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〜百キロババアと公爵の罪〜
怪74
しおりを挟む王都の北端に古い屋敷がある。人通りも少なく寂しい通りに面した屋敷には、コートリー伯爵夫妻が僅かな使用人と共に暮らしている。
現コートリー伯爵は、先代のコートリー伯爵の遠縁だという。先代伯爵に子供がなかったため、他国で暮らしていた伯爵が養子として迎えられたという話だった。
親族から養子をとって家を存続させるのは珍しくない。他国から来た故、言葉に不慣れで、とコートリー伯爵夫妻が社交を最低限に留めているのも、理解できなくはない。
だが、コートリー伯爵夫妻が妻を亡くしたばかりのアーバンフォークロア公爵の後妻に娘を送り込んだことには、当時誰もが眉をひそめた。
妻を亡くしたばかりの公爵に娘を押しつける伯爵も、妻を亡くして間もないのに伯爵の娘を受け入れた公爵も、どちらも非難の目で見られた。
しかし、些か非常識な結婚ではあったが国王の許しは得られたし、面と向かってアーバンフォークロア公爵にたてつける者はいない。非難の声もやがて小さくなり、消え失せた。
コートリー伯爵夫妻は古い屋敷に引きこもり、時折社交に顔を出すだけの目立たない中流貴族だった。
そのコートリー伯爵ドノヴァンは、もたらされた報告に眉をしかめていた。
「壊滅、だと?」
「はい。本国に至る七つの拠点すべてで部下が惨殺されました」
コートリー伯爵は怒りにまかせて机を叩いた。
「公爵はなんと言っている!」
「まったく預かり知らぬこと、と」
この短期間で部下を何十人も殺されたコートリー伯爵にはとうてい納得できることではなかった。
「どうやら公爵もヴィレム王も我らを甘く見ているようだな」
この国の平和は帝国の情けによるものだということを理解していないのか、と、コートリー伯爵は歯ぎしりをする。
「度重なる失態により皇帝陛下の御心を騒がせ奉りしは我が不徳の致すところ。今一度、ヴィレム王と公爵に思い知らせねばならぬ」
そう呟いたちょうどその時、騒ぎが起きた。
「何だ?」
「アーバンフォークロア公爵が乗り込んできたようです」
いくらもしないうちに、憤怒の形相の公爵が乗り込んできた。制止する家人を振りきってコートリー伯爵の胸ぐらを掴んだ公爵は、アメリアの行方を問いただした。
「お前の娘がどうしたというんだ」
「帝国の者がアメリアをさらったのだろう!」
「何のためにだ。男爵の娘に王太子を横取りされるような間抜けなど、何の価値もない」
小馬鹿にして笑うと、公爵の拳に力が込められた。
「そもそも、約定を違えたのはお前達だ。なんだここ最近の襲撃は。お前かヴィレム王の命でせっかく作った拠点を潰しているのではないだろうな」
コートリー伯爵が公爵の前髪を鷲掴み、力任せに自分から引き剥がした。
「偉大なる帝国へ身を捧げる誉れを与えてやったというのに。この国が帝国の恩恵を受けていることを誰も理解していない」
コートリー伯爵は冷たい目で公爵を睨みつけた。
「これまで通り、平和と引き替えに帝国へ「労働力」を捧げるしかないのだぞ。なぁ、『紅きチャンジャール公』」
その名で呼ばれた公爵は顔を歪ませた。
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