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〜赤いチャンチャンコと弟の歪んだ愛情〜
怪17
しおりを挟むアメリアは真剣な表情で尋ねた。
「教えてくださいっ……『赤いチャンチャンコ』とは、なんなのですか!?」
花子は難しい表情で目を伏せた。
「いわゆる「学校の怪談」の一種……トイレの個室から『赤いチャンチャンコいらんかねぇ』と声がして、その声に「いる」と答えると血塗れにされて殺され、「いらない」と答えると首を絞めて殺される……」
「なっ……」
アメリアは絶句した。
「なんですの!? その理不尽な御方は!」
そっちから質問しておいて、それに答えたら殺すなど、どう考えても野蛮な行いだ。
「それでは、ハンナ様が無事だったのは……」
「たぶん、質問に質問で返したからかな?」
花子も首を捻る。
「ハンナ様がご無事で良かったですわ。しかし、そのような神をも恐れぬ所業を見逃すわけには参りません!」
アメリアはきっとまなじりを決してトイレの扉を開けた。
トイレの中は薄暗く、静かな空間に個室が並んでいる。そのうちの一つ、戸の閉まっている個室の前に立ち、アメリアは深呼吸をした。
「そこにいらっしゃるのでしょう? 花子さんに聞きましたわ。貴方の恐ろしい罪を」
語りかけるが、個室からは何も返ってこない。
「何故、貴方がそのような残酷な真似をなさるのか、わたくしにはわかりません。しかし、罪のない人々を殺めることを許すわけにはまいりません」
アメリアは個室の戸に懸命に訴えた。
「わたくしと共に教会へ参りましょう! そして、神に許しを請うのです!」
アメリアの後ろで眺めていた花子は、首をカクッと折ってうなだれた。
正義感に燃えるアメリアには悪いが、都市伝説は神に懺悔したりしないのだ。とっ捕まえて強制送還できればそれでいい。
花子はアメリアと個室の戸の間に体をねじ込み、個室の中の様子に聞き耳を立てた。
中からは何の気配も感じられない。
「……どうやら、もうここにはいないようだわ」
「そんな!」
アメリアは手で口を押さえて身を震わせた。
「このままでは学園の皆様が危険だわ! 返事をしたら殺されるだなんて!」
アメリアが学園の生徒達の身を案じて震えていると、教師を連れたハンナが駆け戻ってきた。花子は素早く姿を消した。
「アメリア様!」
「ハンナ様……どうやら、個室には既に誰もいないようですわ」
念のためにと教師が個室の戸を開けてみたが、やはりそこはもぬけの殻だった。
「本当に声が聞こえたのか?」
「間違いございません!」
「アメリア嬢も?」
「わたくしは聞いておりません。わたくしが来る前に逃げたのではないかと」
教師の質問に正直に答える。
「老婆がこの学園に侵入してトイレにこもっていたなどと信じられん。イタズラじゃないのか」
教師は疑いの目でハンナを見た。
「そんな! 本当です!」
「だが、アメリア嬢も声は聞いていないと言っている。老婆がそんなに素早く身を隠せるものか?」
ハンナは言い返せずに黙り込んでしまった。
(このままでは、ハンナ様が嘘つき呼ばわりされてしまう……)
アメリアは悔しそうに唇を噛むハンナを見て胸を痛めた。昨夜の光景が蘇る。やってもいないことで責め立てられて、誰も信じてくれなくて、孤立した辛さは今のアメリアには誰よりもよくわかる。
「お待ちください、先生。ハンナ様は嘘は吐いておられないと思います」
黙って見過ごすことが出来ず、咄嗟にアメリアはそう言っていた。
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