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楽をして生きるために俺は努力する
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楽をして生きるために、王都へと旅立ったはずの俺だったが、なぜか王国最強の剣士になるために流浪の旅をするという超絶ハードモードへと移行していた。
これも、魔王を討伐した勇者と王様のせいだが、文句を言ったところで現実は変わらないからしょうがない。
努力なんて言葉大嫌いだが、公爵家の剣術指南役の座を手にいれて楽をするため、ここは己を殺して努力するしかないようだ。
だが、俺は剣など握ったことなんてない、素人だ。
強くなる方法すら分からない。どうすればいいか、悩んでいるとき、風の噂であることを聞いた。
神樹の麓に世界最強の剣士、聖剣チャンバラ様がいると。そこでチャンバラ様はいつも神樹を守っていて、危害を加えようとする者を成敗しているらしい。何故そんなことをしているのか分からないが、神樹は昔からこの世界に欠かせないものと言われており、天まで伸びるその木がもし倒れてしまった場合、この世すべての植物が枯れてしまうと言い伝えられている。
一時期は魔王軍が神樹を倒そうと躍起になっていたが、聖剣チャンバラ様があまりにも強すぎて、ついぞ手を引いたとかなんとか。
この話を聞いた時は運命だと思ったね。師匠を探すなら強ければ強いほどいいに決まっている。相手は世界最強、そこで修行すれば5年で王国最強なんて余裕に決まっている。俺はその噂話を信じて、神樹を目指して旅を急いだ。
そして、その男はいた。
文字通り、天まで昇る巨大な樹の麓にたった一人座して佇んでいた。俺は弟子になりたいという思いだけで、他には特になにも考えずにここまできてしまったので、咄嗟に大声で叫んでしまった。
「聖剣チャンバラ様、俺を弟子にしてください!!」
俺の声が聞こえたのか、チャンバラ様はゆっくりと目をみひらいて立ち上がった。正直、こんなお願い無視されると思っていたから、予想外の反応にこっちが驚いてしまった。もしかて案外簡単にイケちゃうんじゃねと内心ほくそえむ。
しかし、それは一瞬で後悔へと変わることになった。
チャンバラは立ちあがると、おもむろに腰の剣に手を伸ばした。そして、あろうことか神樹に向かって目にも止まらぬ速さで一太刀浴びせやがったのだ!!!
「ええええええええええええ!!???」
俺はツッコミどころが、多すぎて開いた口が塞がらなかった。
なんで、神樹を守る聖剣様が普通に神樹斬っちゃってんの!?つーか、どうやったら幹だけで数キロメートルありそうな樹が半分まで斬れるんだよ!
意味わからない無茶苦茶じゃねえーか!
しかも、本人は今日も切れなかったか、とか小声でぼやいているぅぅぅ!まさかの常習犯だった。
目の前の現実に、俺の防衛本能が最大限に警鐘を鳴らす。
このジジイは危険すぎる。なにがヤバいって倒れたら世界が滅ぶと言われている神樹を躊躇いもなく斬っちゃてるところだ。あれか、我が剣に切れぬものはない的なやつをまじでやっちゃってる系剣士ですか!?
こんなやつの弟子になったら、神樹ごとぶった斬られるか、誰かに通報されて神樹を斬った罪で捕まえられ斬首刑だ。どっちに転んでも体が真っ二つになっちまう。
俺が即座に踵を返そうとすると、チャンバラとかいう変人がそれを制すように、ハッキリと明瞭な声で言った。
「お前を弟子にしよう」
「·················いや、チャンバラ様の剣技を目の当たりにしたら、自分が弟子入りなんて烏滸がましいなと身にしみてわかったんで結構です」
「いや、構わない。弟子にしよう」
「·····いやいや、自分なんぞじゃチャンバラ様の才能の足元にも及ばないのがよく分かったので結構です」
「いや、確かにお前からは才能をそこまで感じないが、俺様とて最初から剣を振るえたわけじゃない。長い修行の末にここまでこれたのだ。ゆえにやる前から諦める必要はない」
「いやいやいや、良く言うじゃないですか、自分の体のことは自分が一番わかってるって。それと一緒すよ、自分の才能は自分が一番わかってるんで」
「いや、そんなことはない。俺様はむしろお前からただならぬ気配をビンビンに感じてきたぞ。ぶっちゃけ俺様より才能あるかもしれない」
「いやいやいやいや、なんですかそのシックスセンスみたいなの。もうあれじゃないですか、老衰で五感が狂って暴走してるだけですよ。そもそも、聖剣ともあろう方が簡単に弟子とかとろうとしてんじゃねーですよ。こっちは1度も剣を握ったねぇーんだぞっすよ!?」
「いや、むしろその方が変なクセなくていいよね。てかそろそろ俺様も老衰でつい手が滑って見境いなく色々切っちゃいそうな気分だわ。相手が弟子とかだったら流石に切らないと思うだけどなぁ」
おいー!!!
ふざけんなよ、クソジジイ!!
どんだけ弟子欲しがってんだよ!
弟子にならないと見境なく斬るってどういうことだよ、あんた既に見境なく神樹斬っちゃてるから!!!!!!!
後悔先に立たずとはこのことだろうか。
こんな馬鹿げたジジイでも実力は本物なのはハッキリしてる。いまさら逃げようとしても殺されるだけだろう。ならばと俺は腹に力を込めて自分の運命を呪いつつも覚悟をきめた。どうせ王国最強剣士になるんだ。その為の一番の近道に俺は立っている。このピンチを乗り越えれば最高のチャンスが開けるはず。どちらにせよ俺に残された道はもう1つしか残されていないのだ。
「なにとぞ、お手柔らかにお願いします、師匠」
師匠に弟子入りして、はや5年目、俺は卒業試験を受けることになった。
師匠との訓練は過酷を極めた。時には文字通り剣でぶったぎられたことだってある。最初からわかっていたことだが、師匠は頭がぶっ壊れた狂人だった。
神樹を守る番人なんて、大嘘で、むしろ毎日いかにすればこの神樹を斬れるか考えているサイコパスだ。
番人なんて呼ばれている理由は、魔王軍が神樹に近づこうとする度に、こいつは俺の獲物だと言って片っ端から切り伏せていたからに他ならない。ちなみに神樹はいまだに倒れていない。この木はどうやら自己再生機能を持ち合わせているらしく、中途半端に切ったところで、すぐに回復して元通りになってしまう。
とはいえ、倒れたら世界が滅びてしまうと言われている神樹を毎日毎日、剣を突き立てている師匠こそ本物の魔王なんじゃないかと、俺は常々思っている。はやく勇者様が現れて、我が師匠を正義の名の元に引きずり出し、盛大にぶち殺してくれないかと淡い期待を寄せているうちに、いつのまにか5年もの時が過ぎてしまった。
そして、俺はその悪の化身チャンバラに向かって剣を構えている。今日は修行の最終日、師匠と模擬試合をして一太刀でも入れられば俺は晴れて卒業となり、このつらい訓練から抜け出すことができる。
模擬試合とはいえ、つかう得物は真剣だ。
一歩間違えば命だって落としかねない。だからこそ、殺す気でいかなければこっちが殺される。
「さぁ、修行の成果をみせてみよ!」
「いくぞ、クソジジイイィィ··チェストォォォ!!」
俺は全力で最速の一撃を師匠に向かって放つ。
正直、まともにやれば100回戦って100回とも俺が負けるだろう。そのくらい俺と師匠の間には大きな壁がある。たが勝つ必要は最初からない。たった一太刀さえ、かすらせることが出来ればそれでいい。なら勝機はある。
師匠はもういつ死んでもおかしくないくらい歳だ。
全盛期に比べたらきっとその動きは半分にも満たないはず。スピードも力も圧倒的にこちらが上だ。ゆえに俺は最初の一撃にすべてを賭けた。
鍛えあげられて俺の足腰は爆発的な推進力を生み、一瞬で師匠に肉薄する。そして剣を振るった瞬間に俺は悟った。
スピードも、力もこちらがうえなのに、師匠の技術はそれらすべてを覆す。師匠の目は俺の動きを完璧にとらえており、カウンターを放つのに最適な位置へ剣を移動させている。
俺はもう動きを止めることなんて出来ない。
負けた·····俺がそう感じた時、目の前が真っ赤に染まった。
それはおびただしい量の血だった。
まじかよ、俺ってばこんなところで死んじまうのかよ、、
