没落貴族に転生したけどチート能力『無限魔力』で金をザックザック稼いで貧しい我が家の食卓を彩ろうと思います~

街風

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仁王立ちで生まれた赤子

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 突然だが、俺は自分が何者か分からない。
気がついたら、ふよふよと浮く謎の生命体として彷徨っていた。
うっすらと前世の記憶のようなものはあるが、頭がぼんやりしてて、それも曖昧だ。
なので、考えるのを放棄して毎日ふよふよ気ままに浮かんでいる。

(きょうもへいわだなー、これがスローライフってやつか?)

すると、俺は初めて自分以外の生命体を近くに感じた。

(お、ついに仲間第一号君発見か!? これで暇な時間とはオサラバだ!)

急いで反応があった場所にむかう。
だが、残念なことにその生命反応は今にも死にそうなほど弱弱しかった。
いや、この様子だともう死んでいるかもしれない。

(うーん、できれば助けてあげたいけど……)

考えても助ける方法は分からなかったので、とりあえずその生命体に飛び込んでみた。

その瞬間—―俺の全身にとんでもない痛みが駆け巡った。

(ぐうぉぉーー、痛ええェっ、なんだこれ!!? )

初めて経験する痛みでパニックになる。

(ひいいい、助けて頭が割れるぅぅ)

 助けるつもりが、一瞬で助けを求める側に立場が逆転してしまった。
なんと間抜けなことか。俺は脱出しようとがむしゃらに暴れていると、自分の体に変化が起きていることに気が付いた。
迸るようなエネルギーが体の奥底から無尽蔵に湧き上がってくる。
いつもぼんやりとしていた思考が鮮明になり、五感が研ぎ澄まされていく。
さらに、ふよふよ生命体である俺では知るはずもないもない知識と経験が、無理矢理体にねじ込まれていく。

(こ、これは……前世の記憶? でも情報が曖昧すぎてよく分からないぞ)

強制的に全ての知識がインプットされた後、俺はやっと、いま自分が置かれている状況を完全に把握することができた。

(うええ!? もしかして俺・・・生まれる前の赤ちゃんに乗り移っちゃてる!?)

なぜ分かったかというと、現在進行形で絶賛出産中だからだ。

「頑張ってください、もうすぐ生まれますよ!!!」

「は、はい先生っ! ひっひっふーっ、はぁ、ひっひっふー」

必死に息を吐く女性の声と、心配するしわがれた男の声。
すると、また別の人の声がした。

「先生・・・出血が多い上に赤ちゃんが逆児です。このままでは母子ともに命の危険が・・」

「クソッ・・・よりにもよって回復術師がいない日にっ!」

それを聞いて、俺は慌てる。

(なんだって!? このままではこの体この子の母上が死んでしまう!!)

いまだ鈍痛が残る頭をフル回転させて助ける方法を必死に考える。

(そうだっ、逆児ならもう一度反転すればいいのでは!?)

救出作戦、逆逆児だ! 
普通の胎児には無理だが俺にはできる。
俺は急いで頭と足の位置を自力でくるりと反転させ母体の負担を減らす。
すると、母上がとんでもない声で悲鳴をあげた。

「いだあああぁぁぁ!」

(ま、まずい!? 逆効果だったか! くそぅ、まだ諦めるな、絶対に母上を助けなくちゃ!! 大丈夫、さっき手に入れた知識と俺のスペックなら魔法だって出来るハズっ、いくぞぉ!!!)

ぶばばばばばあ回復魔法ぉぉぉ!!!」

 羊水の中で全力で叫ぶ。
すると、手のひらが暖かい光に包まれたので、それを母上の体にあてる。
はじめての魔法で不安だが、きっと成功しているに違いない。
いや、失敗する方がおかしいのだ。なぜなら、先ほど体が覚醒した時に、どんな原理か知らないが、俺は漠然と自分がどういう存在なのかを知った。
人間や他の生物ではない、もっと別の
全ての生物の頂点に座するために生まれてきた最強の個。それが俺のようだ。
だから、この子の母上を死なせずに助ける事は、朝飯前どころか、母乳後の惰眠より楽勝のはずっ!

「ぶぼぶぼぶぼぶぼー!!」

体内の魔力を変換して母上に注ぎ込んでいく。
すると、急に頭が引っ張られる感覚が強くなり、俺はスポンと体内から放出され、柔らかい床の上に投げ出された。
はじめて見るまぶしい自然の光が目に突き刺す。
しかし、いまは新しい世界を見て感傷に浸っている暇はないっ!
俺は急いでブリッジからのアクロバティックなバク転で立ち上がり、母上に声をかけた。

ばばぶぶばばばばあぶ?母上、大丈夫ですか!?

心配して母上の様子を窺う。
だがしかし、俺の目に映りこんできたのは苦しんでいる女性ではなく、目を見開いて、こちらを凝視するハゲた医者のおっちゃんだった。

「あ・・・あ・・・あ、赤ちゃんが立った!? それもブリッジからバク転で仁王立ち!?」

(し、しまったっ!?)

普通の赤子が出産直後にバク転で立ち上がれないのを失念していた。
このままでは、化け物と勘違いされかねない。
誤魔化すために、慌てて近くに落ちていたタオルを拾い、それをパサァとハゲのおっちゃんに投げた。その後、高速で床にダイブを決めて寝転ぶ。

するとどうだろう?

おっちゃんがタオルで一瞬視界を奪われ、もう一度目を開けたとき、そこには可愛いベイビーが声をあげて寝ているじゃありませんか。

「・・・・き、気のせいか?」

「先生、わたしの赤ちゃんは?」

「お、おう心配するな元気な赤ちゃんだぞ、よく頑張ったな」

「よかった、みせてください」

(ふう危なかった。それと、どうやら母上も無事らしい、本当によかった)

俺は安心すると、どっと疲れが押し寄せてきて、そのままぐっすり眠ってしまった。
こうして、俺は新世界に産声をあげたのだった・・・・




 母上の懸命な努力のお陰で、この世に生を受けることができた俺は現在、実家のベッドの上でぬくぬくと育っている。実をいうと、あの出産から数ヶ月がすぎている。

あれから俺は乗っ取ってしまったこの体を抜けようと、何度かトライしたが無駄だった。おそらく、元の魂が死んでいたせいで、俺の魂がこの体に完全に癒着して離れられなくなったのだと思う。

こうなっては仕方がないので、もう俺は人間として生きていくしか道はないようだ。
そう開き直ると、少し前までふよふよ浮いてスローライフするだけだった俺にとって、知識でしか知らない人間世界はとても新鮮だった。

 (いやー、まさか世界がこんなに広いとは思わなかったよ)

気分的には、もっと色んな場所を見てまわりたかったけど、生後一日でハイハイをする赤ちゃんは怪しまれると思い、大人しく控えていた。

 (ふふふ、だが、それはもうおしまいだ)

数ヶ月ベッドの上で過ごした俺は、そろそろ頃合いだなと、昨日、父上と母上に渾身のハイハイを披露してやった。
すると、「クーちゃん、凄い凄い」と母上は大層お喜びになられた。

これで、人目を憚らずハイハイで好きな場所を探索しても怪しまれないですむって戦法さ。あっ、ちなみにクーちゃんって俺のことね。

ルーク・ベルモント、ベルモント家の可愛い長男だ。
母上はエリーナ・ベルモント、金髪の綺麗系の美人さんでとても優しい。父上はカイリー・ベルモント、中々にダンディーな渋いイケメンである。

どうやら我が家は貴族のようで、男爵家らしい。
ただ、貴族としては最底辺すぎて生活はキツイみたいだ。
昨日なんか、両親が俺の初ハイハイお祝いのご馳走と称して、瘦せ細った川魚を嬉しそうに食べていたのを見て、同情を禁じえなかった。
それでも、愛すべき我が貧乏貴族は新しい命の誕生を喜び、毎日幸せに暮らしている。

(優しい人達なんだな)

本当は二人の子供は俺ではなく、母親の中で死んでいた子だ。
そこへ俺という異物が入りこみ、別の命に変わった。
そのことについて、この数か月考えてみたが、自分という存在にすら皆目見当もつかぬ俺に、今さら分かることなどない。

だから、俺は助けることが出来ず死んだ赤子へのせめてもの償いとして、残されたこの家族を世界一幸せにしてあげると決めたのだ。

腕を組み我ながら最高のプランだなと自画自賛していると、午後の鐘の音がなった。

どうやら磨き上げてきた特技を披露するタイミングがやってきたようだ。
すぅ、と息を飲み込んで声に魔力をのせて叫ぶ。

ばぁっばばぶぶーマンマ、ミルクー!!」

魔力の力で家の隅々まで響き渡る一撃必殺の呼び声に、可愛らしいお姉さんがとことこと歩いてくる。

これこそ、俺が鍛えあげた特技、おねだりミルクだ。

「はーい、クーちゃんお腹空いたね? いまミルクあげますよ」

美しい金髪の女性が上着をはだけさせて、おっぱいを与えてくれる。
俺はむしゃべりつくように飛びついた。

「あびゃびゃびゃ」

「ふふ、そんなに慌てなくても誰もとらないわよ?」

うびゃびゃびゃうまい、うまいぞ!」


ハッキリいって、母上のミルクは極上である。 
まず、その顔がいい。女神のような慈愛に満ちた美しい顔を見ていると、食欲もそそるというものだ。そして次にこの弾力。顔を埋めると心地よい温かさ伝わり落ち着いてくる。いつもミルクの時間は左右どちらからいくべきか悩んでしまうほどだ。

ばばばぶばぶぶばぶおなかっいっぱい

「はーい、今日も元気に沢山飲んだね、偉い、偉い」

俺が満足するまでミルクチャージしたのを確認すると、母上はまたどこかにいってしまった。いつもなら、ここで頭を撫でて、よちよちしてくれるのに、どうやら忙しいらしい。

 (これは絶好の機会だっ!)

 俺は母上のおかげで体力、気力ともに回復し、監視の目もなくなったので遂に長年(数ヶ月)の計画を実行することにした。

 まずは手始めにこの家を探索して、見聞を広げていこう!
この家族を幸せにする新しいヒントがあるかもしれない。俺は寝転んでいたベッドから勢いよく立ち上がり、ジャンプして飛び降りた。

スタっ、と華麗に着地してハイハイの姿勢をとる。

頑張れば、いや頑張らなくても普通に歩けるのだが、見られたら色々とまずいので、基本移動はハイハイだ。
さぁ、新しい冒険の第一歩を踏み出そうじゃないか。
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