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 「そういえばマーロさん、麻薬捜査課のあの噂話ききました?」

「あのうわさ?」

 僕はミランダに言われて、麻薬捜査課のことを頭に思い浮かべたが、とくに気になることはなかった。

そもそも、僕にはあまり関わりあいがない所だし・・・


あるとすれば捜査課のバンティス君とは友達だ。彼は生粋の甘党だから、この前、評判のアイスを差し入れたらとても喜んでいたな。


その時もバンティン君からは、特になにも聞いてないし心当たりがない。


「知らないなー、どんな噂なの?」


聞き返すと、ミランダはあたりをキョロキョロと見渡して、テーブル越しに上半身をこちらに寄せると小声で話し始めた。屈んだせいで、膝の上にのせていたミミィがテーブルに挟まれてムギュウと小さな悲鳴をあげて潰されてしまう。



可哀想だから離してあげたら?とおもったがぼくが静止する間もなくミランダは口を開いた。


「なんでも、麻薬捜査課にとんでもないブツの情報をタレこんだ人がいたらしくて、大騒ぎらしいですよ」

「へえー、それはたいへんだね。いったいどんなものだろう」


「最近裏ルートで出回っている新種の興奮剤らしいですよ」

覚せい剤とか、そういったものかな?

どこの世界でもそういった問題は変わらないな。

僕は探偵だけど、いまだ麻薬とかそういったものは見たことがない。

僕のもとに飛び込んでくるのは、目の前の女が依頼してくるペット捜査ような物ばかりだから凶悪犯罪とは無関係だ。

そう考えると、バンティス君は日々事件と闘っているのか、羨ましい限りだ。

僕らは時々、お互いの仕事について熱い会話をBARで酒を酌み交わしながら話す仲だし、そんな友ともいうべき彼が、生き生きと仕事をしているなら、僕としては微笑ましい限りだ。

というか、なんでこの女がそんな重要な情報をしってんるんだ?


「ミランダ、それはたしかな情報なのか?」

「もちろんですよ~、なんていったて、バンティスさんに直接きいたんですから!」

「・・なん・・・だと?」


「この前、私の動物園に捜査の協力お願いしに尋ねてきてね、あっそうだ! 聞いて下さいよ、あのひと最低なんですよ。私が大切にしている動物園を見るなりなんて言ったとおもいます!?」



「あ、いや・・・」


「『ふっ、いつみてもひどい場所だな、犯罪組織となにも変わらない。今すぐにでもしょっぴきたい所だが、あいにく俺はいま忙しい。、お前とマーロさんが懇意にしてるのは知っているから、彼に免じて今回は見逃してやる』・・・ですって! 本当最低ですよね!? お願いするひとの立場とはおもえませんよ」


「・・・・・・」





「話きいてますマーロさん?」


ミランダが首をかしげて僕に問いかける。

たしかに、それはひどいとおもうが・・・・・が、ぼくはそれどころじゃなくて、ああと適当に生返事をかえすだけで精一杯だった。

 その後もミランダは一人でべらべらしゃべり続けていたが、僕にはショックのあまり耳に話が入ってこない。

バンティス君、彼のことは友だとおもっていた。遅くまで酒をのみ本音を語り合った仲のはずだ。  

この前だって、別れ際に、もし捜査に行き詰ったら助けてくれといってくれたじゃないか。

なのに・・・頼られたのは、探偵の僕を差し置いて動物園の園長・・・

僕は探偵として動物園の園長にも劣るというのか・・


現実を突きつけれた気がして、キュンとお腹がいたくなる。

たしかにこの世界のおいて、魔法、剣術、権力、戦う術のない者は圧倒的弱者だ。



麻薬を扱う犯罪組織ともなればそれ相応の武力を所持しているだろう。

そんなところに僕が飛び込んでしまえば秒で蒸発する。

最悪、人質にでもされて捜査の足を引っ張ることになるのは目に見えている。

だからこれは仕方のないことだ。


だけど、僕は心のどこかで、熱く本音を語り合ったバンティス君なら僕を頼ってくれると思っていたのに・・・


「ふっ、神よ、所詮、僕はペット探し専門の冴えない探偵ってことかい?」


「えっ、マーロさんいきなりカッコつけて何言ってんですか?」


「いや、なんでもないこっちの話だ。それよりもう遅い、僕とミミィはもう帰るとするよ」



僕は最高のカクテルに口づけをして、悔し涙とともに飲み干した。

ついでに、押し潰されているミミィを救出してあげる。


「わかりました、では今回の報酬はいつもどうり探偵事務所に振り込んでおけばいいですか?」



「ああ、それで頼む。またなにかあれば依頼を頼むよ」


僕はミランダに別れを告げて店を後にする。








 外に出ると、ケルべロス君がおとなしく座って待っていた。

三つある頭の内、二つが眠っていて、起きている奴が僕らに気がついて嬉しそうにクウーンと声をあげる。

ミミィが近づいて、自分が食べ残したエビフライをポケットからとりだしてケルべルス君に食べさせたてあげた。

「本当は明日のご飯にしようと思ってたけどあげる。ふふふ、他の子には内緒だよ?」

お互いに嬉しそうにじゃれて楽しそうだ。

 しかし、とんでもないところからエビフライをだしていたが、それ以上にとんでもないことをいってたな。

ミミィは故郷の家族に送金しているのは知っていたが、食べ残しを持ち帰るくらい、ギリギリの生活をしているとは。

僕はミミィの親御さんから彼女を預かる身として申し訳ない気がしてきた。


「ミミィ、今回の報酬は君の正式な探偵デビューとして全額ボーナスとしてあげよう!」


「え···いいんですかマーロのあにきぃ?」


ミミィは目を見開いておどろいている。

 いままではお手伝いさんとして、たいした給料は払っていなかったから驚くのもむりないだろう。

特にミランダの依頼は高額な報酬案件がおおい。


僕としても探偵事務所の運営費や従業員の給料を考えると少し痛いが、なぜかミランダの動物園は定期的に脱走するし大丈夫だろう!


「もちろんさ、それで好きなものいっぱい食べるといい」


そういうと、ミミィは顔赤くして僕に抱きついてきた。

相変わらず残念な胸だが、ミミィは妹枠みたいなものだからな。

彼女に女らしさなど求めていないのだ。


「マーロぅのあにきぃ、ありがとうございます」


僕は彼女の滑らかな髪を撫でてあげる。

嬉しそうに笑って、彼女は甘い口調でささやく。


「でも、ミミィはマーロのあにきぃが買ってくれるアイスが一番好きです


「ははは、ならまた一緒に食べにいこーか」



僕がそういうと、ミミィは恥ずかしそうに僕のお腹に顔を沈めて「はい」と小さな声で呟いた。
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