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〜紫鏡と王太子の言い分〜
怪47
しおりを挟むユリアンはアメリアを探して学園中を歩き回っていた。
先ほどから目撃証言は山ほどあるのだが、アメリアは動き回っているらしくなかなか捕まらない。
ユリアンは不満だった。クラウスとの婚約を破棄させてしまえば、アメリアは王妃教育も受けなくて良くなり、ユリアンと一緒にいる時間が増えると思っていた。
それなのに、婚約破棄された後のアメリアには得体の知らない子供がずっとくっついていて、ユリアンが思い描いたような二人きりの世界が作れていない。その上、何か危険なことに首を突っ込んでいる。
(やはり、あの子供からは引き離さなければならないが……ショーンのことも気になるな。アメリアは渡さない!)
つい数時間前にユリアンの脳内で恋敵に認定されたショーンについて思い巡らす。
(相手は普段から体を鍛えている野蛮な者だ。アメリアにはふさわしくない……はっ! そういえば、アメリアは「力が欲しい」と言っていた!)
力が欲しい、つまり、力強い男を求めているということなのか。と、ユリアンは愕然とした。
アメリアは軟弱王太子に婚約破棄されたショックで、今度は自分を守ってくれる力強い男を求めているのではないだろうか。そして、アメリアのその揺れる気持ちにつけ込んだのが、ショーン・アルテロイド。あのしなやかな筋肉を見せつけ、強引に迫ったに違いない。
もちろん、ただのユリアンの妄想である。
「おのれっ……! ショーン・アルテロイド!」
ユリアンは拳を握って唸り声を上げた。
おわかりいただけただろうか。
ユリアン・アーバンフォークロアは出生に関する秘密を長年心の中で一人抱え続けたせいで、一人上手を大いに拗らせているのである。
「貴様にアメリアは渡さないっ……ん? あれは」
いつの間にか西棟側の裏庭にまで足を踏み入れていたことに気付いた時、見上げた二階の窓に、アメリアの姿が見えた。
「あんなところで何を……」
探し求めていた少女の姿を見つけたことに安堵する前に、彼女に歩み寄るショーンの姿が目に入ってユリアンは声を失った。
アメリアとショーンは真剣な顔つきで何かを言い合い、アメリアが踵を返して駆け去っていく。その後ろ姿をじっと暗い目で追うショーン。
それを目にして、ユリアンは己れの懸念が当たっていたことを悟った。
ショーンはこうして人気のない場所でアメリアに言い寄っていたのだ。
(なんてことだ……!)
ユリアンは悔しかった。血が繋がっていないことを容易には打ち明けられない自分が足踏みしている間に、ユリアンの長年の苦悩など何も知らない男がアメリアに手を伸ばす。許せなかった。
誰にも渡すつもりはない。アメリアだけは、何があっても自分のものにすると、ユリアンは心に決めていた。
たとえ、アメリアがそれを望まなかったとしても。
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