失敗作の愛し方 〜上司の尻拭いでモテない皇太子の婚約者になりました〜

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
31 / 42

第三十一話 帰還命令

しおりを挟む


「ジェラルド、様……?」

 ライリンがさっきまでリートが座っていた席に座る。その動きを、ジェラルドの目が愛おしそうに追う。
 戸口に立ち尽くすリートには一瞥もくれない。

「ジェラルド様、お茶のおかわりはいかがですか?」
「ああ。ありがとう、リート」

 ジェラルドはライリンをみつめて、彼女に「リート」と呼びかける。
 リートの頭がぐわん、と揺れた。

(なに……?)

 何が起こっているのか、理解できない。

「……っ、ジェラルド様!?」

 何事もなかったように続く団欒に、リートは堪えきれずにジェラルドに駆け寄った。

「ジェラルド様!? いったい、どうして……」

 どうして、他の者をリートの名で呼ぶのか。そう問いたかったのに、リートが目の前に立っても、ジェラルドの視線は隣に座るライリンに向いたまま、リートを見ようともしない。

「ジェラルド様!?」

 リートは思わずジェラルドの肩を掴んで揺さぶった。
 それなのに、ジェラルドは何も反応しない。リートの存在を完全に無視しているようだ。
 リートの必死な様子を見て、ライリンがくすくすと笑った。

「あんたっ……」
「ごめんなさい、殿下~。もう一度、失礼します。すぐ戻ってくるので~」

 立ち上がったライリンが、リートの腕を掴んで部屋から引きずり出した。

「ああ、行っておいで。リート」

 にこやかに送り出すジェラルドの目は、リートではない少女に向けられて優しく細められていた。

「まったく、近づくだけでも鳥肌が立つわね。天女だから耐えられるけど」

 部屋から出るなり、ライリンがさも嫌そうに腕をさすった。

「さっさと終わらせてアモ様の元に帰りたいわー」
「……どういうこと?」

 リートは噛みつくように尋ねた。

「だから、さっき言ったでしょ? 今日から、あたしが「リート・クーヴィット」なの」
「なにをっ……」
「アモルテス様のご命令よ」
「っ……」

 リートは言葉を失った。勝ち誇った顔のライリンは、アモルテスから下された命令をリートに伝える。

 リートの任務をライリンが引継、リートは天界へ帰還すること。以後は、ライリンが「リート・クーヴィット」となり皇太子の魂の入れ換え作業を行う。

「殿下達の意識では既に「リート・クーヴィット」はあたしの姿にすり替わっているわ。そして、アンタのことは誰も認識できないようにしてもらったわ。泣こうが喚こうがすがりつこうが、皇太子はアンタの存在を認識できないわよ」

 ジェラルドの目がリートに向けられなかったのは、彼はリートを認識していない——目に映らなかったからだ、という。

「どう……して……」

 リートは声の震えを抑えることが出来なかった。愕然として真っ白な顔で立ち尽くすリートを見て、ライリンはふん、と嘲るように鼻を鳴らした。

「人形の分際で、恋なんてするからよ」

 ライリンの言葉に、リートは目を瞬かせた。

「恋……?」

 お前は恋を知らない、と、アモルテスの言葉が脳裏に蘇る。

 恋なんて、していない。リートはただ、アモルテスのために命令通りに働いていただけ。
 恋なんて。

「このお役目を果たせば、アモ様の寵愛はあたしのものよ! アンタはお役御免よ。天界に帰れとご命令が下ったのだから、さっさと帰りなさい」

 ライリンがリートを突き飛ばし、部屋の中に戻っていった。
 一瞬追いかけようとしかけて、でも、こちらを見ないジェラルドが思い浮かんでリートの足を動かなくした。

(なんで……)

 部屋の中から響くライリンの華やかな声と、時折柔やわらかく聞こえてくるジェラルドの声に、リートは扉の前に立ち尽くすことしか出来なかった。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

【完結】王宮内は安定したらしいので、第二王子と国内の視察に行ってきます!(呼ばれたみたいなので、異世界でも生きてみます。の続編です)

まりぃべる
恋愛
異世界に呼ばれた佐川マリア。マリア・サガワとしてこの世界で生きて行く事に決め、第二王子殿下のルークウェスト=ヴァン=ケルンベルトと一緒に、この国をより良くしていきます!って、実際は2人で旅行がしたかっただけ? 呼ばれたみたいなので、異世界でも生きてみます。の続編です。 長くなりましたので、前作の続きでは無く新しくしました。前作でしおりを挟んでくれた方ありがとうございました。 読んでなくても分かるようにしております。けれど、分かりにくかったらすみません。 前作も読んで下さると嬉しいです。 まだまだ未熟なので、稚拙ではありますが、読んでいただけると嬉しいです。 ☆前作で読者様よりご指摘が有りましたのでこちらにも記載しておきます。 主人公の年齢は設定としてありますが、読者様が主人公になれたらな(もしくは好きな年齢に当てはめて読めたら)という思いを込めて敢えて年齢を記載していません。

揺れぬ王と、その隣で均衡を保つ妃

ふわふわ
恋愛
婚約破棄の断罪の場で、すべては始まった。 王太子は感情に流され、公爵令嬢との婚約を解消する。 だが、その決断は王家と貴族社会の均衡を揺るがし、国そのものを危うくする一手だった。 ――それでも彼女は、声を荒らげない。 問いただすのはただ一つ。 「そのご婚約は、国家にとって正当なものですか?」 制度、資格、責任。 恋ではなく“国家の構造”を示した瞬間、王太子は初めて己の立場を知る。 やがて選ばれるのは、感情ではなく均衡。 衝動の王子は、嵐を起こさぬ王へと変わっていく。 そして彼の隣には、常に彼女が立つ。 派手な革命も、劇的な勝利もない。 あるのは、小さな揺れを整え続ける日々。 遠雷を読み、火種を消し、疑念に居場所を与え、 声なき拍手を聞き取る。 これは―― 嵐を起こさなかった王と、 その隣で国家の均衡を保ち続けた妃の物語。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

図書館の堕天司書 ―私達も図書館から禁帯出です―

ふわふわ
恋愛
有能司書レリアンは、蔵書管理ログ不整合の責任を押し付けられ、王太子の判断で解任されてしまう。 だがその不祥事の原因は、無能な同僚テラシーの入力ミスだった。 解任されたレリアンが向かったのは、誰も使っていない最下層。 そこに山積みになっていた禁帯出蔵書を、一冊ずつ、ただ静かに確認し始める。 ――それだけだった。 だが、図書館の安定率は上昇する。 揺れは消え、事故はなくなり、百年ぶりの大拡張すら収束する。 やがて図書館は彼女を“常駐司書”として自動登録。 王太子が気づいたときには、 図書館はすでに「彼女を基準に」最適化されていた。 これは、追放でも復讐でもない。 有能な現場が、静かに世界の基準になる物語。 《常駐司書:最適》 --- もしアルファポリス向けにもう少し分かりやすくするなら、やや説明を足したバージョンも作れます。 煽り強めにしますか? それとも今の静かな完成形で行きますか?

処理中です...