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第二話「鏡の顔」
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しおりを挟む翌日も、学校中が事件の話題で持ちきりだった。
「そいつ、命に別状はないんだけど、鼻が折れて顔面がひっでー有様なんだってよ」
「犯人って、うちの学校の人間なのかな?」
「自分でやった可能性もあるって聞いた」
どこへ行ってもそんな会話が耳に入る。これだけの事件で、さらに警察までやってきたのだから、皆が騒ぐのも無理はない。
「犯人、うちの学校の生徒なのかな?俺としては、犯人はたちの悪い悪霊で、この後、倉井に除霊されるという展開を期待してるんだけど」
「やめろよ、そういうこと考えるの」
大透の軽口に、稔は暗い声を出した。見える以外は何も出来ないと言っているのに、いつまでも妙な期待を抱かないでほしい。
それに、関係ないとは思うが、事件があったと思しき時間に稔は嫌なものを見ている。
稔の脳裏に高等部のある南校舎に消えていったいくつもの影が思い浮かぶ。大透に言うと大喜びするだろうから絶対に言わないが。
(ま、俺には関係ないんだから、変に首突っ込まなきゃ平気だろ)
「でもな、倉井。いつ悪霊に襲われるのかわからない世の中なんだから、お前も修行とかしてこう……お札とか式神とかをバババッと……」
大透のたわごとは無視して、稔は席を立った。
「どこ行くんだよ」
「資料室。生物の教材を取りに」
「お前って、どうしてそう雑用を押し付けられるんだろうな」
やれやれと言って立ち上がりかけた大透に、稔はこう言った。
「ついてくんな」
***
本当のことを言うと、南校舎には出来れば近寄りたくないのだが、どうにも教師に頼まれると断れない性格が災いしている。
(資料室に行くだけだ。大丈夫)
そう思っていたのだが、南校舎に一歩足を踏み入れるなり、稔は泣きたくなった。
廊下のそこここに得体の知れない影が氾濫している。どうやらここは、一夜にして心霊スポットに変わってしまったらしい。
教室の前を通ると、何事もないように笑いさざめく生徒達と行き会う。
(よく平気だな、こいつら)
見えないとはいえ、これだけ霊が溢れていたら少しは何か感じそうなものだ。
(しかし、なんだってこんなに集まって来たんだ?)
何か原因があるはずだと考えかけて、稔はぶんぶん頭を振った。
(余計なことを考えるなっ!俺には関係ない!)
足早に廊下を渡って、曲がり角まで来た時、稔はうっと呻いて足を止めた。
こちら側の廊下には人影がない。あるのは被服室、トイレ、技術室。ここを通って突き当りの階段を登れば、資料室に行ける。
だが、目の前のトイレから、とてつもなく嫌な気配が漂っている。つい先日、大透と入ったトイレである。
稔はごくっと唾を飲んだ。そろそろと近づいていき、音を立てないよう、そっとトイレの戸を開ける。そして、一瞬で閉めた。
ちらっと見ただけだが、トイレの中が真っ黒に見えるほど、大量の影が寄り集まっているのがわかった。
稔は一目散に駆け出した。階段を駆け上がって、資料室に飛び込み、窓を開けて身を乗り出した。
(見なきゃよかった……)
稔は窓枠にもたれかかって、額の汗を拭った。
下を見ると、高等部の生徒達が楽しそうに通り過ぎるところだった。
(自分の校舎で何が起きているかも知らないで……)
のんきそうな連中に、つい腹が立って、稔は窓の下を睨みつけた。
その時、ふと、稔は気づいた。すぐ下の階の窓が開いていて、窓枠で赤い花がゆらゆらしている。
同時だった。稔が、ああ植木鉢だ。と気づくのと、それが窓枠から落ちるのとは。
「危ないっ!」
稔が叫んだ。だが、次の瞬間、植木鉢は下を歩いていた生徒の頭にぶつかり、派手な音を立てて砕け散った。
悲鳴が上がった。
倒れた生徒の周りに人が集まる。先生を呼んで来いと、誰かが叫んでいる。
稔はその場にへたり込んだ。見たくないものを見てしまった。
ほんの一瞬、だがはっきりと。
植木鉢を押しやる、細く小さな黒い手を。
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