だんだんと意識が薄れ行くなかで俺は自分の人生を振り替えっていく。これが走馬灯ってやつか。こんなことなら、剣なんか持たないでずっと田舎で畑仕事してた方がずっと楽だったんじゃないかと思う。田舎で親の臑齧りながらグータラして生活する道もあったはずだ。なんだってこんな苦労して、あげくのはてにイカれたジジイに殺されなきゃならないんだ。
もしくは、折角魔王を倒して戦争が終わったのだから、世界各地を宛のない旅でもして気軽るに生きてればよかった。路銀なんて物乞いでも、大道芸でもしてればどうにかなるだろーし、ああ、そう思ったら後悔しかないな俺の人生。
もし、次の人生があったら俺は今度こそ楽をして生きよう。
王国最強の剣士なんてそもそも目指す必要なかったんだ。街で一番の剣士あたりを目指して頑張れば、地方貴族の剣術指南役くらい余裕でなれたはずなのに··········
てか、走馬灯長くね?いつ終るのこれ。
俺はいつまでも倒れない自分の体に気がついて恐る恐る目をあけた。するとそこには信じられない光景が広がっていた。
「ジ、ジジイ!!?」
「ふん、やっと目を覚ましたか、人のことを斬っておいて目の前で死んだふりをするとは、お前は相変わらず常識知らずよのぉ」
なんと、師匠が大量の血を流しながら、地面に倒れ伏していた。俺は咄嗟に自分の体を見下ろしたが、どこにも斬られた後はなかった。どうやら返り血を浴びただけのようだ。
「てっきり斬られたの俺の方だと···」
「······ふん、俺様も老いたよなぁ、こんな小童に斬られて死んじまうとは」
師匠はそう言うと、遠い目をしてなにもない綺麗な青空を見つめる。
「この世に斬れぬ物はないと信じ、邁進してきた我が剣の道だったが、結局このクソみたいな木を1度も斬ることができなかった。そればかりか、どうやら最後の最後に斬れないものをまたひとつ見つけちまったらしい。ふっ、剣士失格だなぁ」
そう言って師匠は俺をみつめた。
え、なにこれ。なにいってんのコイツ。
斬れないものって、もしかして俺のこといってんの?
いやいや、つい昨日普通に斬られたばかりなんだけど。
師匠、無理矢理いい空気感だそうとしているけど、俺達の間にはそんな師弟関係なんて、何もなかったよ?本気で毎日殺しあいしてただけだと思ってたんだけど····
俺はどことなく嫌な予感がして冷や汗が流れた。
どうにかこの空気を壊さないと、きっとろくでもないことがおこると直感で思ったが、流石に5年間剣を教わったジジイの死に際に、俺ができる抵抗なんてなにもなかった。
「オメェ、俺様がなんでこの木を斬ろうとしてたか知ってるか?」
「········いえ」
「だろーな、このことを知っているのは俺様を含めて世界で数人だろう」
「なるほど、そんな大切な機密は墓場まで持っていった方がよろしいのでは?」
「ふ、なぁにそんな大層なもんじゃねぇよ。世界を守ってると言われている神樹が、実は世界を破壊しようとしている凶悪なモンスターだってくらいで···」
「滅茶苦茶たいしたことあるじゃねぇぇぇか!」
宗教問題まで発展するぞクソジジイ!!
やべぇよ、俺そんな秘密知りたくなかった。もしかして、俺がこのヒミツ知ってるのバレたら命とか狙われるやつ!?
最後の最後でなんでこんな爆弾落とすのこいつ?殺そうか?
「まぁ、そんなに慌てるなよ。お前ならきっとこの神樹を切れるさ」
「いや、斬らねぇよ?、俺はこのまま王都に帰って悠々自適に過ごすんだから」
「いいか、こいつを斬るためには一撃じゃだめだ。回復する間も与えないほどの連続攻撃が必要だ。本来なら俺がやる役目だったが、もうこの歳ではそこまでの体力が残ってなかった。だから俺の跡を継ぐために、お前はここにきたんだ」
「あのー、話きいてます、斬りませんよ?」
「·················俺様にはな、かつて最愛の息子がいたんだ」
「いや、さっきから無理矢理いい話感だすのやめてくれますか?」
俺はなんとかジジイの暴走をとめようとしたが、止めるまもなくジジイは語りはじめてしまった。聞いちゃダメだ、聞いちゃダメだ、と本能が俺に言い聞かせてくるが、自分が切った相手の最後の言葉に耳を傾けないわけにもいかなった。
「俺様はもともと、しがない農家を営んでいた普通の男だった。剣だって握ったことのないどこにでもいる男で、愛する妻と息子のために、毎日畑をいじって暮らしていた。つらい仕事だったが幸せな時間だった。
こんな、時間が永遠に続くと馬鹿な俺は信じていたのさ。無理もねぇ、あの事件は突然起こったんだ。世界飢饉、おめーも聞いたことがあるだろ?世界中の作物が急に枯れて育たなくなってしまったあの悪魔の事件だ。そのせいで、食べるものがなくなり動物も含め、多くの人間が死んでしまった。
息子も妻もこの時死んでしまった。俺は泣き崩れてどうしたらいいか分からなかった。できることは全てした。肥料を変えて、作物を変えてありとあらゆることを試してみたが無駄だった。なにをやっても全部枯れてしまう。こんなことは初めてだったから俺は過去の文献をひたすら読み漁った。するととんでもない事実が発覚したのさ。
世界飢饉は、一定周期でおこってやがった。それもはるか太古からな。俺は必ずなにか要因があると踏んで必死に調べた。そして、答えを見つけた。世界飢饉の周期は神樹が実をつける周期と完全に一致していたんだ。
まさに青天の霹靂だった。神が使わした世界の守り手と崇められていた神樹が、よもや俺様の愛する者を奪った犯人だとはな。
それに気がついた俺は、握ったこともない剣を手に取り決意したのさ。なんがなんでもあの忌々しい樹をぶったぎってやるってな。
まぁ、それももう叶わぬ夢だがな。もうこの体じゃ剣を握れやしねぇ。願わくば自分の手で斬ってやりたがったが·········ふん、後悔はねぇさ。
俺がやらなくても、もうこの意思は託したんだからな。あとは頼むぞ、俺様の最初で最後の·······そして最愛の·······弟子よ···ぐは」
「死ぬなぁぁ馬鹿ジジイィィ!!!なんちゅう死にかたしてんだよ!!?いまの話の流れからして、滅茶苦茶断りづらいやつだよねこれ?え、俺これやらなきゃダメなの!?神樹きるとか普通に打ち首ものなんだけど!?まじで?ぁぁうそだろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
これも、魔王を討伐した勇者と王様のせいだが、文句を言ったところで現実は変わらないからしょうがない。
努力なんて言葉大嫌いだが、公爵家の剣術指南役の座を手にいれて楽をするため、ここは己を殺して努力するしかないようだ。
だが、俺は剣など握ったことなんてない、素人だ。
強くなる方法すら分からない。どうすればいいか、悩んでいるとき、風の噂であることを聞いた。
神樹の麓に世界最強の剣士、聖剣チャンバラ様がいると。そこでチャンバラ様はいつも神樹を守っていて、危害を加えようとする者を成敗しているらしい。何故そんなことをしているのか分からないが、神樹は昔からこの世界に欠かせないものと言われており、天まで伸びるその木がもし倒れてしまった場合、この世すべての植物が枯れてしまうと言い伝えられている。
一時期は魔王軍が神樹を倒そうと躍起になっていたが、聖剣チャンバラ様があまりにも強すぎて、ついぞ手を引いたとかなんとか。
この話を聞いた時は運命だと思ったね。師匠を探すなら強ければ強いほどいいに決まっている。相手は世界最強、そこで修行すれば5年で王国最強なんて余裕に決まっている。俺はその噂話を信じて、神樹を目指して旅を急いだ。
そして、その男はいた。
文字通り、天まで昇る巨大な樹の麓にたった一人座して佇んでいた。俺は弟子になりたいという思いだけで、他には特になにも考えずにここまできてしまったので、咄嗟に大声で叫んでしまった。
「聖剣チャンバラ様、俺を弟子にしてください!!」
俺の声が聞こえたのか、チャンバラ様はゆっくりと目をみひらいて立ち上がった。正直、こんなお願い無視されると思っていたから、予想外の反応にこっちが驚いてしまった。もしかて案外簡単にイケちゃうんじゃねと内心ほくそえむ。
しかし、それは一瞬で後悔へと変わることになった。
チャンバラは立ちあがると、おもむろに腰の剣に手を伸ばした。そして、あろうことか神樹に向かって目にも止まらぬ速さで一太刀浴びせやがったのだ!!!
