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〜紫鏡と王太子の言い分〜
怪52
しおりを挟む窓の外には既に月が高く昇っている。夕餉も終えて、どの家も一家団欒を迎えている頃だろう。
ペレディル男爵は窓の外を眺めたまま、じっと立ち尽くしていた。
「旦那様。王太子が訪ねて参りました」
「何用か」
「それが、学園で呪いを解くからお嬢様に勇姿を見せたいだかなんだか」
報告にやってきた執事もなんのことやらと眉根を寄せている。ペレディル男爵はふっと息を吐いた。
「メルティはもう眠っていると言って追い返せ」
「は。……お嬢様は、如何いたしますか?」
執事の声に重みが含まれる。
メルティはこの家にいない。学園から、まだ帰ってきていない。
「構わぬ。『紅きチャンジャール公』を滅ぼすと決めた時から、娘に何があろうと目的のためには受け入れると覚悟を決めていた」
「は」
ペレディル男爵は窓の外を見つめたまま動かなかった。
執事が立ち去ってから、小さく呟いたのみだ。
「許せ、メルティ。だが、この国の罪を知らぬままでいられたのなら、幸せなのかも知れぬぞ」
クラウスは不機嫌を隠さずに正面のアメリアを睨んだ。
アメリアの両隣には子爵令嬢と、何故か小さな子供がくっついている。誰もクラウスの隣に座りたがらなかったため、若干重量が偏っている馬車の中である。
「まったく。せっかくメルティに俺が呪いに打ち勝つ姿を見せようと思ったのに……」
男爵家の執事に冷たく追い返されたのを思い出して、クラウスは眉根を寄せた。
「仕方がないから、貴様等がとくと目にしろ! この俺の勇姿を!」
「アメリア、ハンナ。この布を渡しておくわね」
「わあ。こんなにたくさん、どこに持っていたの?」
「というか、どこから持ってきたんですの?」
「アメリアん家の窓からちょっとね」
「我が家のカーテンを……?」
ちなみにその頃、公爵家の本邸では謎のカーテン大量消失事件に「悪魔のしわざだ」と公爵夫妻が騒ぎ出して大わらわとなっていた。
「おい! 無視するな!」
「殿下。夜の学園に立ち入る許可を取っていただきありがとうございます」
アメリアは布を畳みつつクラウスに礼を言った。自分だけでは花子の力になれなかった。『紫鏡』を捕まえるために、この後は自分が頑張らなくてはと決意を固める。
「ふん! 感謝するがいい! そして、呪いの言葉ごときでこの俺をどうにか出来るだなどと考えた己れの愚かさを思い知るがいい!」
「到着したらトイレットぺーぺーで巻いておく?」
「殿下も何かやることがおありのようだわ。互いに邪魔しないようにしましょう」
そうこう言い合っているうちに、馬車は学園に到着した。
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