桜の下の怪異譚

芙月みひろ

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 近頃の俺の趣味は、何かしらの言い伝えが残る場所を訪ね歩くことだ。
 今日は午前中で大学の講義が終わり、バイトもない。という訳で、少し前から気になっていた場所へ行ってみようと思い立った。県境近くにある、山際に近いとある場所だ。

 その昔、この一帯を治めていた城主と、現代地理で言うと隣県に当たる土地の城主が勢力争いをしていた時代があった。あわや戦となる前に、敵の謀によって当地の城主は惨殺された。敵方の城主は満開の桜の下で、惨殺後に切り離した当地の城主の首を岩の上に乗せて眺めながら、勝利の美酒に酔った――。

 という伝説がある。
 話そのものは、郷土史に載っていたから事実なのだろう。岩に乗せて云々は真偽が怪しいが、その桜の木もその岩もまだその場所にあるとしてその話は締めくくられていた。そういうことならその伝説の遺物らを見てみたいと思うのは当然の心理だ。
 徒歩とバスとで目的地まで移動し、目的の停留所で降りた。道路脇のすぐの斜面からすでに山だ。
 桜の季節はすでに始まっていたが、日陰に入るとひんやり寒い。だからこそ、この辺りの桜は街の方に比べると開花が遅く、今も里や山の所々に満開を迎えた桜の白っぽい花が見えていた。
 俺はリュックを背負い直して、適当な方角にてくてくと歩を進めた。
 途中で小柄なおじいさんに会った。近くの集落の人でもあろうか、話を聞いてみようと、人当たりが良く見えるよう心掛けながら笑顔を浮かべて近づいていく。

「すみません。この辺りの方ですか?」

 足を止めたおじいさんは、うろんげに俺を上から下まで検分するようにじろじろと眺めていたが、不審人物ではなさそうだと判断したらしい。俺の方に顔を向けた。

「なんだね」
「ちょっとお訊ねしたいんですけど」

 かくかくしかじかと、ここに来た理由を説明する。

「なるほど」

 地図では分からなかったという俺に、おじいさんは頷いた。

「それなら、あの神社だな」
「それって、どこらへんですか?」
 
 おじいさんはおもむろに振り返り、節くれだった指である方向を示した。

「少し先に歩いて行くと、石段があるんだ。そこを登ったところだよ。大きな桜の木があるからすぐに分かる。しかし、よくそんな有名でもない話に興味を持ったもんだね」
「有名じゃないからこそ面白そうだと思いまして」
「あはは。なかなかの天邪鬼だな。ただ、だいぶ陰気な場所だよ。本当に行くのかい」
「はい」
「ふぅん、そうか。まぁ、気をつけていきなさいよ」
「はい。ありがとうございました」

 俺は丁寧に頭を下げて礼を言い、早速教えられた方に足を向けた。
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