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とある場所、とあるときにて

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教室の窓が開けられていて、外からうるさいセミの鳴き声と夏の風が吹き込んでくる。







「おい、田中は夏休みどーすんだ?」







「まだなんも予定ないわー、池上こそなんかあんの?」







「まだなんもー」







田中と池上は教室の席で向かい合って座り、もうすぐはじまる夏休みの予定をどうしようかと考えていた。



高校最後の夏休み、いかにしてこの人生最大の青春チャンスをものにするか、彼らは真剣に悩んでいた。







「こうなったどうにかして彼女をつくるしか・・・って、あぶな!!?」







そのとき、一人の男がそんな無駄な悩みを抱えている二人のもとに颯爽と走りより、勢いよく高く飛び上がって彼等が囲んでる机に着地した。







「はっはっはーー!またモテない男共が無駄な悪あがきをしているようだな、だからお前等は童貞なんだよ!」



机の上に立ち、田中と池上をゴミをみるかのように哀れみの目をむける男。







「うるせー!てか、シンジお前も童貞だろ!!」



「そうだぞ!それとあぶないから机から早くおりろよ」







シンジと呼ばれた男は素直に机から降りて、いつも一緒にいる二人の友人に向き直って、笑顔で話しかける。







「なあなあなあ!もうすぐ夏休みだぜ!!どーするよ!」







池上はシンジの元気の良さにうんざりしたとでも言いたいように頭をふって馬鹿な友人に答える。







「それを決めようと田中と話してたんだよ、どうせ最後の夏休みだし三人で海でもいくか?田中はなんか希望ある?」







「海かぁ・・・・彼女できるかな?」











田中の発言に、シンジたちは自分たちが海にいって女をナンパするところを妄想してみた。



水着の美女に声をかけてそのあと・・・・どうすればいいんだ?あれ、ナンパってどうやるんだろ、まったくわからない。







三人とも顔を合わせるがみんな同じ表情をしていた。







「「「むりじゃね?」」」











つらい現実にあてられてさっきまでウキウキしていたはずなのに、いきなり絶望へ落とされてしまった。



ああ、わが青春はいずこに・・・・







「はあ、お前等とつるんでたら一生童貞のままの気がしてきたわ」



池上は目の前の二人を眺め、そう愚痴る。おれ達のせいにすんじゃねー!とシンジと田中が抗議するが池上は結構本気で考えていた。







「池上、知ってるか?」







「なんだ田中」







「30歳まで童貞の奴は魔法が使えるらしいぜ」







「なんだよそのポテンシャルの高さ、最悪だな」







するとシンジが田中を露骨に馬鹿にした顔で笑いはじめた。







「はははは!!!馬鹿じゃね田中、そんなわけないだろ、信じるなよ!!!!そもそも流石に俺達だって、高校では無理かもしれないが、いくらなんでも30までには卒業してるって・・・まあ魔法が使えるのも悪くないけどな!こんな風に床に手をついて・・・いでよ魔法陣!!!なんてな」











シンジは床に手をついて笑いながら二人を見るが、想像に反して二人ともなぜか冷や汗をながしてドン引きしていた。



なぜそんな顔をしているのか事態を呑み込めないシンジは首をひねる。











「さすがに嘘だろシンジ・・・・」







「30はやばいよ・・・ひくわ」











「は?何のことだよ、なにいってんだ」



シンジは訳が分からず、下をみてみるとそこには床に置いた自分の手を中心に、赤紫色に発光する魔法陣が展開していた。











「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うそだろ」



































「じょ、冗談じゃねーー!!30まで童貞とかうそだろ!?床になにか細工しているにきまってらあ!」







シンジが叫ぶがその言葉を嘲笑うかのように魔法陣の光りは増していく。



そして、シンジ、田中、池上を呑み込んで魔法陣は三人と共に消えていった。

















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幾何学模様の巨大魔法陣を、数人の人達が等間隔で離れて囲んでいた。



窓一つない暗い部屋で、地面に彫られた魔法陣だけが赤紫色に光っているが、それもやがて徐々に勢いが衰えていきやがて消えた・・・



「これでまた異世界の奴等がこの地に落ちたな」





「今回は3人か・・」





儀式を終えた者達が光の消えた魔法陣の中央に集まり言葉を交わす。





「いまごろこの世界のどこかに飛ばされて呆けているころだろうよ」





「どうする、奴等の場所だけでもみつけておくか?」





何人かの者達がこの後の動きについて相談するが、どうすればいいか答えがでないので、皆がここにいる者達のリーダーに目をむける。



「・・・・いまは特になにもしないでいいだろう。異世界の奴等はどうせすぐに騒ぎをおこす。そうなればいやでも居場所くらいわかるだろう」





「ちげえねえ、あいつらはいつも自分達が選ばれた者だとか、勝手に勘違いするからな」



「愚かな奴等よ、与えられた力をまるで自分で得たものだと思ってつけあがるからな」







すると今まで一言も口を開かずに、この中で集まった者達の中でもひと際大きな男がリーダーのもとに歩みより問いかける。



「では狩りの時期はいつごろに?」



酷く冷たいめでその巨漢はリーダーを見つめる。



「そうだな・・・・・・五年もすればいいエサに成長することだろう」











今後の方針がひとまずきまり、みんなが解散しようとすると、一人の女が思い出したように声をあげる。



「そういえばあの男のことはどうするの、ずいぶん前に狩り損ねた異世界の・・・なんていったっけ?」





女の疑問にリーダーの男が答える。





「あいつのことはほうっておけ、もはやあいつは混ざり者。餌としては適切はではない。話はこれで終わりだ」



「えー、気になるじゃん。いま頃どうしてるのか」



「放っておけといっただろう。ほかにやらなければならないことは山ほどあるはずだ・・・・さあ今度こそ解散だ」



その言葉を合図に全員の気配が消えていった・・・・赤い髪の女一人のこして。







「ふふふ、やっぱり気になるよねー。いつか会いにいっちゃおうっかなー」
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