好きな人がいまして

幸輝

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恋愛相談

反応

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「い、いや……わかりました。実は、好きな人がいて、同じことをその好きな人にも突っ込まれたことがあったので、驚いたんです」
「あー、溜め息のこと?」
 彼は、こくりと一つ頷き、俺は、もう一度笑ってやる。
「そうなのかー! ま、聞いてて良いもんじゃないからなぁ、溜め息!」
「はい……そうも注意されました」
 うなだれながら、でも、その時のことを思い出したのか少し嬉しそうに彼は言った。
 やっとまともな会話ができ、俺はグイッと顔を近付け、小声で問う。
「で? その人は、年上? 年下?」
「一回り上です」
「おぉ、すごい! それは相手的には、そろそろゲットしなきゃいけない年だな」
「そうなんですよ……」彼は遠い目をする「最近、マッチングアプリしてみようかなぁ、とか、お見合い今の時代もあるかなぁ、とか逆に相談されるくらいで」
「それはやべーじゃん! 急がないと!」
 彼は、また溜め息をついて弱音を吐く。
「でも、俺のことはいい友達としか見てくれてなくて、恋愛対象の眼中ではないんですよ……」
「まぁ、年がそんなに離れてたら、そう思っちゃう気もわからなくないけど……」
「年だけの問題でもないんですよ……」
 彼は言葉を濁す。
「住んでる所とか? 職業の問題とか?」
「まぁ、それは……追々ってことで」
 彼は読んでいた本を持って席を立つ。
「えー……言ってくれなきゃ俺もアドバイスできないよー?」
「いいんです!」
 せっかく面白くなってきたところなのに、彼はピシャリといい放った。
 彼はカウンターの上に本を一冊置く。
「今日は本当に時間ないので、これだけ借ります!」
 俺も駄々はこねずに、はーい、とカウンターに向かい、業務を行う。
「まーたこんな恋愛物を」
 彼は、くっ!、と言葉を詰まらせ、若干頬が赤くなる。
「一々それ言ってきて、文句でもあるんですか!?」
「いいやー? からかってるだけだよー」
「訴えますよ」
「ごめんなさい」
 奪い取るように本を持ち、彼は去ってしまった。
「失礼しました」
 まだ梅雨は続いていたが、時たま晴れ間を覗かせることがあった。
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