赤黒い剣が待ち受けており、その剣の横部分を盾として構えていた。
当たる。
剣にあたったその光は、全力で前に進もうとする。まるで光に意志があるようにだ。空気との摩擦で起こる音はなっていない。しかしながら剣にあたることで、チリチリ、と削れていくような音がした。そして剣を両手で支え、右脚を守る加賀は、あることに気づいた。
・・・山本さんがいない?!
いやはや、どこへ行ったのだろう。剣を衝撃から支えているためか、それとも嫌な予感がするのか、彼の顔には数滴の汗が頬を垂れている。
しかし、このようなことを考えている場合ではない。このまま光の進行を許せば、右脚を失ってしまう。けんけんはできるかもしれないが、よってかかられたらボコボコだろう。
光が剣に着弾してから、一秒ほどたつ。その時には、もう右脚にうまく力が入っていた。
加賀は、右脚を軸として、体を右に旋回。その時に、ずっと進行してきていた光が横へと動く剣の力に影響されて、すこし、剣に連れてゆかれる。連れてゆかれた光は剣の先端に、斬られると同時に引っ張られ、旋回することにより、光の円ができていた。だが、旋回したことによる不安定な体に光の一線は向かって・・・こない。先の旋回でできた光の円。それは右回転をしていて、まっすぐ進む光の一線とぶつかり、摩擦を起し、爆破する。
加賀を囲むあたりには、光の爆破による煙が、煙幕のように存在していた。
加賀の周りには先ほど同様、赤い光の柱が守ってくれていた。しかし、この柱を構築するさいに、多く魔力を消費していたため、正直、もう無理な使用はできない。
問題は周囲。煙のようなもので、何も見えない。
「くそっ!何にも見えないじゃないか!」
無駄だとわかっていても、手で煙を払うために宙を掻く、が、掻いたところは一瞬だけ晴れるも、その先も煙があるし、周りの煙がそこをふさぐように来る。
そして、数十秒。なにも攻撃が来ない。正直、ふつうこういうところを狙いに来るものだろう、と加賀は思うが、生きられているのだから文句は言えない。
完全に煙は沈んだ。先ほどの双長銃は爆破に巻き込まれ、壊れていた。あたりは、砕け、床も少しえぐれていた。
「と、とりあえず。速く山本さんを探さなきゃ・・・」
と、思った時。音はない。無音で剣が飛んできた。
「!?」
それは加賀から見える限界の左の位置から飛んできて、それをギリギリでかわすと、思っていた軌道とはずれていて、左手首を落とす。
「しまった・・・!」
そして、その剣は剣だけではなかった。というのは
「どう?この短剣。試作品なんだけど」
彼女は加賀の五メートル先に立っていた。
そして、彼女の失った右手の反対、左手には、左手、逆手で短剣が握られている。
彼女はわざとらしくジャンプして、タップするように足部分、靴をコツコツと床にあてる。
それを加賀に意識させてから
「これは魔力で稼働させ靴の裏から、空気を押し返して高速で移動できるもの。試作品」
じゃあ、
「今のは床か何かを蹴って、その短剣で?」
そう、とだけ彼女は答えると、
「どうかな、裏実験部に入部したいと思った?ちょっとでも思ったならどう?」
加賀は腰に下げていた剣を右手で取り、
「遠慮、しようかな」
じゃあ、と山本が
「私に負けたら入部ね?」
と、山本は背後にあった壁に近づき、その場でジャンプ。高く上がった体、主に上半身に重心をかけ、床に体を平行にしたとき、膝を曲げ、壁を空気で蹴った。山本の落ちていった体は、地面すれすれで平行に進んだ------------
山本は回想。
裏実験部には本来部員が三人いた。自分と男女二人だ。しかしあるとき、その男女二人は付き合い、それを期に、放課後「二人で帰るから」とか言い出して、それ以来部活に来ない。その二人に後日山本は「なんで付き合ったからってこなくなる?」と聞いたところ、「興味がなくなった」。それしか言わなかった。
それから一人きりで、放課後部室に籠り、ただひたすらに非公式で研究をしていた。
しかし、夏休み前、顧問から通達が来た。
「ただでさえ部員が一人しかいないのに、一年生だけだし。学園側から廃部しろ、とね。まあ、君の無理を言ってなんとかできた部だからね。潮時かもしれないよ・・・?」
その時、山本は、あの二人が退部していたことに、まずは落ち込む。その次、廃部するということに驚き、そのまま疑問に思ったことを言う、
「ど、どうすれば廃部は見逃してもらえるものですか?」
それに、白けた顔で教師は答える。(何故白けた顔なのか、それは顧問がめんどくさいから)
「部員がお前を入れてまた三人にでもなればいいんじゃないか?」
と、適当に答えた教師だったが
「それは本当ですね?!今聞きましたよ?あ、これですか?何って、「証明書」ですよ」
どうせ、部員なんて集まらないだろうと教師は軽い気持ちでサインした。
まあ、こういったことは絶対あとで後悔することになるものだろう。
