アメリア&花子〜婚約破棄された公爵令嬢は都市伝説をハントする〜

荒瀬ヤヒロ

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〜百キロババアと公爵の罪〜

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 アメリアはふっと目を開けた。
 気を失っていたらしい。

「う……」

 呻いて体を起こすと、アメリアの手を誰かが握っているのに気づいた。
 横を見ると、地面に倒れて赤ん坊のように丸まって眠っているユリアンがいた。彼がアメリアの手を握りしめている。

「ここは……」

 アメリアは辺りを見回して息を飲んだ。覚えのある場所だったからだ。

「『紫鏡』様の、鏡の中……?」

 暗く何もない空間は鏡の中に引き入れられた際に見た光景だ。
 アメリアはとりあえずユリアンを起こすことにした。

「ユリアン、ユリアン。起きて」

 揺さぶってみても、ユリアンは目を開けない。呼吸は穏やかなので眠っているだけのようだが、いくら起こしても目覚めなかった。

「ユリアン……」
「安心して。『コックリさん』に取りつかれてちょっと消耗しているだけよ。すぐに目覚めるわ」

 闇の中から姿を現したのは、金髪に青い瞳の少女だった。

「あ、あなたは……」
「私は『メリーさん』。今、あなたの目の前にいるの」

 少女はにっこりと笑った。

「ごめんなさいね。あなたを『トイレの花子さん』から引き離すために、彼を利用させてもらったわ。彼を苦悩させて弱ったところを操ってしまったけれど、少し眠れば回復するから許してちょうだい」

 アメリアはぐっすり眠っているユリアンをみつめた。確かに様子が変だった。あれは操られていたのか。

「どうして、わたくしをここに連れてきたのです?」

 アメリアはきっ、と『メリーさん』を睨んだ。

「言ったでしょう? 花子さんから引き離すためよ」
「何故です? 花子さんはわたくしのお友達ですわ」

『メリーさん』がすうっと目を細めた。

「だからよ」
「え?」

『メリーさん』は一つ溜め息を吐くと、アメリアに背を向けて言った。

「私達は、人間の噂話から生まれた存在。人間の恐怖心が私達を形作っているの」

 人が彼らの話を語る分だけ、人が彼らの存在を恐れた分だけ、都市伝説の主は実体化し強くなっていくのだ。

 娯楽と刺激が多くなりすぎた日本では、もう彼らは子供達の恐怖の対象ではなくなってしまった。これ以上日本にいたら、いつか人間達から忘れられて消えてしまうと思った。

 だから、異世界で一から恐怖を振りまいて、人間達から恐れられる存在になろうと思ってここへ来たのだ。

「人から恐れられなくなった時、私達は消える。人間と仲良くなるなど、自殺行為よ」

『メリーさん』の言葉に、アメリアは目を見開いた。


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