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究極の選択2

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 ママは世界中を飛び回ることはできるけど、実体がない。これがママの望んだ生活だろうか?
 ママに近くにいてほしい。悩みを聞いてほしい。ママに心臓をあげるのは嫌だけど、人格を移せば、私の中で生きていけるのでは。

「ママの記事を読んだ。ママはオリジナルの人格をクローンに移すことができる。そういうこと?」
「そうよ」
「私の中にママの人格を移すことは? できる?」

 壁のカメラをじっと見つめた。質問は聞こえているはずなのに、ママは何も言わない。しばらく沈黙が続いた後、スピーカーから声が聞こえた。

「できるかできないかで言えば……できる。ユウの脳に人格をシンクロさせる媒体を埋め込めば、私はユウになる。でも、お勧めしない」

 技術的には問題ないのだろう。そうだとすれば、確認することは一つ。

「もう一つ教えて。ママが私の中に入ったら、私の意識は残る? 残らない?」
「ユウの人格を構成しているのと別の場所に移植すれば、ユウの意識は残る……はず。理論的にはね。こういうのを二重人格っていうのかな」

 データを移せば、ママは私の中で生きていける。

 ――自分と母親、どっちを助ける?
 鈴木くんと山田が話していた究極の選択を思い出す。不覚にも「ふっ」と笑ってしまった。

「どうしたの?」
「いや、なんでもない」

 恥ずかしい。気持ち悪いヤツだと思われたかな? 今までママは私を守ってくれた。今度は私がママを助ける番だ。それに、人格を移しても私の意識がなくなるわけじゃない。

「決めた! ママを私の中に入れて!」
「やめておきなよ。理論上は可能だけど、失敗するかもしれないよ」

 成功するかもしれないし、失敗するかもしれない。まるでC判定の志望校を受験するのを止める教師のセリフだ。私のことを気遣っているのか、それとも……

「ひょっとして、失敗するのが怖い?」
「そんなわけあるかー! 天才科学者は絶対に失敗しない」
「じゃあ、やればいいでしょ。失敗しないんだし」
「いいよ。やるよ」

 ママが単純な性格でよかった。笑いそうになるのを必死に堪える。言われるまま椅子に座わると、金属製のアームが出てきた。

「ちょっと、チクっとするよ」

 頭にわずかな痛みを感じると、意識を失った。

 **

 放課後の教室は静まりかえっていた。窓際の椅子に座ってグランドを見つめる。夕陽が差し込むグランドにはサッカー部の男子生徒が練習をしている。ボールを持った鈴木くんがフォワードにパスした。ゴールに向かって走る鈴木くんを目で追う。

『ねえ、ユウは鈴木くんのことが好きなんでしょ?』

 ママが脳内で私に話しかけてきた。周りに人がいないと、いつもこうだ。

『え、分かるの?』
『そりゃあ、分かるわよ。だって、ユウは私だからね。私のタイプはユウのタイプ』
『ああ、そういうことね』

 鈴木くんはゴール前でパスを受けた。シュートはキーパーに弾かれて、ラインを出た。コーナーキックを蹴るのは山田。

『ユウは鈴木くんに告白するの?』
『わからない。そんなに親しくないし』
『じゃあさ、サッカー部に入ったら? 仲良くなれるよ』
『気持ち悪いと思われないかな?』

 山田が蹴ったボールは左にカーブして誰もいない場所に落ちた。私ならうまくパスを出せるだろうか?

『それにしても、ユウキの人格は想像していたよりも複雑なのね』
『まあ、心は女の子だからね』
『そっか』

 ママの笑い声が聞こえた。体は一つ。私とママの意識が共存している。喧嘩することはあるけど、今のところは仲良くやっている。

 ――自分と母親、どっちを助ける?

 やっぱり選べない。私はこの生活に満足している。

<了>
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