山本は宙を床に平行な体勢で飛んでいた。
もう一秒もたたず加賀へと当る。腕を前にだし、少し左へと傾ける。そのまま、逆手で持っていた左腕の短剣の攻撃軌道を左から右にスライドさせるようにして加賀の首を狙う。それに対し、加賀は首元に赤黒い剣を持って行き、防御を望んだ。
直後。加賀の首を狙おうと体を少し上に傾けて、斬りあがると同時に体が浮く瞬間。
加賀が予測していた軌道とはまた違う軌道で向かってきていた。それは、本来首狙いだと思っていた攻撃は、なんと加賀の横っ腹狙うものに変わっていたからだ。
「!?」
・・・何故。先ほどは左から右へと切り上げる形でスライドさせていた。しかし、今はどうだろう。
左手の短剣は逆手。それは変わらない。だが、首にあたる直前。不意に、左から右だった軌道が
「右から左への、切り下げの形になっている?!」
そう、その通り。
「正解」
と、山本は加賀の剣が防御を待つ首元ではなく、左手の逆手を右から左へ突き刺し、傷口を広げるように、「腹を切り裂いた」
無残にも、体の中心が裂かれ、まるで木の伐採のように、残った左の腹へと体重がかかり、そのまま崩れた。
その時だ。二人へと通達が来た。
「加賀 河割さんが戦闘不能になりました」
うーん、なんか真剣勝負じゃなくて、道具を使われたのは何か引っかかる。そう思いながら、加賀は転送された。
放課後。授業、帰りの会も終わり、帰れる。そう思い寮へと足を向けたとき。加賀の目の前には一人の女子が立ちふさがっていた。彼女は、眉が吊り上り、腰まである長いストレートの黒髪を持っていた。
・・・髪乾かすの大変そうだなあ
そう思っていると、女子が
「ねえ、約束覚えてる?」
「イイエ、ナンノコトヤラ」
彼女は右脚を地面に強くたたきつけ、
「まさか、忘れたなんて言わせないわよ?」
「ああー、おもいだしたー!裏実験部のことだねー?」
そう、と言いながら彼女は胸ポケットにかかっていたボールペンと、制服の内ポケットからたたまれた紙を取出し、加賀に渡す。
それをしぶしぶ受けとり、開く。衝撃の事実に思わずそのまま読んだ
「入部届
部活名:裏実験部
氏名:
サイン:
」
あのー、と小さく問いかける
「これは裏実験部の入部届では・・・」
その時、今までに見たことのないような笑顔が、厳しそうな性格の彼女の顔に取りついた。
「書いてね♥」
「え、あ、ちょっ」
こうして、加賀は裏実験部へと入部させられることとなり、後にそれが結衣に伝わり、先輩である、一年でない結衣も入部したことから、裏実験部は存続という形となった。
めでたしめでたし
「あれ?ちょっと、、、今回の戦闘のあの最後。なんで攻撃の軌道が逆になったんだ?」
「実は、壁とか床がなくても、魔力で宙に障壁を作って踏み台を作れるようにしたの」
「え?」
「じゃなかったら、平行方向に進んでいたあの体をどうやって上に、しかも切り上げる力がてにはいるってのよ」
「あー」
「あと、最初の質問。軌道を逆にしたのは、双長銃と同じで魔力による遠隔操作で、「攻撃が右に向かうのを左に向かうように操作した」の。つまりあとは握ってるだけで方向が逆になるってわけよ」
「うーん」
「あと、途中。音がしなかったときあったでしょ?あれが私の固有魔術。自分の出す音が消せるの。でも、剣にあたった時の摩擦音とかは消せない」
「なんか・・・後付けみたいだね」
「そうよ、後付けだもの。まあ、裏実験部に入ったから、これからそういうことができるようになるよ」
再び満面の笑みとなった山本をみた加賀は、仕方ないか、と妥協したのだった。
その後、裏実験部顧問に入部届けを渡した加賀と結衣。
しかし、結衣はやる事がある、と言って帰ってしまったので、山本と加賀は二人で、部室へと廊下を歩いていた。
その時、加賀は気づいた、それは、
「なんかさ、入学してから一年もたってないからかも知んないんだけど。一度もこんな所、来たことないんだが・・・」
それは、校舎の端の端。それも、廊下に不自然なほどにボロボロの横にずらすタイプの木の扉。そしてその扉の真ん中に書いてある文字を声に出すと同時に紹介っぽく山本はアレンジしてみた。
「ようこそ、新入部員。加賀 河割。歓迎するよ」
後ろ手に彼女は扉を開ける。加賀を先に入れるようにして自分も入り、扉を手で閉めると、その空間は真っ白で何もない、ただの部屋。例えようとも、無、ただそれしか言えないほどに、白くて何もない空間だった。
「あのー、裏実験部って、いつ、お引越ししたんですか?」
見た感じ、開発するような道具も材料もない。
「いやあのね、実は・・・」
彼女が、黙った直後。部屋が暗くなる。
「うわっ!?なんでいきなり?!」
急に暗くなって、ブレーカーでもおちたのか?、と思った加賀であったが、次の瞬間、とても先ほどのような無の空間とは思えないものになっていた。それは
「我が部。否、私が今までに作った試作品、全三十七種。」
そう、先ほどと白い空間、というところは変わっていない。しかし、大量の武器が床、山本と加賀を避けるようにきちんと置かれていた。
「な、なんかすげえなあ」
「いやー、非公式でしかも学校で取り扱う魔術に水をさすような武器ってバレたら面倒だから、部員がこの部屋に来てから三十秒経つと自動的に実験できるように部屋ごと変えたんだ」
部屋ごと、というところに加賀は、ものすごい技量を感じた。一体、山本は何者なのだろうかと
「山本さん。何故、そんな技量を持っているんだ?」
そりゃねえ、と苦笑いで
「この学園のシステムや魔術回路を指揮している最高責任者が私の父だからよ」
は、
「え、じゃあ山本さんはその娘で、そんな技量を?」
ふふふ、と彼女は笑い、
「それ以上の私話は、私に勝ったら教えてあげる」
「負けたら?」
「実験される側になる・・・」
「よおおっし!頑張るぞー」
でも、と、加賀は
「さっきの授業みたいに、試作品を何個も使うのはずるいよ。だから、一個にしてくんない?」
あらあら、と
「女の子にそんなハンデ頼むなんて、自信ないの?まあいいわ、じゃあ、これも試作品段階なんだけど」
彼女は武器の寝転がる床をやり過ごしながら、部屋の隅へと進む。そこには、部屋の白と保護色になっていて気づかなかったが、扉があった。
それは先ほどと違って、自動ドアで上へと上がっていった。その先へと二人は進んでゆく。
そこには、
「街か?!これ」
普段は寮生活なので見ないが、そこには、信号や道路、横断歩道、家、電柱、駅、店などが多数ある街の風景があった。
「父の技術を盗んで作った模擬戦闘街」
「は、はあ」
そのとき、確かに加賀の体は反応していた。それは
「体が、軽い?!しかも何だこれ身体能力が格段に上がっている!」
加賀は、跳ねたり、走ったり、電柱を殴ってみたりする。その答えとして、軽くジャンプしただけで余裕に一メートルを縦に超え、いつもはバテる体力も今ではずっと走れるよう。おまけに速い。殴った電柱は素手にもかかわらず、ヒビが少し入った、そしてフィードバックの痛みもない。
「なんだよこれ!すげぇ!」
あまりの現実との違いさに、この空間への感動を山本に伝える。すると、山本は腰から一本の立方体を出す。
「私の武器はこれ」
その立方体は彼女の手に収まるぐらいだった。それは宙に浮き、この女の手のひらでくるくると回る。
「そっちの武器は?」
もちろん、
「この剣さ」
自分は小さい球体を剣に変形させてから、
「というか、そんな立方体。どうすんの?」
それに応えると同時に、立方体を上に投げた。
「まあ、戦ってみればわかるわよ」
上に投げた立方体は下へと今落ちてゆく。その立方体が彼女の胸の高さに落ちた時。それをバックハンドの右平手で叩いた。ゆっくりとそれが加賀の方へと飛ぶ過程。二人の距離十メートル。彼女は払ったあとの右手を宙で円を描くようにして回した。
加賀は飛んできた立方体への対処を考える。
・・・そのままこっちのコアを狙う、一直線の攻撃。
その立方体は未だ真っ直ぐ進み、加賀への距離五メートルの地点で、形を崩し、
加速した。
「!?」
加速した立方体は形を崩して、幾本のナイフのような形に分裂し、今はもう加賀へと三メートル。
急ぎ手に持った赤黒い剣は右手が上、左手が下で、そのまま上に上げ、右上から左下へと下げるようにして払い落とそうとする。その時だった。
幾本ものナイフは、まるで、海を泳ぐ魚の群れのように乱れぬまま、右へと動いた。
その右に曲がった群れは、次に左斜めにゆき、下へ、また右へと、回転しながら動く。その動きは先ほどの山本の手の動きと同じだった。
現在、右上から左下へと向う加賀の剣は、全く持って無意味になる。
まるで避けるように回転したドリルのようなナイフは加賀の左肩を落とす、筈だった。
いつも使う重い剣だが、今は違う。まるで自分の体のようにも思える剣。加賀の正面で表すと、今、加賀は右上から左下へと斜めに振ろうとしていた。しかし、その軌道を避けて、ナイフは、加賀の左肩を左下からアッパーするように斬りかかる。それに対して加賀が行ったのは、右手を剣から離したのだ。そして、左手は中指と人差し指でグリップの左面を、親指で右面を挟むように持った。前へと進む力で、左手を中心に剣は縦に旋回。そのまま旋回した剣を再度、加賀が取ると、それは逆手の構えとなっていた。
しかし、今から逆手で斬り上げるも、突こうにも、もう間に合わない。だから、この空間でのみでできた、逆手でもったグリップの先端部分を人差し指と中指で強く弾いた。その弾かれ、飛んでいった剣は、ナイフの群れへと相対する---------------
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