「ええええええええええええ!!???」
俺はツッコミどころが、多すぎて開いた口が塞がらなかった。
なんで、神樹を守る聖剣様が普通に神樹斬っちゃってんの!?つーか、どうやったら幹だけで数キロメートルありそうな樹が半分まで斬れるんだよ!
意味わからない無茶苦茶じゃねえーか!
しかも、本人は今日も切れなかったか、とか小声でぼやいているぅぅぅ!まさかの常習犯だった。
目の前の現実に、俺の防衛本能が最大限に警鐘を鳴らす。
このジジイは危険すぎる。なにがヤバいって倒れたら世界が滅ぶと言われている神樹を躊躇いもなく斬っちゃてるところだ。あれか、我が剣に切れぬものはない的なやつをまじでやっちゃってる系剣士ですか!?
こんなやつの弟子になったら、神樹ごとぶった斬られるか、誰かに通報されて神樹を斬った罪で捕まえられ斬首刑だ。どっちに転んでも体が真っ二つになっちまう。
俺が即座に踵を返そうとすると、チャンバラとかいう変人がそれを制すように、ハッキリと明瞭な声で言った。
「お前を弟子にしよう」
「·················いや、チャンバラ様の剣技を目の当たりにしたら、自分が弟子入りなんて烏滸がましいなと身にしみてわかったんで結構です」
「いや、構わない。弟子にしよう」
「·····いやいや、自分なんぞじゃチャンバラ様の才能の足元にも及ばないのがよく分かったので結構です」
「いや、確かにお前からは才能をそこまで感じないが、俺様とて最初から剣を振るえたわけじゃない。長い修行の末にここまでこれたのだ。ゆえにやる前から諦める必要はない」
「いやいやいや、良く言うじゃないですか、自分の体のことは自分が一番わかってるって。それと一緒すよ、自分の才能は自分が一番わかってるんで」
「いや、そんなことはない。俺様はむしろお前からただならぬ気配をビンビンに感じてきたぞ。ぶっちゃけ俺様より才能あるかもしれない」
「いやいやいやいや、なんですかそのシックスセンスみたいなの。もうあれじゃないですか、老衰で五感が狂って暴走してるだけですよ。そもそも、聖剣ともあろう方が簡単に弟子とかとろうとしてんじゃねーですよ。こっちは1度も剣を握ったねぇーんだぞっすよ!?」
「いや、むしろその方が変なクセなくていいよね。てかそろそろ俺様も老衰でつい手が滑って見境いなく色々切っちゃいそうな気分だわ。相手が弟子とかだったら流石に切らないと思うだけどなぁ」
おいー!!!
ふざけんなよ、クソジジイ!!
どんだけ弟子欲しがってんだよ!
弟子にならないと見境なく斬るってどういうことだよ、あんた既に見境なく神樹斬っちゃてるから!!!!!!!
後悔先に立たずとはこのことだろうか。
こんな馬鹿げたジジイでも実力は本物なのはハッキリしてる。いまさら逃げようとしても殺されるだけだろう。ならばと俺は腹に力を込めて自分の運命を呪いつつも覚悟をきめた。どうせ王国最強剣士になるんだ。その為の一番の近道に俺は立っている。このピンチを乗り越えれば最高のチャンスが開けるはず。どちらにせよ俺に残された道はもう1つしか残されていないのだ。
「なにとぞ、お手柔らかにお願いします、師匠」
師匠に弟子入りして、はや5年目、俺は卒業試験を受けることになった。
師匠との訓練は過酷を極めた。時には文字通り剣でぶったぎられたことだってある。最初からわかっていたことだが、師匠は頭がぶっ壊れた狂人だった。
神樹を守る番人なんて、大嘘で、むしろ毎日いかにすればこの神樹を斬れるか考えているサイコパスだ。
番人なんて呼ばれている理由は、魔王軍が神樹に近づこうとする度に、こいつは俺の獲物だと言って片っ端から切り伏せていたからに他ならない。ちなみに神樹はいまだに倒れていない。この木はどうやら自己再生機能を持ち合わせているらしく、中途半端に切ったところで、すぐに回復して元通りになってしまう。
とはいえ、倒れたら世界が滅びてしまうと言われている神樹を毎日毎日、剣を突き立てている師匠こそ本物の魔王なんじゃないかと、俺は常々思っている。はやく勇者様が現れて、我が師匠を正義の名の元に引きずり出し、盛大にぶち殺してくれないかと淡い期待を寄せているうちに、いつのまにか5年もの時が過ぎてしまった。
そして、俺はその悪の化身チャンバラに向かって剣を構えている。今日は修行の最終日、師匠と模擬試合をして一太刀でも入れられば俺は晴れて卒業となり、このつらい訓練から抜け出すことができる。
模擬試合とはいえ、つかう得物は真剣だ。
一歩間違えば命だって落としかねない。だからこそ、殺す気でいかなければこっちが殺される。
「さぁ、修行の成果をみせてみよ!」
「いくぞ、クソジジイイィィ··チェストォォォ!!」
俺は全力で最速の一撃を師匠に向かって放つ。
正直、まともにやれば100回戦って100回とも俺が負けるだろう。そのくらい俺と師匠の間には大きな壁がある。たが勝つ必要は最初からない。たった一太刀さえ、かすらせることが出来ればそれでいい。なら勝機はある。
師匠はもういつ死んでもおかしくないくらい歳だ。
全盛期に比べたらきっとその動きは半分にも満たないはず。スピードも力も圧倒的にこちらが上だ。ゆえに俺は最初の一撃にすべてを賭けた。
鍛えあげられて俺の足腰は爆発的な推進力を生み、一瞬で師匠に肉薄する。そして剣を振るった瞬間に俺は悟った。
スピードも、力もこちらがうえなのに、師匠の技術はそれらすべてを覆す。師匠の目は俺の動きを完璧にとらえており、カウンターを放つのに最適な位置へ剣を移動させている。
俺はもう動きを止めることなんて出来ない。
負けた·····俺がそう感じた時、目の前が真っ赤に染まった。
それはおびただしい量の血だった。
まじかよ、俺ってばこんなところで死んじまうのかよ、、
だんだんと意識が薄れ行くなかで俺は自分の人生を振り替えっていく。これが走馬灯ってやつか。こんなことなら、剣なんか持たないでずっと田舎で畑仕事してた方がずっと楽だったんじゃないかと思う。田舎で親の臑齧りながらグータラして生活する道もあったはずだ。なんだってこんな苦労して、あげくのはてにイカれたジジイに殺されなきゃならないんだ。
もしくは、折角魔王を倒して戦争が終わったのだから、世界各地を宛のない旅でもして気軽るに生きてればよかった。路銀なんて物乞いでも、大道芸でもしてればどうにかなるだろーし、ああ、そう思ったら後悔しかないな俺の人生。
もし、次の人生があったら俺は今度こそ楽をして生きよう。
王国最強の剣士なんてそもそも目指す必要なかったんだ。街で一番の剣士あたりを目指して頑張れば、地方貴族の剣術指南役くらい余裕でなれたはずなのに··········
てか、走馬灯長くね?いつ終るのこれ。
俺はいつまでも倒れない自分の体に気がついて恐る恐る目をあけた。するとそこには信じられない光景が広がっていた。
「ジ、ジジイ!!?」
「ふん、やっと目を覚ましたか、人のことを斬っておいて目の前で死んだふりをするとは、お前は相変わらず常識知らずよのぉ」
なんと、師匠が大量の血を流しながら、地面に倒れ伏していた。俺は咄嗟に自分の体を見下ろしたが、どこにも斬られた後はなかった。どうやら返り血を浴びただけのようだ。
「てっきり斬られたの俺の方だと···」
「······ふん、俺様も老いたよなぁ、こんな小童に斬られて死んじまうとは」
師匠はそう言うと、遠い目をしてなにもない綺麗な青空を見つめる。
「この世に斬れぬ物はないと信じ、邁進してきた我が剣の道だったが、結局このクソみたいな木を1度も斬ることができなかった。そればかりか、どうやら最後の最後に斬れないものをまたひとつ見つけちまったらしい。ふっ、剣士失格だなぁ」
そう言って師匠は俺をみつめた。
え、なにこれ。なにいってんのコイツ。
斬れないものって、もしかして俺のこといってんの?
