38 / 88
〜メリーさんと義母のたしなみ〜
怪38
しおりを挟む運動なんてしたこともなかったから最初は筋肉痛に悩まされたが、最近はだいぶ素早く動けるようになってきたとアメリアはちょっと誇らしくなった。
「次こそは、『メリーさん』を捕まえてみせますわ!」
気合い十分のアメリアと共に怪異を探して校舎をうろついていた花子は溜め息を吐いた。
「鍛えすぎてムキムキにはならないでね」
「ムキムキは難しいでしょうけれど、でも、最近は気配にも敏感になってきたような気がしますの!」
確かに、ここ数日の間「嫌な気配がしますわ」とか言って、進行方向で待ち伏せしている王太子と男爵令嬢を回避したことが何度かあった。修行の成果が出ているようで喜ばしい。
そんな風にアメリアと花子が怪異を探してふらふらしている頃、張り裂けそうな胸を押さえて悶えている少女がいた。
(ああ……この前のユリアン様の態度は、やはりそうなの? そういうことなの……?)
図らずもユリアン・アーバンフォークロアの胸の内を聞いてしまった少女、ハンナ・オリアーノである。
(い、いけないわ。お二人は異母姉弟……私などが邪推することは許されない……ああ、けれどっ)
ここ数日、思考回路は堂々巡りでハンナは苦しんでいた。
いっそ誰かに吐露してしまいたい。でも、誰にも聞かせるわけにはいかない。
「はあ……」
重い溜め息を吐いて、ハンナは階段を降りていた。踊り場に差し掛かり、いつものように何気なく曲がって階段を降りていく。
ふと、違和感を感じて、ハンナは振り返った。
踊り場はいつもと何も変わらない。
(気のせい……?)
首を捻りつつも、ハンナは踊り場に背を向けて階段を降りた。
「くそっ! アメリアの奴、最近俺のことを避けているな! そんなことをして俺の気を引くつもりだろうが、まったく無駄なことを!」
「そうよそうよ! クラウスを避けるだなんて何様なの!」
誰だって避けたくなるわ、とクラスメイト達に内心で思われていることに気付かないクラウスとメルティは、今日も教室でアメリアの悪口を言っていた。悪口と言っても、二人とも語彙力が貧困なので大したことは言えていない。それもまた哀れである。
そこへ、廊下を颯爽と歩いている人影があった。
「あっ! ショーン!」
めざとくそれを見つけて、メルティが駆け寄る。
「なんか久しぶりじゃない? この頃、ユリアン君もそっけないし、寂しかった~」
ショーンは面倒くさそうにメルティを見下ろした。
「メルティ。悪いが、しばらく俺は忙しくなりそうなんだ」
「えっ、そうなの?」
「ああ。これでも騎士志望だからな。鍛錬をさぼる訳にはいかない」
ショーンの言葉に、メルティは口を尖らせた。
「ぶー。鍛錬なんか少しぐらいサボってもいいのに。この国は平和なんだから」
「そうだぞショーン。この国は北の大国と同盟を結んでいる限り、安泰だ。北の大国と長年戦っている西の王国の連中は我が国に手を出せないからな」
クラウスがメルティの言葉に同意する。この国は、北の大国と同盟関係にある。北の大国と西の王国はクラウス達が生まれる前から戦っているが、戦火がテイステッド王国へ及んだことはない。
ショーンはすいっと目を細めた。
「だが、国を守る方法は「戦うこと」だけとは限らないからな」
「ん?ああ、まあ、そうだな」
ショーンは身を翻した。
「この国は、「守られている」……今は、な」
小さく呟いた声は、誰にも聞かれていなかった。
1
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる