死に戻りの公爵令嬢は嫌われ者の下僕になりたい

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
2 / 89

第2話 巻き戻りと恩返し

しおりを挟む




 天の門をくぐって神の御許へ行けたなら、私はヒューイット・グレイへの感謝を天の神に余すことなく伝えよう。

 どうか彼が、幸せな人生を送れるように。

 安らかな気持ちで、私は目を開けた。
 見慣れた天井が見える。

「お嬢様。おはようございます」

 侍女のアニーの声が聞こえる。

「……え?」

 私は身を起こして周囲を見回した。見慣れた自分の部屋に、すぐそばに佇む侍女のアニーがいる。

「ステラお嬢様。どうかなさいましたか?」
「……アニー?」
「はい?」

 私は自分を見下ろした。ネグリジェを着て、たった今まで寝台に横になっていたようだ。

「ア、アニー? 私、助かったの?」
「は?」

 首を触ってみるが、包帯も巻かれていなければ傷もない。

「お嬢様。ご気分が悪いのですか? 今日はお茶会ですが、大丈夫でしょうか?」

 アニーが顔を覗き込んでくる。

 お茶会……?

「王宮での初めてのお茶会、あんなに楽しみにしていらしたでしょう?」

 私は目を見開いてアニーをみつめた。
 王宮でのお茶会……それって、私が十歳の時に参加したお茶会のこと?

「アニー、私は何歳?」
「お嬢様? 本当に大丈夫ですか? お嬢様は先月十歳になられたでしょう?」

 嘘。もしかして、時間が巻き戻ってる?

 いいえ。今までのは夢だったのかしら?
 ……いいや、あれが夢のはずがない。あれは現実に起きたことだ。

 首に当てた冷たい感触を思い出しながら、私は考えた。

 私は死んだはず。それなのに、どうして十歳の頃に戻っているのだろう。

 十歳の時、王宮で行われたお茶会でジュリアス殿下と出会った。それまで出会ったことがなかった同い年の男の子で、人気者の王子様という存在に憧れを抱いて、「王子様と結婚したい」とお父様にねだったのだ。
 それで、婚約者になった。けれど、八年後に婚約破棄されて地下牢へ放り込まれる。そこで、私は……

「お嬢様。お茶会へ行く支度をしなければ」

 アニーに促され、私ははっとした。

 お茶化に行きたくない。というか、ジュリアス殿下に会いたくない。
 どうしてかはわからないけれど、婚約前に戻っているのだ。もうあんなことは二度と御免だ。

 お茶会には行かない。
 そう言いかけた。けれど、同時に思い出した。

 ヒューイット・グレイ。

 グレイ侯爵家の四男で、優秀な兄達と比べられ、荒れた性格で常に嫌われ者だった。確か、婚約者もいなくて、学園を卒業したら侯爵家を出されて平民になると聞いていた。

 そうだ。ヒューイット・グレイもあのお茶会に参加していたはず。
 ていうことは、お茶会に行けばヒューイット・グレイに会える!
 王太子には二度と会いたくないけれど、ヒューイット・グレイには会いたい。会ってお礼を言いたい。
 でも、今の十歳の彼には、お礼を言ってもなんのことかわからないわよね。

 いや、ヒューイット・グレイがただの十歳の子供だったとしても、私は彼には返しきれないぐらいの恩がある。
 どうして時が戻ったのかはわからないけれど、やり直すことが出来るなら、私はヒューイット・グレイへの恩返しのために生きよう。

「アニー! 私、お茶会へ行くわ!」

 ヒューイット・グレイに会う。
 そのためだけに、私はお茶会への参加を決意した。



しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗 「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ! あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。 断罪劇? いや、珍喜劇だね。 魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。 留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。 私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で? 治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな? 聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。 我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし? 面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。 訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結まで予約投稿済み R15は念の為・・

婚約破棄された悪役令嬢は、親の再婚でできた竜人族の義理の兄にいつの間にか求婚されていたみたいです⁉

あきのみどり
恋愛
【竜人族溺愛系義兄×勇ましき病弱系三白眼令嬢】の、すれ違いドタバタラブコメ 『私たちはその女に騙された!』 ──そう主張する婚約者と親友に、学園の悪役令嬢にしたてあげられた男爵令嬢エミリア・レヴィンは、思い切り、やさぐれた。 人族なんて大嫌い、悪役令嬢? 上等だ! ──と、負けん気を発揮しているところに、大好きな父が再婚するとの報せ。 慌てて帰った領地で、エミリアは、ある竜人族の青年と出会い、不思議なウロコを贈られるが……。 後日再会するも、しかしエミリアは気がつかなかった。そのウロコをくれた彼と、父に紹介されたドラゴン顔の『義兄』が、同一人物であることに……。 父に憧れ奮闘する脳筋病弱お嬢様と、彼女に一目惚れし、うっかり求婚してしまった竜人族義兄の、苦悩と萌え多きラブコメです。 突っ込みどころ満載。コメディ要素強め。設定ゆるめ。基本的にまぬけで平和なお話です。 ※なろうさんにも投稿中 ※書き手の許可のない転載は固く禁止いたします。翻訳転載は翻訳後の表現に責任が持てないため許可しません。 気持ちよく作品を生み出せなくなります。ご理解ください。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「エステファニア・サラ・メレンデス――お前との婚約を破棄する」 婚約者であるクラウディオ王太子に、王妃の生誕祝いの夜会で言い渡された私。愛しているわけでもない男に婚約破棄され、断罪されるが……残念ですけど、私と結婚しない王太子殿下に価値はありませんのよ? 何を勘違いしたのか、淫らな恰好の女を伴った元婚約者の暴挙は彼自身へ跳ね返った。 ざまぁ要素あり。溺愛される主人公が無事婚約破棄を乗り越えて幸せを掴むお話。 表紙イラスト:リルドア様(https://coconala.com/users/791723) 【完結】本編63話+外伝11話、2021/01/19 【複数掲載】アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアップ+ 2021/12  異世界恋愛小説コンテスト 一次審査通過 2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜

nacat
恋愛
婚約者に裏切られ、蔑まれ、全てを失った公爵令嬢リリアナ。 「あなたのような女、誰が愛すると?」そう言い放った王太子と元友人に嘲られても、彼女は涙を見せなかった。 だが、冷たく美しい隣国の公爵セドリックと出会った瞬間、運命は静かに動き出す。 冷酷と噂された男の腕のなかで、彼女は再び自分を取り戻していく。 そして――彼女を捨てた者たちは、彼女の眩い幸福の前に膝をつく。 「これは、ざまぁを通り越して愛された令嬢の物語。」

婚約破棄されました。

まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。 本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。 ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。 習作なので短めの話となります。 恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。 ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。 Copyright©︎2020-まるねこ

処理中です...