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しおりを挟む「また失敗したのか!」
今日も上司の怒号が飛ぶ。
ううう…
「ヒンコ!お前は貧乏神だというのに、取り憑いた人間の誰も貧乏に出来ていないじゃないか!このままでは貧乏神の位は剥奪だ!」
「そんな~…」
やばい。ピンチだ。神の座を剥奪されたら、その辺をうろつくだけの魑魅魍魎の一員に成り下がってしまう。
「次は!次こそは絶対に、次のターゲットは必ず貧乏にしてみせますので!」
「うむ…ならばお前に最後のチャンスを与えてやろう」
上司はそう言うと人の悪い笑みを浮かべた。
「これまでどんな手練れを送っても誰も貧乏に出来なかった令嬢が次のターゲットだ!」
「えええ!?」
何言ってんだこのハゲメタボ。そんな難攻不落案件に私を送り込むなんて……失敗しろって言ってんだろ!嫌がらせだろ!
「これまで送り込んだものは三日ともたなかった……しかし、お前なら或いは……」
或いは、じゃねーよ!無理に決まってんだろ!
「頑張れヒンコ!」
「ちょっと待っ……」
有無を言わせず、人と同じ少女の姿から五円玉に変えられる。上司はこうやって部下の姿を変えてターゲットのいる世界に放り込むのだ。
「ではの」
こうして私はターゲットのいる世界へと放り込まれてしまった。
五円玉になってる私は、ターゲットの頭にすこん、とぶつかって地面に着地し、その衝撃で少女の姿に戻る。
こうなっては、やるしかない。
「わ、私は貧乏神のヒンコ!お前を貧乏にするために来た!覚悟しろ!」
「……あら?今回は随分可愛らしい方ですこと」
見事な金髪縦ロールに豪華絢爛のピンクのドレスに身を包んだ麗しき御令嬢が、ひどく冷静にこちらを見ていた。
「わ、私は……」
「貧乏神のヒンコさんでしょう。初めまして」
御令嬢は見事な所作で立ち上がり一礼した。
「私はセーレブリッチ王国カネモーテル公爵の娘、エンゼニー・コウカ・カネモーテルよ」
……なんて?
「これまでにヒンコさんのお仲間が三人ほど私のところに……」
「ちょっと待ってストップ。ごめんだけど、もう一回名前を言ってくれない?」
「ですから、エンゼニー・コウカ・カネモーテルと…」
「ぶっふぅっ!!」
嘘でしょ!?聞き間違いじゃなかった!
「も、申し訳ないけど……国の名前ももう一度……」
「セーレブリッチ王国よ」
「ぶっはぅっ!!」
嘘でしょ!?私、前回の赴任地日本だったのよ!?もはや目の前の御令嬢がセレブでリッチな王国の円銭・硬貨・金持ってるさんとしか聞こえないわよ!?
「どうしてかしら?あなたの前にやってきた貧乏神さんたちも、全員あなたと同じように爆笑し続けて最後は息も絶え絶えで帰って行かれたのよね……」
円ゼニー嬢が不思議そうに首を傾げる。
そして、横に立っていた執事に話しかけた。
「どうしてなのかしらねぇ?ヨキン」
「はて?私にはわかりかねます。お嬢様」
「だって、私の名前で笑い転げた後にあなたの名前を聞いてまたしばらく笑い転げるじゃない」
「特に愉快な名前ではないのですがね」
「そうよねぇ。ヨキン・コーウザーという立派な名前なのに……」
「ぶっぐはぅっ!!」
私はとうとう床に膝をついた。預金口座て!
そ、そうか……今までの貧乏神はこの名前攻撃に耐えられずに逃げ帰ったのか…
し、しかし、私はもう後がない身……このくらいの試練、耐えきってみせる。耐えろ腹筋!お前はやれば出来る子だ!
「エンゼニー!」
私が腹筋を励ましている隙に、麗しの美男が部屋に飛び込んできた。
「大丈夫かい?また貧乏神が現れたと聞いて飛んできたよ!」
「ええ。平気ですわ」
円ゼニー嬢が美男に向かって微笑みかける。
「ヒンコさん、紹介いたしますわね。このセーレブリッチ王国の王太子にして私の婚約者、ユーフーク・サッタバー・セーレブリッチ様ですわ」
「ごっほぉっ!!」
無理だった。崩れ落ちて拳で床を叩いてしまった。
裕福な札束さんは卑怯でしょう!!腹筋をいじめないで!!
