68 / 79
第68話 言いがかり
しおりを挟む「あ、カークだ!一緒に食べよう!」
食堂に入ったところでユーリに見つかり、駆け寄ってこられる。
「あっちいけ」
「冷たいなぁ!そうだ、飴をあげよう」
「いらねぇよ!」
六つも年下のくせに飄々として意に返さないユーリの態度に、カークは苦虫を噛み潰した顔になる。どうも舐められている気がしてならない。
結局、向かい合わせで食事をとる羽目になり、カークはあの日ユーリに絡んだことを心底から後悔した。
「あ、そうだカーク。ちょっと聞いていい?」
「なんだよ?」
「魔王、っているの?」
カークは食事の手を止めて目の前のユーリを凝視した。
「なんかさぁ、皆が魔王がどーとか話してるの聞こえたんだけど、僕が聞いても教えてくれないんだよね。魔王が出てくる物語とか芝居でも流行ってるの?」
カークはごくりと喉を鳴らした。
目の前の子どもは、まだこの国の未来を知らないのだ。
——そうか。異国人だから、あの夢を見ていないのか。でも、大魔法使い様も六部卿もまだ説明していないのか。こいつ、最大戦力なのに。
カークは魔法協会の最高幹部達を思い浮かべて眉をしかめた。最大戦力として利用するために強引に引き取って育てているのに、将来戦う相手のことを教えないってどうなんだ、と、些か腹が立った。
しかしかといって、見習いに過ぎない自分が勝手に教える訳にもいかない。
カークは黙り込んでもそもそ食事をとった。
ユーリはカークの様子に首を傾げたが、何かを感じ取ったのかそれ以上聞いてくることもなかった。
「……今日はもう、魔石創ったのか?」
「うん!カークにもこっそり一個あげようか?」
「いらねぇよ!」
「じゃあ、飴をあげよう」
「なんで俺にことあるごとに飴を寄越そうとするんだ!いらねぇよ!」
ぎゃあぎゃあ騒いでいる二人は、近寄ってくる連中に気づいていなかった。
「おい、お前」
テーブルの横に立った人物に声をかけられ、ユーリは顔を上げた。
立っていたのは、先ほどまで一緒に魔法を習っていたマーベル子爵家の三男だ。彼の後ろには他にもあの授業にいた者達が並んでいる。それを見てカークは顔を歪めた。嫌な予感が当たった。
「蛮族の分際で、大魔法使い様から教えを受けるなんて烏滸がましいんだよ!」
マーベル家の三男が言うと、後ろの連中もそうだそうだと追従する。
「そうは言われても、僕は……」
「蛮族ごときが俺に口を聞くな!ヴィンドソーンの貴族と対等に口をきけると思っているのか?」
ユーリがちらっとカークに視線を寄越してきたので、軽く頭を振ってやった。
「あの、お言葉ですが、この子どもは尋常じゃない魔力を持っているため、大魔法使い様が直々に……」
「蛮族がそんな強大な魔力なんて持っているはずないだろう!」
一応身分が上の子爵家のため敬語を使ってやったが、なんというかアホすぎて嫌になる。カークはげんなりした。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる