9 / 88
〜トイレの花子さんと婚約破棄された悪役令嬢〜
怪9
しおりを挟む正直に言って、花子の言っていることをすべて理解できた訳ではなかった。
だが、花子が本気で日本という場所に帰りたがっているということだけは感じられた。日本のトイレは、さぞ素晴らしい場所なのだろう。
出来ることなら、花子を日本に帰してあげたいとアメリアは思った。
「ねえ、花子さん。日本に帰るために、誰かに協力してほしかったというのはわかったわ。でも、どうしてわたくしだったの?」
アメリアには、花子が自分に声をかけた理由がわからなかった。彼女があのトイレでずっと自分の協力者を探していたのだとしたら、もっと役に立ちそうな——しっかりしていて頼りになりそうな生徒に声をかければ良かったのにと思った。
「それは、あんたがこの世界に絶望していたからよ」
花子は言った。
「この世界に居場所がない、この世界の誰も自分を必要としていない、そう思っている気持ちが、あたし達が感じたのと似ていたから」
花子の言葉に、アメリアは目を見開いた。
そうだ。確かに、自分はあの時、「いっそどこか別の世界に行ってしまいたい」と望んでいたのだ。
クラウスに婚約破棄され、味方は一人もいなくて、皆に嘲笑されて、もう自分がここにいる意味はないと思ったから。
「あんた、クズ男に浮気されて、公衆の面前で無実の罪を着せられたんでしょう? そりゃあ、この世界に嫌気がさしても無理ないわよ」
「……嫌気がさしたのではなくて、わたくしがこの世界の役に立たないと思い知っただけよ」
そして、自分のしてきたことがすべて無意味だったと知ったからだ。
「そんなに深刻に落ち込まないでよ。あんなクズ男と結婚しなくてよかったじゃない」
「……そんな風に割り切れないわ」
「まあ、気持ちはわかるけどね。あたしも昔はいろいろあったし」
「花子さんも?」
「ええ。昭和六十年代から平成初期にかけて、太郎くんっていうオトコがいたのよね。まあでも、あいつ闇子さんと浮気しやがって。最低よね。だから、あたしの方から捨ててやったの」
「まあ……っ!」
アメリアは瞳を潤ませた。花子にそんな過去があったなんて。
「だからね。あんたとなら取引出来ると思ったの」
「取引?」
「ええ。そうよ」
花子はニヤリと笑った。
「あたしに協力してくれたら、あたし達が日本に帰る時に、あんたを一緒に連れて行ってあげる」
アメリアは目を丸くした。
「もうこの世界にいたくないんでしょう?」
そうだ。確かにそう願った。
花子は、その願いを叶えてくれるというのだ。
アメリアはぎゅっと拳を握った。
「わたくしも、日本に行けるの? 日本に行けば、わたくしでも……花子さんのように強くなれるかしら。いつか」
「何言ってんの!」
ぽつりと呟いたアメリアに、花子はけらけらと笑って言った。
「あんたの方がよっぽど強いわよ! 周りが敵ばっかりなのに、よく頑張ったわ!」
花子はそう言ってアメリアの背中を叩いた。
アメリアは息が詰まって、ぽろりと涙をこぼした。
よく頑張った。その言葉が、アメリアの心にじわじわと染み込んできた。
本当は、誰かにそう言ってもらいたかったのかもしれない。
「……ぐすっ」
人前で涙を流してはいけないのに、アメリアはこぼれ落ちてくる涙をとめることが出来なかった。
0
あなたにおすすめの小説
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる