あらしの野球教室!

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
36 / 36

第7話 球拾いの天才⑽

しおりを挟む



 一部始終を見守っていた野分は、おそるおそる雨彦に近付いた。

「……霜枝くん、なんだか大変なことになっちゃったみたいで。ごめん、俺のせいで」

 自分が勧誘して練習に参加させたせいで、雨彦がバレー部の上級生から目を付けられてしまった。野分は申し訳なくて身を縮こませた。

「いや、遅かれ早かれ言われていたよ。キャプテンは正しい」

 雨彦は自嘲の笑みを浮かべた。
 そんな雨彦に、野分は手を差し伸べた。

「あのさ、もしよかったら、一週間、野球部に仮入部しない?」

 雨彦が顔を上げた。

「暇つぶしでもなんでも、キミが一緒にやってくれると助かる。俺達、捕球がとっても下手でさ」

 野分はにっこりと笑った。
 雨彦は野分と、その後ろの野球部員達を眺めた。
 人数も足りない、環境も良くない、それでも、甲子園を目指すという無謀な連中。
 今まで、雨彦はずっと恵まれた環境にいた。天才の兄がいて、そのおこぼれでのんびり球を拾わせてもらっていた。三寒の言う通り、甘えていたのだ。

 全然違う環境に身を置いてみれば、甘えた自分を見つめ直せるかもしれない。雨彦はそう思った。

 だから、差し出されたその手を、そっと握——ろうとしたのを、何故か割り込んできた晴に阻止された。

「仮、入部な」
「う、うん」

 ぎろりと敵意たっぷりに睨まれて、雨彦はたじろいだ。

 晴は内心イラついていた。これまで野分の練習相手は自分だけだったのに、天木田に入ってからというもの、野分は日和にかかりきりになったり、雷を口説いたり、雲居と顔を突き合わせて相談していたりと、やたらと他の男と距離が近い。

 それでも、日和はアホだし雷は熱血馬鹿だし雲居は見るからに草食系がり勉だから見過ごしてきた。

 が、霜枝 雨彦。てめーは駄目だ。

 背は低いが球拾いで鍛え上げた均整のとれた肉体と兄譲りのすっきりと整った容姿。
 さらに部活の先輩に叱責されて打ちひしがれ陰を帯びた表情を見せてくる。アピールしすぎだ。油断ならない。

「?」

 何故か自分の前に立つ晴の背中を眺めて、野分は首を傾げるのだった。



しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...