願わくばお前が涙を流さぬように

フランチェスカの旅立ち

私はいつか消えるだろう。
荒野を駆け、剣を振るい、そうして誰にも見つけられることの無いまま、私の体は朽ちていくのだ。たくさんの命を絶った私にはお似合いの死に方だと、だが、もし、こんな私が何かを願うことが許されるならば、お前がいつまでも笑っているといいと思うよ。



「フランチェスカ、私の愛しいフランチェスカ、どうか美しいものだけを見て生きてくれますように。」

フランチェスカ･ブリューゲル
ブリューゲル公爵家の長女として、心優しい両親と、フランチェスカを愛してくれる頼れる兄の元に生まれた彼女は何不自由なく美しい世界を見て育つと誰もが信じ願っていた。
彼女が戦闘の才を表すまでは、

才花の日、それは10歳になった子供が集まり自分の才を知る日、美しく、優しい少女には誰もが、賢美の才や、療養の才があるだろうと思っていた。
「フランチェスカ･ブリューゲル、其方の才は戦闘である。」

フランチェスカを知る全ての人々が目を見開いた。
「そんな！嘘です！娘のフランチェスカはとても戦える様な子ではありません！優しくて良い子なのです。」
その中でも、フランチェスカの母、フィオナ･ブリューゲルは、彼女の戦闘の才を頑なに認めはしなかった。

「心優しく、美しくとも、才能とは関係なくあるものです。決して娘様が、野蛮なわけではございませんよ。」
司祭の人が説明するも、

「戦闘の才だなんて、酷いわ、」
の一点張り、
それもそのはず。戦闘の才を開花させた子供は11歳から魔法騎士学校へ通うことが義務付けられている。そして魔法騎士となる18歳になるまで、寮生活の中で生き、家族と会うことはできない。フィオナにとって、可愛い一人娘を手放し、会えないなんて、耐えられるはずがなかった。

「母上、フランチェスカが戦えるわけがありませんよ。」
この世の何よりもフランチェスカを愛する兄は、フィオナの意見に納得した。
確かに極わずかではあるが、才花の儀に間違いが生じることがある、そのものの才覚がものすごく薄かったり、前のものの才覚が濃すぎたりすると、判定が狂ったり、前の才覚のオーラが残って別の判定になってしまうことがある。
才覚の濃い薄いというのは、水晶の色でわかる。透明な水晶の色が青ければ青いほど濃い才覚を持っていて、その分野では必ず成功を納める。
しかし、フランチェスカの戦闘の才は、稀に見る海よりも深い青だった。狂いようのない清々しい程の青に、間違える余地などなかったのだ。
「フィオナ、ルアン、諦めるんだ。フランチェスカの才覚は本物だ。」
父が苦しそうな声でそう告げる。

「そんなっ！」
母が泣き崩れ兄が絶望している時、フランチェスカが口を開いた。

「お顔をお上げになって？お母様、ルアンお兄様、私、嬉しいのですよ？」
家族はみな驚いている。
「フランチェスカ？」
兄が尋ねる
「私、どんな才覚であれ、人のお役に立てることがいいと願ってましたの。本当は私いつも思っておりました。守られたまま生きるのか、美しいものだけを見て生きたとして、私に守りたいものが守れるのかと、ですが、魔法騎士になれたなら、私の愛するお父様、お母様、お兄様を守って差し上げれるわ。」

「フランチェスカ」
その言葉に、否定することなどできるはずもなかった。

1年があっという間にすぎ、フランチェスカ出発の日となった。

「フランチェスカっ！いつでもかえっておいで、私たちはずっとあなたが大好きよ」

「フランチェスカ、愛しているよ」

「フランチェスカ、お前のお祖母様も立派な魔法騎士だったんだ。きっとお前もなれる。胸を張って行ってこい。」

家族からの言葉はとても暖かいものだった。

「行って参ります、お母様、お兄様、お父様！」

言い忘れたので言っておこう、これはフランチェスカが復習を果たす物語である。