【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)

文字の大きさ
2 / 35

2 うつくしいひと

 騎士団という場所において自分が浮いた存在であることを、リュカ・キルシュバウムは自覚していた。

 王城の敷地内にある騎士団の詰所の中には、今年入団した騎士見習いたちが集まっている。二十人ほどいる男たちの年齢はさまざまだが、みんな体格がよく、リュカのように貧相な身体つきの男なんてひとりもいない。
 めずらしい黒い髪と紫色の瞳。白い肌と中性的な顔立ち。小柄な上に童顔なので、リュカは実年齢の十九歳よりも若くみられることが多かった。

 にやにやと意味ありげに笑いながら男たちがこちらに向けてくる視線は、どう考えても好意的なものではない。

「おい、ガキがいるぞ」
「お貴族様の学校と間違えてやしないか」
「あいつが一年持たないほうに賭けてもいいぜ」

 あからさまな嘲笑や侮蔑のことばが聞こえてくる。彼らが今日から同期になるのかと思うと、なんだか気が重くなってきた。その上、見習い全員が同じ寮で生活するのだ。
 リュカとしてはなるべく穏便に過ごしたいが、幼いころから特殊な環境で暮らしてきたという事情もあって、なおさら不安は募っていく。

 入団初日である今日は午後に集合し、騎士見習いたちの入団式が執り行われた。式のあとは騎士団における規律や寮生活の注意点などの説明が行われ、敷地内の施設を見て回ってから、最後に寮の鍵と制服を受け取って終了となる。

「リュカ・キルシュバウム。きみには、サイファート隊長の側仕えそばづかえをしてもらう」

 名前を呼ばれて前に出ると、事務官はそう言いながら部屋の鍵を渡してきた。
 リュカは騎士に詳しくないので知らなかったが、どうやら有名な騎士の名前らしい。一瞬にして、室内がざわめき出す。

「サイファート隊長、ですか?」
「気難しい方だが、励みなさい」
「……はい」

 なんとも不安になる助言をいただいてしまった。

 この国で騎士になる方法は、ふたつある。ひとつ目は士官学校で三年間学び、騎士に叙任される方法。ふたつ目は見習いとして騎士団に入り、三年間の見習い期間を経てから騎士に叙任される方法。一般的に貴族は前者を選び、平民は後者を選ぶことが多い。

 士官学校を卒業して騎士になった場合は、学校を卒業する時点で騎士に叙任されるが、リュカのように騎士見習いとして入団したものは、三年間の見習い期間を経てから正式な騎士に叙任される。
 見習い期間中は、騎士として必要な剣技や知識を身につけながら、先輩騎士の側仕えとして日々の雑務をこなしていく。騎士と見習いはふたりで同じ部屋を使い、寝食を共にする決まりになっていた。

「サイファートって、あの青炎せいえんの?」
「気の毒にな……」
「こりゃ、一年どころか一ヶ月持つかどうかあやしいもんだ」

 通例では見習いが仕える相手は一般騎士のはずなのだが、リュカの仕える相手は隊長だという。しかも、ほかの騎士見習いたちの反応から察するに、あまり評判のいい隊長ではないようだ。
 今日からはじまる新生活に、いきなり暗雲が立ち込めているような予感がした。

 事務官から、一般騎士用の寮ではなく、隊長以上の騎士が寝泊まりしている特別寮に向かうよう指示され、建物の中に足を一歩踏み入れた途端、リュカは思わず立ちすくんでしまった。

「うわ……」

 詰所や一般騎士の寮も立派な建物だったが、特別寮は格別だった。外観こそほかの建物と統一されているが、内装は比べものにならない。簡素な内装の一般寮とは違い、特別寮の玄関ホールや廊下には絵画や高級そうな花瓶など、美術品の類がそこかしこに置かれていた。
 役職に応じて住処が豪勢になるのは当然なのかもしれないが、騎士団に貴族が多いことや、この国の第二王子が在籍していることも少なからず影響しているに違いない。

 二階に上がり、指定された部屋のドアをノックすると、すぐに「入れ」と応答があった。

「……失礼いたします」

 声をかけてから室内に入って、想像よりも部屋の中が広いことに息を飲んだ。
 廊下から入って短い通路の先にある部屋が主室のようで、入り口から向かって右手にはローテーブルを挟んで三人掛けのソファがふたつ並び、奥の壁には暖炉が据えてあった。左手には六人掛けのテーブルが置かれていて、廊下側の壁には本棚やガラス扉がついた棚がずらりと並んでいる。
 正面は大きな掃き出し窓になっていて、バルコニーに続いているようだ。右側の壁にはドアがあるので、その先が寝室なのかもしれない。室内は広々とていて、重厚感のある家具はすべてが高級品に見えた。

「……っ」

 室内をぐるりと見渡して、ようやくこの部屋の主を見つけた。左手のテーブルの奥、執務机の前に座っていた男とまっすぐに視線が合う。
 やたらと顔立ちの整った男だった。やわらかそうな明るい色の金髪。すっと通った鼻筋。細く形のいい眉に、つりあがった切れ長の瞳。特に瞳が印象的で、アクアマリンのように澄んだうつくしいライトブルーに、しばし見惚れてしまった。
 身体は制服の上からでもわかるほどに鍛えられているが、過剰な筋肉がついているわけではない。作りもののように整った容姿と鋭い目つきが、近寄りがたい独特の雰囲気を作り出していた。

「……どうした?」

 動きを止めたリュカを見て、男が怪訝そうな表情を浮かべる。

「し、失礼しました。本日よりサイファート隊長の側仕えとなりましたリュカ・キルシュバウムと申します。ご指導よろしくお願いいたします」
「ああ、アレックス・サイファートだ」

 そう言って、サイファートは気だるそうに髪を掻き上げた。ちょっとしたしぐさが絵になる男だった。こんなにうつくしいひとを、リュカは生まれてはじめて見た。
 隊長だというので年長の騎士を想像していたが、サイファートはずいぶんと若く見える。リュカより年上には違いないが、三つか四つくらいしか変わらないのではないだろうか。

 このランズベリー王国の騎士団は、担当範囲ごとに各団長が取り仕切っていて、リュカが配属されたのは王都警備を担当する蒼衛騎士団だ。同じ敷地内には、王族警護を担当する金衛騎士団と王城警備を担当する銀衛騎士団の建物もあるが、どちらも士官学校を卒業した貴族でなければ配属されない組織となっている。
 各騎士団はさらに十人程度の騎士から構成される隊に分かれていて、サイファートはそのひとつを任されている隊長だ。
感想 1

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました! 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。

めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。 その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。 ⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる ⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない ※全四話、予約投稿済み。 本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。 ※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。