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〜赤いチャンチャンコと弟の歪んだ愛情〜
怪12
しおりを挟むアメリアの住む離れには常駐している使用人はいない。必要な時だけ本邸から使用人がやってくることになっている。
ただ、一応侍女が待機する部屋はあるので、花子にはそこを使ってもらうことにした。花子は「トイレでいいわよ」と言っていたが、アメリアの心情的にトイレでいい訳がなかった。
「それで、わたくしは明日からどうすればいいの?」
「とりあえず、妙な体験をした生徒がいないか調べましょう!」
花子は勢い込んで言った。
「あいつらもそろそろ動き出す頃だと思うわ。妙な声を聞いたり何か目撃した人がいないか調べるのよ」
花子はそう言うが、アメリアは顔を曇らせた。
「でも、わたくしは今日のことで皆様に避けられると思うの。だから、わたくしが尋ねても答えてくれるか……」
「大丈夫! あたしも一緒に行くから!」
花子はあっけらかんと笑う。
「それに、あんたは悪くないんだから堂々としてりゃいいのよ!」
そう言われて、アメリアは少し気が楽になった。
「では、改めて明日からお願いいたしますわ」
「おう! 今日からあたし達は運命共同体よ! 一緒に日本へ帰るために頑張りましょう!」
離れを「悪魔の館」と呼んで怯える公爵の様子が尋常ではなく、アメリアが心配になったユリアンは急ぎ離れへと走った。
すると、アメリアが誰かと話す声が聞こえてくる。
(離れには、他に誰もいないはずなのに……?)
ユリアンの母がアメリアを追い出したのは二年前だ。以来、アメリアは侍女もいない離れで一人で暮らしている。公爵は跡継ぎのユリアンは大事にするが、アメリアのことは駒としか思っていない。愚かなことだ。ユリアンには公爵の血など一滴も流れていないというのに。
(誰が来ているんだ? 侍女じゃないなら友達? いや、あの婚約破棄を見てアメリアに近づく人間なんているはずが……)
『わたくしもあなたと一緒に……へ行く!』
「!?」
聞こえてきたアメリアの声に、ユリアンは耳を疑った。
(一緒に行く? 誰と!?どこへ!?)
アメリアには親しい人間などいなかったはずだ。頼れる人間なんているはずがない。
『わたくしが役に立てるのでしょうか? ……わたくしの腕力では……』
(腕力!? アメリアに何をさせるつもりだ!?)
『あたしの仲間達……に、人を……彼らをおびき寄せる餌に……』
(餌、だと!?)
ユリアンは愕然とした。
アメリアを誘惑する女は、アメリアを使って客を呼び込むつもりなのだ。悪質な女衒に違いない。
(くっ……! いつの間にそんな連中に目を付けられたんだ!?)
いや、待て。公爵はこの離れを「悪魔の館」と呼んでいた。悪魔のような連中がこの離れにいることを知っていたはずだ。
(まさかっ……公爵が連中を引き入れたのか!?)
王太子に婚約破棄された娘を女衒の手に引き渡すとは、見下げ果てた男だ。ユリアンは怒りに燃えた。
(僕が絶対にアメリアを助ける……)
『お任せください! 立派に……になってみせますわ!』
(アメリアぁぁぁっ!!)
何故か前向きな返事をするアメリアに、ユリアンは動揺した。
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