もはや名前を聞くと自動的に頭の中で漢字に変換してしまう。頑張れ私!お前は立派な貧乏神だ!これしきの試練、乗り越えてみせる!
「貧乏神よ!我が愛しの婚約者エンゼニーに取り憑いても無駄だ!私が彼女を貧乏になどさせない!」
「ユーフーク様……」
「我が父、セーレブリッチ王国国王であるダイフゴー・サッタバー・セーレブリッチ陛下からも、エンゼニーを守るように言いつけられている!」
「ぐはっ……ちょ、新キャラ名出す時は事前に予告して!不意打ちは卑怯だから!」
「何を言っている?」
裕福な札束さんの父親はそりゃ大富豪ですよね!OK!理解した!
「はあはあ……も、もう大丈夫。この世界の名前に対する耐性は出来た……次にどんな名前が来たとしても乗り切ってみせる」
「だいぶ息が苦しそうですけど大丈夫?ヨキン、お茶をいれてあげて」
預金口座さんが紅茶をいれてくれたのでありがたくいただく。
「エンゼニー!また貧乏神が現れただと!?」
「大丈夫?エンゼニー」
壮年の男女が部屋に飛び込んできた。おそらく円ゼニー嬢の父母だろう。円銭と連呼しないで欲しい。
「お前が貧乏神か。私はエンゼニーの父、ドルエン・コウカ・カネモーテルである!」
「私はドルエンの妻、マネーゼニー・コウカ・カネモーテルよ」
私は思い切り紅茶を吹き出した。
本日のドル円相場は大荒れの模様!
「二人いっぺんには卑怯でしょう!一人ずつにして!!」
「お父様、これまでの方々と同じくすぐに帰られるでしょうから、平気ですわ」
「うむ!心配はないようだな!では、わしはブルジョワ卿とエコノミー大佐との会議に戻る!」
「私もユーロ侯爵夫人、ポンド伯爵夫人、ルーブル伯爵夫人とのお茶会に戻ります」
「去り際に置き土産はやめろぉぉぉっ」
なんだこの世界、貧乏神への嫌がらせで出来た世界か?
「さて、そろそろお帰りになっていただける?」
「ま、まだだ……まだ終わらんぞ……」
私は壊れそうな腹筋を抱えながらも、その場に踏みとどまった。
ここで逃げ帰ったら、私は神じゃなくなってしまう。
「あら?お帰りにならないの?困ったわねぇ」
「お嬢様、この者が帰るまで見張りをつけましょう。私の身内の者です。入れ」
預金口座さんが呼ばわると、部屋の外から若い男が入ってきた。
「お前に任を与える。この貧乏神がお嬢様に危害を加えないように見張るのだ」
「は!かしこまりました!このニーチギン・バンク、命に代えてもエンゼニー様をお守りいたします」
「ぶっほぉっ!!」
日銀による命に代えても円銭を守る発言でこれまでどうにか耐えてきた私の腹筋は完全に崩壊した。
こんなの勝てるわけない。誰か助けて。
「エンゼニー。では、私も城に戻るよ。この後、オクマン・チョーウジャー大臣との約束があってね。そうだ、隠居したクロジ元司教が孫のマルクとセントとウォンを連れて遊びにきていたよ。君によろしくって」
「だから置き土産はやめろぉぉぉぉっ!!」
その後、私は日々腹筋を崩壊させながらも円ゼニー嬢に取り憑き、黒字元司教にお祓いされたりしながらも賑やかな日々を過ごし、見張り役だった日銀くんと結婚してヒンコ・バンクになり、貧乏神ではなく円ゼニー嬢のお友達として、王妃となった彼女を支えたのでありました。
……どうしてこうなった?
「あら?きっとヒンコと私とは、ご縁があったのよ」
今日もセレブでリッチな円ゼニー嬢がそう言って微笑んだ。
おしまい
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