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第三話「土の中」
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あーだこーだと喋っているうちにすっかり暗くなってしまったので、勧めに従って今日も大透の家に泊めて貰うことになった。
お手伝いさんは夕方には帰ってしまうそうで、広い豪邸に三人だけになる。この間はパーティーだったので特別に夜中まで詰めて貰っていたらしい。
「こんなでっかい家に一人でいるの、俺だったら怖いな」
両親も今日は帰ってこないと慣れた調子で説明する大透に、文司が幼い子供のような表情で呟く。
「うちも共働きだから一人で留守番すること多いけど、誰もいない空間って気にならね?暗い洗面所とか」
「うちの洗面所は扉開けたら自動で電気点くけど」
「くっそセレブめ」
大透がふわぁと欠伸しながらベッドに腰掛ける。
「まぁ、一人で気楽にホラー映画見たり出来るし、寂しい時はネットで怖い話漁ったりして気を紛らわせるから」
「寂しい時の行動として間違ってる」
大透がノンストップオカルトマニアに成長した一端が垣間見えて、稔はげんなりした。
稔の未来のためにも、こいつに何か別の趣味を見つけてやるべきなのではないかと思うも、稔自身も特に趣味がないので勧められるものもない。
ふっと溜め息を吐いた瞬間、何か焦げたような匂いが鼻先をかすめた。
しかし、顔を上げるとその匂いはすぐに消えてしまった。
(気のせいか……いや)
匂い。今回は、霊が姿を現すとともに匂いが漂う。
咄嗟に辺りを見回すも、異変は感じられない。
「どうした、倉井?」
「いや……なんか一瞬、焦げ臭いような気がしたんだけど」
稔がきょろきょろしているのを見て、大透と文司が首を傾げた。
「そういえば、土の匂いと獣の臭いがするって言ってましたけど、土の匂いはともかく、獣の臭いって何なんでしょう?」
文司が眉をひそめて言う。
「何か、女の子の霊に関係あるんでしょうか?」
言われて、稔は獣の臭いを感じた時を思い返した。女の子の霊が出る時、必ず土の匂いがする。湿った、生臭い、厭な匂いだ。
金縛りにあった時も、まず土の匂いがして、それから、強烈な獣の臭いがして金縛りが解けた。
(あれ?)
稔は首を捻った。
そういえば、獣の臭いには、土の匂いのような厭なものは感じない。くさいとは思うが、それだけだ。
獣の臭いは、女の子とは関係がないのか。いや、そんな訳はない。
どうにも気になるため、稔は大透と文司にもその引っかかりを打ち明けた。大透は稔と同じように腑に落ちない顔をしていたが、文司はしばし考え込んだ後、何か思い浮かんだように目を眇めた。
「師匠、今、焦げた臭いがしたって言いましたよね?」
「あ、ああ」
「宮城。ちょっと調べてほしいんだけど」
文司に促されて、大透は椅子に座ってパソコンに向き合った。
「九から十年前に、動物虐待や放火の記事がないか?」
稔は息を飲んだ。
「……十歳の女の子が、いきなり他人の家に侵入して赤ん坊に危害を加えるなんて、やっぱり信じがたいですよ。でも、もしも、その女の子が、元からそういう性質だとしたら、どうでしょう?」
「元からって……」
戸惑う稔に、文司は真剣な目つきで言った。
「人に危害を加える事件を起こす人間の中には、幼少期から虫や動物を殺したり、放火したりする奴がいるって本で読みました。もしも、その女の子がそうだったら、奈村さんやみくりに危害を加える前に、小さな動物を殺したりしてるかも……」
大透がカチャカチャとキーボードを叩いて、過去の新聞記事を検索する。果たして、地方紙の片隅にその記事はあった。
「虫の死骸が郵便受けに入れられるイタズラが頻発、足を切られた野良猫がみつかる、飼い犬に煉瓦がぶつけられる被害……」
眉をしかめて記事を読み上げる大透の後ろで、稔はぞくりと背筋を震わせた。もしも本当に、これがあの女の子の仕業なのだとしたら、生前からまともじゃない。霊になる前の人間に恐怖を感じるなど、稔には初めてのことだった。
「これ、その女の子のやったことだとしたら、師匠が感じた獣の臭いっていうのは、女の子の霊に取り憑いてるんじゃないでしょうか?」
「霊が、霊に取り憑いてるっていうのか……?」
稔は目を瞬いた。
「……なぁ、ちょっと、この記事見てくれ」
大透が一つの小さな記事を指さした。
小学生が電車に轢かれたという事故の記事だった。名前は出ていないが、十歳の女児が死亡とある。
「この記事の日付の後、嫌がらせや動物虐待についてのSNSの書き込みがぐっと減ってる……」
大透はブラウザをいくつも開いて目を忙しなく動かしている。
なんだか、そこはかとなく厭な感じがする。
幼い女の子がそんなことをするなど、信じられないし、信じたくない。
大透は事故のあった場所から、おそらく学区は緑城小だとあたりをつけた。
「子供が何か埋めるなら、家か学校の近くだろ?緑城小には裏山があるぞ」
緑城小出身の大透が、稔と文司を振り返って言う。
「明日、行ってみないか」
何かわかるかもしれない、との言葉に、首を横に振ることは稔には出来なかった。
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