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〜百キロババアと公爵の罪〜
怪80
しおりを挟むセレナはテイステッド王国の王家と公爵家を監視するために派遣された一族の娘だ。帝国の民として皇帝陛下のために役に立つのが使命と信じていた。
だが、セレナは一人の青年と出会った。
夕日色の髪が印象に残る青年、ユーシス・ミロフと。
西の王国の兵士だった彼は頻発する誘拐について調べており、単身テイステッド王国へ潜入しコートリー伯爵家を探っていた。セレナに近づいたのは口説き落として情報を得るためだったろう。
だが、セレナとユーシスはいつしか惹かれ合い愛し合うようになった。
ユリアンを身ごもっていることを告げた時、ユーシスはセレナに正体を明かしてくれた。二人で西の王国へ逃げるつもりだったが、その前に妊娠がばれてしまった。
怒り狂ったコートリー伯爵に殴られ部屋に軟禁された。しばらくすると、ぐったりとした公爵が部屋に運び込まれてきた。
コートリーが呼び出した公爵を薬で眠らせたのだ。既成事実の責任をとれと迫り、妻を亡くしたばかりの公爵に無理矢理セレナを娶らせた。
コートリー伯爵の計画ではセレナを国王の側妃として王宮へ送り込むつもりだったのだが、セレナが身重になったために計画変更となったのだ。
「おかわいそうな公爵様……亡くなられた奥様を今でも愛していらっしゃるのに。奥様によく似たアメリアを愛していらっしゃるのに。もしも真実を知った時に、アメリアが心おきなく父を軽蔑できるように愛情がない振りをなさって」
「何を言うセレナ。ユリアンは公爵の子だろう。次期公爵となるのだ」
「いいえ。ユリアンが公爵の子でないことを、公爵が一番よく知っていらっしゃいます」
セレナは憐れむような、小馬鹿にするような目で父を見た。
「あの日、運び込まれた公爵は、本当は眠ってなどおりませんでしたわ。薬を飲んだ振りをしていましたの」
「なに?」
「結婚後も、公爵は一度たりとも私の寝室にいらしたことがありませんわ」
セレナはあっけらかんと言い放った。
「公爵がお父様に従っていたのは、すべてはアメリアを守るため。ユリアンを受け入れたのは、『紅きチャンジャール公』の汚れた仕事を帝国の血を引く子供に押しつけられると喜んだからですわ」
自分の子供には継がせたくない公爵の仕事を、憎きコートリーの娘が産んだ子供に押しつけてやれる。公爵はそう考えたのだ。
「お父様が思っているほど、この国の民は弱くも愚かでもありませんわ。だから、私もこの国の民に賭けたのです。真実を知ったなら、必ず帝国に立ち向かってくれるとーー」
セレナの言葉を遮って、使用人が慌てて部屋に入ってきた。
「旦那様! 大変です!」
「なんだ!?」
「邸の周りを貴族どもが囲んでいます! オリアーノ子爵を筆頭に「旦那様に真実を問いたい」と」
「……なんだと?」
コークリー伯爵は苦々しい表情でセレナを見た。
「どうやら、賭けは私の勝ちのようですわ」
セレナはにっこりと微笑んだ。
その時、部屋の隅の姿見が淡く輝きだした。
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