33 / 79
第33話 白い石
しおりを挟む自分に魔法使いの才能があるなんて、考えたこともなかった。
魔法使いになりたいのか、と訊かれると、今でも首を傾げるしかできない。
けれど、自分にはどうやら選択肢は与えられないらしい。
「ふぅ……」
魔法協会の中に与えられた一室で、ユーリは一人きりで溜め息を吐いた。
この国には行商に来ただけだったのに、なんでこんなことになったのだろう。突然「キミにはすごい魔力がある」なんて言われて魔法協会に連れてこられて、あれよあれよという間にユーリはここで学ぶことに決まってしまっていた。
「大きすぎる力を持っているので野放しにすると危険だから」らしいが、けれどこれまで生きてきてユーリは魔法なんて使ったことも意識したこともないし、別に学ばなくても今まで通りに生きていけるはずだ。
父は「嫌になったらすぐに帰ってきていい」と言ってくれたけれど、周りの大人達を見るにどうもそう簡単に帰してくれそうにない雰囲気だ。
ユーリは昼間の出来事を思い返した。
今日は魔法を使う際に必須の杖の使い方を教えてもら——うはずだった。杖を振ることによって、全身の魔力を杖に集中させ具現化の助けとするらしいが、ユーリにはよくわからない。教えられた通りに杖を振るや、杖が破裂したからだ。
軽く振っただけで粉々になった杖を見て、ユーリの教育係だというビクトルは青ざめていた。ユーリも青ざめた。杖って高いんじゃないの?と心配になったからだ。
しかし、弁償しろと言われることもなく、その後も杖を破壊し続けて、十本の杖を粉にしたところで「キミに合った杖を作らなくちゃいけないね」とひきつった笑顔で言われた。
一緒に杖を振っていた白銀の髪の美少女は「すごいですのね!」と目をきらきらさせていたが、商人の息子としては粉と化した杖を見て「もったいない」としか思えなかった。
すごい魔力がある、と言われたが、まだ何も目に見える形で魔法を使えていない。そのことがユーリは不満だった。
最初に魔力を使った時も、他の人の魔力は丸い形になっていたのに、ユーリは辺り一面白く輝かせただけだ。ちゃんと丸い形にしたい、自分も。
ユーリは両手のひらを合わせて集中してみた。
(丸い形丸い形……)
あの時、怒鳴り込んできた男に「魔力を垂れ流すな」と叱られた。ならば、垂れ流さないように気を付ければいい。手のひらで囲んだ範囲から、魔力がはみ出さないように、魔力がぎゅううと真ん中に詰まる感じで、目を閉じてイメージをしていく。
(丸い形……)
ん~、と唸り、集中する。
すると、手のひらがかーっと熱くなった。
「エル・カロ」
小声で呟いてみた。
目を開くと、手のひらの中心が白く輝いている。
「お」
白い光がぎゅっと凝縮して丸い形になり、一瞬強く輝いたと思った次の瞬間、手のひらから丸いものがこぼれ落ちてからん、と床に転がった。
慌てて拾い上げると、ぶどう一粒ぐらいの大きさの乳白色の丸い石が出来ていた。
「え?これ、僕が作ったの?」
思わずきょろきょろ辺りを見回すが、当然他に人はいないし、こんな丸い石が転がってくるような理由は他にない。
「魔力で石って作れるの?」
他の人も魔力で丸い形を作っていたけれど、あれはすぐに消えていた。
「なんかの役に立つのかな?これ……」
自分で作っておきながらなんだが、使い道がわからない。
今度誰かに訊いてみようと思い、とりあえずポケットに入れた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる