純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

芙月みひろ

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20.初耳

 二人での飲食はこれで二回目だったが、高原への気持ちを自覚したばかりの私の緊張は、前回の比ではなかった。ふと視線を感じて顔を上げれば、そこには必ず私を優しく見つめる彼の目があって、その度に私の鼓動は弾み、会話に集中できなくなった。おかげで、高原が話題を振ってくれても私は言葉少なに返すことしかできず、そのため私たちのテーブルは静かだった。
 しかし、美味しい料理で胃が温まり、お酒で程よく酔いが回り出した頃には、ようやく私の緊張も薄らいでふわふわした心地となっていた。
 グラスが空になった後は、お酒ではなくウーロン茶を注文する。
 田上が高原の分と一緒に注文の品を運んできた。私の前にだけ、グラスの他にデザートを盛りつけた器を置いた。女性にだけのサービスだというそれは、淡い紫色が綺麗なぶどうのジェラートだった。

「マスターが作るのは、本当になんでも美味しいわ」

 しみじみとつぶやきながら、私は早速ジェラートを口に運んだ。
 私の顔を見て、高原がくすっと笑う。

「幸せそうな顔して食べるよな」
「だって美味しいんですもの。そうだ。高原さんも食べてみますか?」

 私はジェラートを乗せたスプーンを彼の口元にずいっと差し出した。
 高原は私の行動に戸惑っている。
 動じる彼を見たのは初めてのことで、私は「悪い意味で」嬉しくなった。私はにやにやと笑いながら彼の口元にさらにスプーンを近づけ、からかうように言った。

「ほら、美味しいですよ」
「まさか、たった一杯でもう酔っぱらってるのか」

 高原は呆れた顔をしていた。しかし結局苦笑を浮かべながらも、私が差し出したスプーンをぱくりと口の中に入れた。次の瞬間、目を見開く。

「確かにうまい」
「ね?美味しいですよね」

 高原の表情に満足した私は、器から次のジェラートをスプーンにすくいとる。それを自分の口に入れて、舌の上でその美味しさを味わった。

「ところで今のってさ」

 高原がにやりと笑う。

「間接キスだな」
「あ……」

 言われて初めて気がついた。いくら酔っているからとは言え気を許しすぎたと、自分の迂闊さを悔やむ。
 高原はくすくすと笑っている。

「早瀬さんって、意外と天然なんだな」
「天然で悪かったですね」

 急に恥ずかしくなり、文句を言う勢いも弱まってしまう。
 ドアベルの音に続いて、田上の元気な声が聞こえた。新たな客のようだ。

「がっつりしたもの、お願いします。今日の昼、食べる暇なくって……」

 耳に入った声はよく知る人物、金子のものだった。
 彼はカウンター席の一つに腰を下ろす。隣の椅子の上に荷物を置こうとして、私に気がついた。

「佳奈ちゃん?」

 金子は立ち上がり私の方へと歩いてきたが、途中で足を止めた。高原の姿を目にして驚いた顔をする。

「そうさんじゃないですか」
「そうさん?えっ、まさか、あの『そうさん』?」

 ぱちぱちと瞬きを繰り返しながら、私は金子と高原の顔を交互に見た。
 高原は困ったような笑みを浮かべ、金子に向かっておもむろに片手を上げた。

「久しぶり。元気だった?」
「元気でしたよ。というか……。この組み合わせって、いったい何なんですか?」

 金子は混乱したような顔をしている。
 しかし私もまた混乱し、動揺していた。

 目の前にいるこの人が、あの「そうさん」本人だったということ――?

 高原は突っ立ったままの金子に声をかける。

「一緒に飲まないか?」
「えぇと……」

 金子は私と高原が一緒にいるというこの状況を、まだ飲み込めていない様子だった。
 色々と飲み込めていないのは私も同じだ。先ほどからずっと、「そうさん」という言葉が頭の中をぐるぐると回っている。
 助け舟を出すかのように、そこに田上が金子のグラスとボトルを運んできた。テーブルに並べながら金子を促す。

「金子も、高原君とは久しぶりに会ったんだろ?せっかくだから一緒に飲めば?」
「はぁ……」

 金子は迷うように椅子に腰を下ろし、私と高原の顔を見比べている。
 彼が今何を思っているかは察しがつく。私たちがデート中だとでも思っているのだろう。彼が気を遣わないように、そうではないことを伝えておこうと考える。
 しかし私が口を開く前に、金子は高原に訊ねた。

「もしかして、デートかなんかですか?」

 高原はきっと、金子の問いを適当に流すか否定するはずだと思っていた。ところが彼は私をちらりと見てからにっと笑い、金子に答えた。

「実は今、口説いてる最中なんだ」

 金子の顔に戸惑いの色が一瞬浮かんだように見えたが、それはすぐに消えた。何かを納得したような目をしたが、それはすぐに私をからかうものに変わる。

「だからあの時、『うん』って言わなかったんだな」
「あの時ってなんだっけ?」
「ほら、俺言ったじゃん。つき合おうかって」

 わざわざそんなことを、今ここで話題にしなくてもいいのにと、私は内心で慌てた。

「だってあれはただの軽口だったじゃない。もともとは金子君の彼女の話をしていて、ノリで言っただけでしょ?それにあの時はまだ……」
「あの時はまだ?」
「え、その……」

 高原に誤解されたくないのに、言えば言うほどだんだんドツボにはまっていくような気がした。
 しどろもどろになっている私を見て、金子は笑い声を上げ、それからふっと考え込むような顔つきになる。

「ちょっと待って。佳奈ちゃんって、確か、そうさんの顔は知らなかったんだよね。そのことを知ったのは……」
「今よ。金子君が高原さんをそう呼んだでしょ?それで初めて知ったの」
「え、そうなの?そうさん、佳奈ちゃんに話していなかったの?あれ?でも、今の二人が出会うような場面って何だ?ここか?最近もここに来たけど、マスターからは何も聞いてなかったしなぁ……。いったいどこで会ったわけ?」

 金子が追求し始めた。

「えぇと……」

 口ごもる私に代わって、高原がさらりと答えた。

「飲み会だよ。今は仕事で世話になってるんだ」
「へぇ、そんな偶然ってあるんだな。でも佳奈ちゃん、良かったね。やっと五年前のお礼ができるじゃないか。……んん?今、飲み会って言ったよね?二か月くらい前に佳奈ちゃんに会った時ってのも、確か飲み会の後じゃなかった?」

 何かを思い出そうとするかのように、金子は首を傾げている。

「あ、あはは……」

 あの飲み会の後、私はここで、マスターだけではなく金子にも、高原の悪口をさんざんぶちまけた。少し前の私であれば、高原に知られたところで構わないと開き直っただろうが、今はそのことを彼に知られたくない。金子がその時のことをはっきりと思い出す前に、酔わせてしまった方が良さそうだ。私はお酒のボトルに手を伸ばし、金子に向かってにっこりと笑う。

「今日は特別に私がお酒を作ってあげるわ。飲んでね!」
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