45 / 88
〜紫鏡と王太子の言い分〜
怪45
しおりを挟む出来れば馬車を動かせる協力者がほしい。
花子から出された提案に、アメリアは困り果てた。
馬車を自由に動かせるのはそれなりの家格の高位貴族に限る。そもそも、当主の許可がいるのだから子供では馬車と御者を持ち出せないだろう。
となると、辻馬車を使うことになる。だが、アメリアや花子のような少女だけで夜中に辻馬車を捕まえたりすれば、訳ありと思われて憲兵に突き出されるか、最悪、ならず者に目を付けられて身に危険が及ぶ可能性もある。
「どうしましょう……」
学園に向かう馬車の中で、アメリアは肩を落として溜め息を吐いた。
「姉上。何がですか?」
聞き咎めたユリアンが尋ねてくる。
「なんでもないわ」
アメリアはユリアンの方を見ずに顔を窓の外に向けた。
(わたくしがもっと早く走ることが出来て、学園まで走っても疲れないたくましさをもっていれば馬車など必要なかったのに。わたくしが、貧弱なばっかりに……)
「力が……っ、欲しい……!」
「姉上……っ!」
アメリアが思わず漏らした嘆きに、ユリアンは驚愕した。これまで、何一つ望むことのなかったアメリアが、心の底からの叫びのように欲している。アメリアが何かを欲しいと思えるようになった。それは喜ぶべきことかもしれない。
だが、それを欲するようになったのは、あの得体の知れない子供の影響ではないのかと、ユリアンは奥歯を噛みしめた。
(僕がもっと、強ければ……っ、そもそも、アメリアをあんなアホ王太子から救い出せる立場であれば、不名誉な婚約破棄などに持ち込まずに済んだのに……)
元々、ユリアンがクラウスの傍に侍っていたのは、王太子がアメリアに対して不埒な真似や迷惑をかけたりしないように見張るためだ。
そこへメルティがちゃらちゃらと近寄ってきて、思慮は浅いが中身はそう悪い人間ではなく、お気楽なところがクラウスと馬が合うようだった。
彼らがアメリアとの婚約を破棄してしまおうと悪巧みを始めた時は「何をこいつらは」と腹が立ったが、すぐにどうしようもない誘惑に駆られた。
こいつらを利用すれば、アメリアを手に入れられる。と。
ユリアンとアメリアは、「異母姉弟」だ。そうでないと知っているのは、ユリアンと、ユリアンの母と「父」だけだ。
メルティがアメリアに着せようとしている「罪」は虐めとも呼べぬほど他愛もないものだったし、処刑だの追放だのを望んでいる訳でもなく、ただちょっとアメリアをぎゃふんと言わせて婚約を無くしたいというだけだった。
だから、この機を逃したら、アメリアを手に入れることは出来ないとユリアンは思った。ユリアンには、他に方法がなかったのだ。
(アメリアには悪いことをしたと思うが……それでも、王太子との婚約を破棄できたことを後悔はしない。王太子とメルティの浅はかな計画に乗ったのも……そういえば)
ふと、ユリアンは思った。
(ショーンの奴は、何を思ってあんな計画に荷担したんだろう)
堅物の騎士団団長の息子を思い浮かべて、ユリアンは初めてそんなことを考えた。これまでは、アメリアのことばかり考えていて、気にしたことがなかった。
寡黙な彼が何を考えているのか、今さらながらにユリアンは気になりだした。
(メルティを気に入っているからかと思っていたが、婚約破棄以降はメルティに近寄っている様子はない。では、他に何か目的が……? はっ! まさか! 奴の目的もアメリアなのでは!? ……くっ!)
ユリアンは拳を握りしめた。あの正当性の欠片もない婚約破棄に乗っかった目的など、アメリアの立場を弱めて己れのものとするためとしか考えられない。
(アメリアは渡さないっ! 貴様に負けはしないぞショーン!)
何もしていないのにユリアンの脳内で勝手に恋敵に認定されたショーンにとっては濡れ衣もいいところであった。
1
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる