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焔①友達でもいいから、ずっとそばにいようと思った
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正岡焔が黒川甲斐に出会ったのは入学式の日だった。
一目惚れというものがこの世にあると知ってはいたけれど、それを自分がするとは思わなかった。一目見て、その黒髪から目が離せなくなった。
入学式だというのにどこか退屈そうにしているその目に自分を映して欲しかった。
「俺、正岡焔。よろしくな」
「……黒川甲斐。よろしく」
少し戸惑ったように返ってきた声も綺麗で、もっと好きになった。
だから、友達でもいいから、ずっとそばにいようと思った。
二年生になる頃には大きくなりすぎた気持ちをどうしようもできなくなっていた。最初好きになったのは見た目からだったけれど、仲良くなるにつれて中身もどんどん好きになっていった。
甲斐は言葉は多くないけれど、一緒にいて退屈しない。こちらから話を引き出すのが上手だし、かといって自分のことを全く話さないわけでもない。
たまに甲斐の表情が柔らかくなるのがたまらない。不意打ちでまた恋に落ちてしまうのだから、焔の心臓はなかなか限界だった。
そんなときに、隣人の鶴見博に声をかけられた。
「世界を救ってみないか?」
もしも世界に危機が迫っているのだとしたら、甲斐も危ないのではないか。それが焔の戦う意味、正義の意味だった。
甲斐を守る。甲斐の生きるこの世界を守る。
それが焔がフレイムとして戦う理由だった。
――ところが、
「よく現れたな、フレイム」
フレイムとして戦う焔の前に現れた、敵、ブラックナイト。
顔の上半分は仮面で隠れているが、口元は隠れていない。だから、わかった。
あれは甲斐だ。
あのセクシーを通り越して犯罪的にエロい口元は甲斐のものに間違いない。
だが、どうして?
頭の中は疑問符でいっぱいで、戦いに集中できない。気を抜けばすぐやられてしまいそうなのに。どうして、守りたい存在と戦わねばならないのか?
迷いは隙を生み、その隙はすぐブラックナイトに突かれた。
「こんなものか」
ブラックナイトがそれまで腰に下げていただけの剣に手をかける。
ここで、死ぬのか。
甲斐に殺されるならそれはそれでいいのかもしれないけど、まだ、甲斐と恋人になってないのに。
……友達でもいいって思ってたんだけどなあ。
だがその瞬間はいつまでたっても訪れず――
「きゃああああっ」
ブラックナイトは物陰で腰を抜かして震えていた少女に剣を向けていた。
「た、たすけて!」
少女の悲鳴に、立ち上がる。
「やめろぉおおおおお」
焔が立ち上がれたのは、少女を守るためではなかった。
甲斐が、誰かを傷つける。そんなことをさせたくなかったから。
手のひらから、赤く燃え上がる、炎が生まれた。
大きな炎はブラックナイトへ向かう。
それを、ブラックナイトはただ、受け止めた。
「……少しはやるようだな」
まだ殺すには惜しいかもしれない。そう思ったのか、ブラックナイトの口元には笑みが浮かんでいた。
「また会おう、フレイム」
そう言って、ブラックナイトは消えた。
やっぱり間違いない。
あの声も。あの口元も。
ちょうど昨日仕掛けたばかりの盗聴器の出番だなと焔は思った。
――だいぶショッキングな内容が聞こえてくるとも知らず。
一目惚れというものがこの世にあると知ってはいたけれど、それを自分がするとは思わなかった。一目見て、その黒髪から目が離せなくなった。
入学式だというのにどこか退屈そうにしているその目に自分を映して欲しかった。
「俺、正岡焔。よろしくな」
「……黒川甲斐。よろしく」
少し戸惑ったように返ってきた声も綺麗で、もっと好きになった。
だから、友達でもいいから、ずっとそばにいようと思った。
二年生になる頃には大きくなりすぎた気持ちをどうしようもできなくなっていた。最初好きになったのは見た目からだったけれど、仲良くなるにつれて中身もどんどん好きになっていった。
甲斐は言葉は多くないけれど、一緒にいて退屈しない。こちらから話を引き出すのが上手だし、かといって自分のことを全く話さないわけでもない。
たまに甲斐の表情が柔らかくなるのがたまらない。不意打ちでまた恋に落ちてしまうのだから、焔の心臓はなかなか限界だった。
そんなときに、隣人の鶴見博に声をかけられた。
「世界を救ってみないか?」
もしも世界に危機が迫っているのだとしたら、甲斐も危ないのではないか。それが焔の戦う意味、正義の意味だった。
甲斐を守る。甲斐の生きるこの世界を守る。
それが焔がフレイムとして戦う理由だった。
――ところが、
「よく現れたな、フレイム」
フレイムとして戦う焔の前に現れた、敵、ブラックナイト。
顔の上半分は仮面で隠れているが、口元は隠れていない。だから、わかった。
あれは甲斐だ。
あのセクシーを通り越して犯罪的にエロい口元は甲斐のものに間違いない。
だが、どうして?
頭の中は疑問符でいっぱいで、戦いに集中できない。気を抜けばすぐやられてしまいそうなのに。どうして、守りたい存在と戦わねばならないのか?
迷いは隙を生み、その隙はすぐブラックナイトに突かれた。
「こんなものか」
ブラックナイトがそれまで腰に下げていただけの剣に手をかける。
ここで、死ぬのか。
甲斐に殺されるならそれはそれでいいのかもしれないけど、まだ、甲斐と恋人になってないのに。
……友達でもいいって思ってたんだけどなあ。
だがその瞬間はいつまでたっても訪れず――
「きゃああああっ」
ブラックナイトは物陰で腰を抜かして震えていた少女に剣を向けていた。
「た、たすけて!」
少女の悲鳴に、立ち上がる。
「やめろぉおおおおお」
焔が立ち上がれたのは、少女を守るためではなかった。
甲斐が、誰かを傷つける。そんなことをさせたくなかったから。
手のひらから、赤く燃え上がる、炎が生まれた。
大きな炎はブラックナイトへ向かう。
それを、ブラックナイトはただ、受け止めた。
「……少しはやるようだな」
まだ殺すには惜しいかもしれない。そう思ったのか、ブラックナイトの口元には笑みが浮かんでいた。
「また会おう、フレイム」
そう言って、ブラックナイトは消えた。
やっぱり間違いない。
あの声も。あの口元も。
ちょうど昨日仕掛けたばかりの盗聴器の出番だなと焔は思った。
――だいぶショッキングな内容が聞こえてくるとも知らず。
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