いやいや、つい昨日普通に斬られたばかりなんだけど。
師匠、無理矢理いい空気感だそうとしているけど、俺達の間にはそんな師弟関係なんて、何もなかったよ?本気で毎日殺しあいしてただけだと思ってたんだけど····
俺はどことなく嫌な予感がして冷や汗が流れた。
どうにかこの空気を壊さないと、きっとろくでもないことがおこると直感で思ったが、流石に5年間剣を教わったジジイの死に際に、俺ができる抵抗なんてなにもなかった。
「オメェ、俺様がなんでこの木を斬ろうとしてたか知ってるか?」
「········いえ」
「だろーな、このことを知っているのは俺様を含めて世界で数人だろう」
「なるほど、そんな大切な機密は墓場まで持っていった方がよろしいのでは?」
「ふ、なぁにそんな大層なもんじゃねぇよ。世界を守ってると言われている神樹が、実は世界を破壊しようとしている凶悪なモンスターだってくらいで···」
「滅茶苦茶たいしたことあるじゃねぇぇぇか!」
宗教問題まで発展するぞクソジジイ!!
やべぇよ、俺そんな秘密知りたくなかった。もしかして、俺がこのヒミツ知ってるのバレたら命とか狙われるやつ!?
最後の最後でなんでこんな爆弾落とすのこいつ?殺そうか?
「まぁ、そんなに慌てるなよ。お前ならきっとこの神樹を切れるさ」
「いや、斬らねぇよ?、俺はこのまま王都に帰って悠々自適に過ごすんだから」
「いいか、こいつを斬るためには一撃じゃだめだ。回復する間も与えないほどの連続攻撃が必要だ。本来なら俺がやる役目だったが、もうこの歳ではそこまでの体力が残ってなかった。だから俺の跡を継ぐために、お前はここにきたんだ」
「あのー、話きいてます、斬りませんよ?」
「·················俺様にはな、かつて最愛の息子がいたんだ」
「いや、さっきから無理矢理いい話感だすのやめてくれますか?」
俺はなんとかジジイの暴走をとめようとしたが、止めるまもなくジジイは語りはじめてしまった。聞いちゃダメだ、聞いちゃダメだ、と本能が俺に言い聞かせてくるが、自分が切った相手の最後の言葉に耳を傾けないわけにもいかなった。
「俺様はもともと、しがない農家を営んでいた普通の男だった。剣だって握ったことのないどこにでもいる男で、愛する妻と息子のために、毎日畑をいじって暮らしていた。つらい仕事だったが幸せな時間だった。
こんな、時間が永遠に続くと馬鹿な俺は信じていたのさ。無理もねぇ、あの事件は突然起こったんだ。世界飢饉、おめーも聞いたことがあるだろ?世界中の作物が急に枯れて育たなくなってしまったあの悪魔の事件だ。そのせいで、食べるものがなくなり動物も含め、多くの人間が死んでしまった。
息子も妻もこの時死んでしまった。俺は泣き崩れてどうしたらいいか分からなかった。できることは全てした。肥料を変えて、作物を変えてありとあらゆることを試してみたが無駄だった。なにをやっても全部枯れてしまう。こんなことは初めてだったから俺は過去の文献をひたすら読み漁った。するととんでもない事実が発覚したのさ。
世界飢饉は、一定周期でおこってやがった。それもはるか太古からな。俺は必ずなにか要因があると踏んで必死に調べた。そして、答えを見つけた。世界飢饉の周期は神樹が実をつける周期と完全に一致していたんだ。
まさに青天の霹靂だった。神が使わした世界の守り手と崇められていた神樹が、よもや俺様の愛する者を奪った犯人だとはな。
それに気がついた俺は、握ったこともない剣を手に取り決意したのさ。なんがなんでもあの忌々しい樹をぶったぎってやるってな。
まぁ、それももう叶わぬ夢だがな。もうこの体じゃ剣を握れやしねぇ。願わくば自分の手で斬ってやりたがったが·········ふん、後悔はねぇさ。
俺がやらなくても、もうこの意思は託したんだからな。あとは頼むぞ、俺様の最初で最後の·······そして最愛の·······弟子よ···ぐは」
「死ぬなぁぁ馬鹿ジジイィィ!!!なんちゅう死にかたしてんだよ!!?いまの話の流れからして、滅茶苦茶断りづらいやつだよねこれ?え、俺これやらなきゃダメなの!?神樹きるとか普通に打ち首ものなんだけど!?まじで?ぁぁうそだろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
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