英雄王アルフリードの誕生、前。~「なるべく早めに産んでくれ」~

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
24 / 79

第24話 我慢の限界

しおりを挟む




 もう誰も信じない。

 ドレスの一件で人間不信になったルティアはご機嫌をとろうとする両親を無視して過ごしていた。
 家族を無視して引きこもるのは王太子の私室である。

「だって、ここ以外の場所にいると人の目がうるさいんだもん!」

 どこに逃げても「英雄の母」という目で見られ、ルティアは限界だった。

「私はまだ十五の乙女なのに、「一児の母」を見るような目をされるのよ!産んでないし、産まないっての!!」
「……」

 ガルヴィードは怒れるルティアをしげしげと眺めた。

 産むの産まないのにすっかり気を取られてしまっていたが、考えてみれば不思議なのだ。

 ルティアも自分も、魔力値は低い。
 あの夢の中で、復活した魔王はまず王家の人間――国王と第二王子、そして高位貴族を殺していた。国の中心人物を片づけることで、ヴィンドソーンは指揮系統を失いガタガタになったのだ。

 それなのに、魔力値も低く突出して戦闘能力が高いわけでもない王太子である自分が、ルティアと子供を作るまでの間どうやって生き残ったのであろうか。国王と第二王子と一緒に殺されているのが自然だと思うのだが。

 まあ、子供が産まれている以上、どうやってかは生き残ったのだろう。しかし、夢の中でアルフリードが英雄として立つまでどんな暮らしをしてきたのかはまったくわからない。自分は父親として傍にいれたのだろうか。それとも、ルティアに子種だけ残してあっさり死んだのだろうか。

 考えていると、何かもやもやとすっきりしない気分に陥った。
 何か、見落としている気がする。
 あの夢には何か、不自然な点がなかったか。

「ねえ!」

 違和感の正体を探して頭を悩ませていたガルヴィードは、ルティアに顔を覗き込まれて我に返った。

「な、なんだ?」

「聞いてなかったの?私はもう、我慢の限界なんだってば!」

 ルティアはガルヴィードの前に立って胸を反らした。

「皆、私を侮っているんじゃないかしら?ほいほい言うことを聞くようなか弱い女じゃないってことを、思い知らせてやらなくちゃ!」

「あっそう」

 何をやる気が知らないが頑張れ、と適当に応援する。

「というわけで!かかってきなさい!」

「なんでだよ?」

 何故かいきなり挑まれて、ガルヴィードは嫌そうに眉をひそめた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...