【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)

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14 サイファートの剣

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「――おい、リュカ」

 テオドルに声をかけられて我に返ったとき、訓練場に残っていたのはリュカとテオドルのふたりだけだった。一階にいた騎士や観覧席の見習いたちは、いつのまにか全員いなくなっている。

「どうした、ぼうっとして。あいつとの賭けのこと気にしてんのか?」
「賭け?」
「サイファートが賭けに乗ったとしても、勝ったんだから問題ないだろ」

 サイファートとハルネスの模擬戦は、サイファートの勝利で幕を下ろした。これで、もしサイファートがハルネスの賭けに乗っていたとしても、リュカがハルネスに身体を差し出す必要はない。サイファートとハルネスが同じものを賭けていたら、の話だが。

「……ああ、賭けか。うん。そうだね」

 ぼんやりと要領の得ない返事をするリュカに、テオドルが顔を顰める。

「おまえ、賭けのこと忘れてただろ。なに考えてたんだよ」
「……模擬戦が、すごくて……」

 何組かの騎士が模擬戦を行い、最後に剣を交えたのがサイファートとハルネスだった。
 最初はふたりの実力が拮抗しているように見えたが、あれは模擬戦らしく見えるように示し合わせていたのかもしれない。打ち合いが続くにつれて、涼しげなサイファートの瞳が剣呑になり、ハルネスの顔からは笑顔が消えた。
 訓練場に響きわたるのは、激しい剣戟の音と剣を振るうふたりの掛け声のみ。最初は声援を送っていた先輩騎士や見習いたちもいつからか黙り込み、固唾を飲んでふたりの戦いを見守っていた。

 流れる水のように流麗な動きを見せたサイファートの剣が、次の瞬間には目にも留まらぬ速さでテオドルを狙う。テオドルの剣を受け流し、避け続けるサイファートの身体は、獣のようにしなやかな動きを見せた。太陽の光を反射して瞬く鋭い刃の軌跡が、まるで稲妻のようにまなうらに残っている。

 サイファートの剣を振る姿が、頭から離れない。

「おまえさ……」

 なにかを言いかけたテオドルは、ゆるゆると首を振って続くことばを飲み込んだ。

「いや……なにかあったら報告しろよ」
「うん」

 特別寮の前でテオドルと別れ、部屋に戻ろうと階段を上がったところでハルネスに声をかけられた。
 先ほどのこともあって、あまりふたりきりでは会いたくない相手だったが、残念ながら廊下にはほかにだれもいない。ニコラが近くにいる様子もなかった。

「おつかれさまです、ハルネス隊長」
「リュカも訓練一日目おつかれさま。ちょうど会えたことだし、俺とお茶でも飲まない?」
「……お誘いはありがたいのですが、側仕えの仕事がありますから」
「サイファートなら、まだ詰所にいたぞ」
「そうなんですか。……でしたら、先に掃除をしておきたいので」
「リュカはまじめだな。一日や二日掃除なんてしなくても、変わらないよ。それより、王都の有名な店で買ってきたケーキがあるんだ。ニコラもそのうち帰ってくるから、三人でいっしょに食べよう」

 見習いは入団した年ごとに訓練を行っているので、同じ見習いでもリュカとニコラの訓練内容は異なる。昨日の夕方に喫茶室で話をして以来、ニコラとは顔を合わせていなかった。
 ニコラと話をしたい気持ちはあるが、ニコラが不在のときにべつの側仕えが部屋に入るというのもどうなのか。ニコラが知れば、気分を害するかもしれない。

「サイファート隊長とは、賭けをされたんですか?」
「ああ、きみに言ったのと同じものを賭けたよ。まあ、結果は見ての通りだけどね」
「では……」
「それなら、きみに言い寄るのをやめるはずだろうって? なにも俺はベッドに誘っているわけじゃない。きみと話がしたくてお茶に誘っているだけだよ」
「……それは」

 無理やりこじつけているようにしか聞こえなかった。

「俺は、リュカのためを思って部屋に誘ってるんだけどな」
「俺のため、ですか?」
「そうだよ。こんな、誰に聞かれるかわからないような場所でする話じゃないからね」

 そこまで言って、ハルネスはぞっとするような笑みを浮かべた。

「俺は、きみの秘密を知っているよ。――夜想の館のリュディガー」
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