好きな人がいまして

幸輝

文字の大きさ
11 / 11
好きな場所

図書室

 俺はカウンター彼の元へ向かうと、俯いていて、机にまたポタポタと雫が数滴落ちた。
 ポリポリと頬を掻いて、俺は彼に声をかける。
「……行っちゃったな」
 彼は一度頷く。
「ありがとうございました」
「いやいや、びっくりして何回か声を出しちまって、ごめんな?」
「いいんですよ」
 彼は涙を袖で拭き取り、俺の顔を見る。その目には涙とは違う光が宿っていた。
「あの、もう一つ頼みがありまして」
 その表情には人間味があり、俺は腕を組んでその頼みを聞く。
「見届け人のはまた別にか? 何?」
「これからも、ここに通ってもいいですか?」彼ははにかむ「ここ、好きになりました」
 俺はいきなりの申し出に、もちろん、と返事をする。
「ここは公共施設だし、許可なんていらないでしょ」
 俺は彼の向かえの席、先程おじさんが座っていた席に座る。心なしか脂っぽく感じた。
「それに、俺の暇潰しになるしな!」
 彼は、にっこり笑った。初めて彼の本当の笑顔を見た気がする。
「それは、これからも俺と絡んでくれるんですよね?」
「まぁ、ここまで仲良くなったし、これからも仲良くしていきたいしな!」
「あぁいう人が好きでも?」
 あぁいう人、というのは、きっと小太りおじさんのこと指しているのだろう。
「あー、さすがに最初は驚いたけど、人の好きなものを否定はしないし、俺の知らないあの人の一面を見て好きになったんだろうし……」
 必死に言葉を選びながら喋る俺に、彼は吹き出した。
「ありがとうございます、それならよかったです」
 ストレートヘアの髪を指先でいじりながら、彼はボソッと呟く。
「本当に……好きになれそうです……」
「へ? 何か言った?」
 あまりの小声で俺は聞き取れず、彼に聞き返したが、彼は笑顔のまま答える。
「いいえ? なーんにも!」
 無邪気に、そう言った。
「えーっと、今更ですが、司書さんの名前は……」
 俺は服についている名札を見せてやる。
「ホシだ」
「ホシさんですね、俺は……」
「ショウタだろ? 会話聞いてたら分かったよ」
 ショウタは目を細めて優しく笑いかけてくれる。
 色々な恋があるけれど、今回それが実らなかっただけ。
 でも、今の彼の晴れ渡った表情は、梅雨明けした今日の青空のようだった。
 図書室に、夏の強い日差しが差し込んでいた。
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

蝋燭

悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。 それは、祝福の鐘だ。 今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。 カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。 彼女は勇者の恋人だった。 あの日、勇者が記憶を失うまでは……

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。