逆上がりのヒーロー

まさみ

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逆上がりのヒーロー

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人間が想像できることはほぼほぼ実現できるらしい。その論でいくと僕だって頑張れば逆上がりができるのだ、きっと。

皆が下校した放課後、校庭の隅っこでひとり黙々と鉄棒と取っ組み合い。

スニーカーの靴底で地面を蹴って身体を持ち上げようと頑張るも、反動が足りないのか腕力が足りないのか、どうしても一回転する前に落ちてしまうくり返し。

アイキャンフライ、信じれば夢は叶うし人も飛べる。

けれども今の所重力の法則は絶対で、鉄棒を支点にくるりと一回転できない。

理不尽な現実にうちのめされて心が折れかける。

そりゃあ僕の体重は平均よりちょっと多めだけど、小学校6年にもなって逆上がりができないのは恥ずかしい。

金輪際体育の授業で恥をかくのはいやだ、クラスメイトに笑われたら顔から火が出る。

畜生、アイツら絶対見返してやる。

目を閉じてイメージトレーニングに集中、自分の身体が華麗に旋回する場面を想像する。

いいぞいい調子、今度こそきっとやれる……。

成功の予感を胸に力強く地面を蹴り、ぐっと腕に力を入れる。

「わっ!!」

勢い余って空振り、腕が萎えてひっくり返る。

「いててて……あーーーだめだ、もーやめたやってらんない」

誰もいない校庭に大の字に寝転がって高い空を仰ぐと、自分がどんどんちっぽけで惨めになってくように感じられ、やけっぱちな気分で手足を暴れさせる。

幼稚園児みたいにひっくり返って駄々をこねて、客観的に見たらすごい恥ずかしいけど誰も見てないんだから構うもんか。

「別にいいよ、逆上がりなんかできなくたって人生困んないし。会社入ったって役に立たないだろ」

逆上がりができるかできないかで人の優劣や将来が決定する訳じゃないし、と誰にともなく負け惜しみを呟く。

逆上がりを諦めた僕は服に付着した砂をはたき落とし、隅に放りだしたランドセルを背負って帰ろうとした時、ツバメが颯爽と空を過ぎっていく。

僕のクラスの下駄箱がある、正面玄関の軒先に巣を作っているツバメだ。

体育の先生が言っていた事を思い出す。

『よく見ろ。あのツバメだって最初っから宙返りできたわけじゃないんだ、コツコツ練習してやっと飛べるようになったんだ』

最前列で体育座りしていたクラス一のお調子者がすかさず手を挙げる。

『ツバメはなんで宙返りなんかするんですかあ?』

『そりゃあお前、気持ちいいからだろ』

先生は堂々と腕を組み、ふんぞり返って宣言する。皆は口を開けてぽかんとした。

『嘘だあ!』

『ダメ教師がまたてきとーこいてやがる!』

僕たちの間で先生はウソツキと言われている。
大学時代はモテモテだったとかジャージの体育教師は世を忍ぶ仮の姿で某国の諜報員だとか異世界に召喚されてドラゴンを巴投げしてきたとか、しょうもないブユーデンを自慢するからだ。

手厳しい大ブーイング、ウソツキウソツキの大合唱にも負けじと厚い胸を張り、先生はきっぱり言いきった。

『それ以上に大事なことが世の中にあるか?風を切ってかっとんでくのもぐるっと回って景色が逆さまになるのもきっと最高の気分だぞ、自分がすごい奴になったみたいな全能感に酔える』

全能感ゼンノーカンってなんですか』

真ん中あたりに体育座りした女子がおずおず手を挙げる。
先生は『そうだな』と言葉を選び、ややあってわかりやすい答えを出した。

『世界一強くてカッコイイ、無敵のヒーローになった気分だ』

先生の言い分は身も蓋もない。

ツバメが見事な宙返りをきめるのは餌をとるためだとかは言わず、ただただ気持ちいいからだと、風を切って空を滑っていくのが気持ちよくてたまらないからだと豪語する。

『逆上がりをしてる時はだれだってヒーローになれるんだ』

先生の言い分は大袈裟だ。

でも、本当だ。

僕はまだ一回も逆上がりを成功させてないけれど、もし成功したら皆を見返すヒーローになれる気がする。

「よし」

再び闘志を奮い起こし、ズボンで汗を拭って鉄棒を握り直す。

呼吸を整えて感覚を掴み、ツバメをまねて弧を描くように身体を運べば、視界が一回転して世界が逆さまになる。

青空と校庭の比率が逆転、不可能を足蹴に風を切って回る爽快感に歓声が零れる。

先生の言ってたことは本当だった。

逆上がりをしてる瞬間は、誰だって無敵のヒーローになれる。
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