5 / 197
第1回活動報告:横領犯を捕まえろ
そして現在(その1)
しおりを挟む
(3)そして現在
というわけで、今俺は真夏の炎天下の中、穀物倉庫にいる。俺もルイーズも汗だくだ。それにしても暑い。
事務所スペースはエアコンが効いているのだが、あいにく小麦の貯蔵庫は炎天下の屋外にあるのだ。
みなさんは、穀物倉庫をご存じだろうか?
物流倉庫のようなものをイメージしているかもしれないが、第13穀物倉庫は規模が違う。石油や天然ガスの貯蔵タンクがイメージに近いだろう。ベルトコンベヤーで穀物が貯蔵サイロ(タンク)に運ばれてきて、中に貯蔵される。
正確なサイズは分からないが、高さが30メートルくらい、横幅が10メートルくらいの巨大な貯蔵サイロが屋外にいくつも並んでいる。
貯蔵庫の確認は最低限にして、事務所スペースで作業をした方が良さそうだ。ずっと外にいると、死んでしまう。
俺とルイーズは、第13穀物倉庫に早朝に到着した後、施設長のミゲルから穀物倉庫の商流について簡単なレクチャーを受けた。簡単に商流を示せばこのような感じだ(図表1-3)。
【図表1-3:穀物倉庫の商流】
ジャービス王国は農業が盛んで、農家が生産した農作物は王国が買い上げることになっている。もちろん農家自身で販売してもいいのだが、自力での販売は限界がある。なので、全生産量の80%が王国の買取り対象となっている。
なお、自然災害による農作物の不作、急なインフレに備えるために、年間国内消費量の半分(6か月分)を王国の倉庫に貯蔵しておく。第13穀物倉庫の場合、小麦の月末在庫の4,000tがそれ(緊急用備蓄)だ。
王国が買い上げた農作物は各地の倉庫に保管され、商社や食品工場に一定の利益率を乗せて販売する。食品工場が製造した食品が小売店(スーパーマーケット)に卸され、小売店で最終消費者に販売される。
全国から買い取った農作物を貯蔵する穀物倉庫は全国で30か所あり、この第13穀物倉庫は国内では小型の穀物倉庫らしい。
実際に第13穀物倉庫を見て分かったが、在庫管理は近代的だ。貯蔵庫が巨大すぎて、人が量ったりできないからだろう。
農作物ごとに貯蔵タンク(サイロ)があり、中にどれくらい入っているかは、メーターを見れば一目で分かる。
ちなみに、ダート商会への販売分は、ご丁寧に横に避けてあった。俺の推理が正しければ、これが今月の調整分だろう。
今朝確認した搬入前の貯蔵タンクの量が2,250tだった。月末在庫は4,000tにするから、小麦の月末仕入は1,750t(4,000t-2,250t)のはずだ。今日の納品書と比較したら、仕入数量と単価の不正は確認できそうだ。
***********
俺とルイーズは暑さに耐えかね、エアコンの効いた事務所スペースで書類を確認することにした。
炎天下で1時間以上も確認作業をしたルイーズは、機嫌が良くないみたいだ。さっきから俺のことを睨んでいる。それを察した俺は、遠慮がちにルイーズに話しかけた。
「いやー、外は暑かったね。熱中症で倒れないように、ちゃんと水分補給しないとね。」
「じゃあ、何か飲み物買ってきてよ。」とルイーズは言った。
図々しいが、作業をしてもらわないと困る。
しかたないから、俺はルイーズの飲み物を買いに休憩室に行く。
飲み物くらいで、機嫌は治らないだろうが。
************
第13穀物倉庫の休憩室は、テーブルと椅子が大量に配置されている殺風景な光景だった。
俺が休憩室に入ったら、話が好きそうなおばさんがいた。こっちに寄ってくる。
「ダニエル王子ですよね?」とおばさんが話しかけてきたので、「そうです。」と俺はおばさんに返した。これも探偵としての情報収集だ。
「ターニャと言います。それにしても、想像していたよりも男前ですね?」とターニャ言った。
どういう想像だったのか知らないが、『想像したよりも』という言葉は、本人に言うべきではないだろう。怒ってもしかたない。
「ありがとうございます!」と愛想よく応える俺。
ターニャは俺が男前かどうかには興味がないらしく、「それにしても、こんな暑い日に倉庫に来るなんて、大変ですね。」と返してきた。
「1時間くらい外にいたら、暑くて死にそうでした。他の人は涼しそうな顔をして作業をしていましたが、慣れですかね?」
「もしかして、空調服を着ていなかったんですか?」
「空調服って何ですか?」と俺は知らない単語が出てきたので、ターニャに聞いた。
「ファンが付いている作業着です。この季節に外で作業する時は、保冷剤を作業着の中に入れて、その冷気をファンで循環させるのです。エアコンを着ているようなイメージですね。」とターニャは言った。
炎天下で作業しない俺は、便利グッズを知っている訳がない。
「だから、他の人は平気だったんだ。」
「誰か、予備の空調服を貸してあげればよかったのに。可哀そうに・・・。」
「まあ、炎天下の確認作業は終わったので、もう大丈夫です。今はエアコンが効いた事務所スペースにいますから。」
「どこも大変なのですね。ところで、在庫棚卸の確認で来ていると聞いていますが、作業は順調ですか?」ターニャは暇なのだろう。俺と話して時間つぶしをしているようだ。
<続く>
というわけで、今俺は真夏の炎天下の中、穀物倉庫にいる。俺もルイーズも汗だくだ。それにしても暑い。
事務所スペースはエアコンが効いているのだが、あいにく小麦の貯蔵庫は炎天下の屋外にあるのだ。
みなさんは、穀物倉庫をご存じだろうか?
物流倉庫のようなものをイメージしているかもしれないが、第13穀物倉庫は規模が違う。石油や天然ガスの貯蔵タンクがイメージに近いだろう。ベルトコンベヤーで穀物が貯蔵サイロ(タンク)に運ばれてきて、中に貯蔵される。
正確なサイズは分からないが、高さが30メートルくらい、横幅が10メートルくらいの巨大な貯蔵サイロが屋外にいくつも並んでいる。
貯蔵庫の確認は最低限にして、事務所スペースで作業をした方が良さそうだ。ずっと外にいると、死んでしまう。
俺とルイーズは、第13穀物倉庫に早朝に到着した後、施設長のミゲルから穀物倉庫の商流について簡単なレクチャーを受けた。簡単に商流を示せばこのような感じだ(図表1-3)。
【図表1-3:穀物倉庫の商流】
ジャービス王国は農業が盛んで、農家が生産した農作物は王国が買い上げることになっている。もちろん農家自身で販売してもいいのだが、自力での販売は限界がある。なので、全生産量の80%が王国の買取り対象となっている。
なお、自然災害による農作物の不作、急なインフレに備えるために、年間国内消費量の半分(6か月分)を王国の倉庫に貯蔵しておく。第13穀物倉庫の場合、小麦の月末在庫の4,000tがそれ(緊急用備蓄)だ。
王国が買い上げた農作物は各地の倉庫に保管され、商社や食品工場に一定の利益率を乗せて販売する。食品工場が製造した食品が小売店(スーパーマーケット)に卸され、小売店で最終消費者に販売される。
全国から買い取った農作物を貯蔵する穀物倉庫は全国で30か所あり、この第13穀物倉庫は国内では小型の穀物倉庫らしい。
実際に第13穀物倉庫を見て分かったが、在庫管理は近代的だ。貯蔵庫が巨大すぎて、人が量ったりできないからだろう。
農作物ごとに貯蔵タンク(サイロ)があり、中にどれくらい入っているかは、メーターを見れば一目で分かる。
ちなみに、ダート商会への販売分は、ご丁寧に横に避けてあった。俺の推理が正しければ、これが今月の調整分だろう。
今朝確認した搬入前の貯蔵タンクの量が2,250tだった。月末在庫は4,000tにするから、小麦の月末仕入は1,750t(4,000t-2,250t)のはずだ。今日の納品書と比較したら、仕入数量と単価の不正は確認できそうだ。
***********
俺とルイーズは暑さに耐えかね、エアコンの効いた事務所スペースで書類を確認することにした。
炎天下で1時間以上も確認作業をしたルイーズは、機嫌が良くないみたいだ。さっきから俺のことを睨んでいる。それを察した俺は、遠慮がちにルイーズに話しかけた。
「いやー、外は暑かったね。熱中症で倒れないように、ちゃんと水分補給しないとね。」
「じゃあ、何か飲み物買ってきてよ。」とルイーズは言った。
図々しいが、作業をしてもらわないと困る。
しかたないから、俺はルイーズの飲み物を買いに休憩室に行く。
飲み物くらいで、機嫌は治らないだろうが。
************
第13穀物倉庫の休憩室は、テーブルと椅子が大量に配置されている殺風景な光景だった。
俺が休憩室に入ったら、話が好きそうなおばさんがいた。こっちに寄ってくる。
「ダニエル王子ですよね?」とおばさんが話しかけてきたので、「そうです。」と俺はおばさんに返した。これも探偵としての情報収集だ。
「ターニャと言います。それにしても、想像していたよりも男前ですね?」とターニャ言った。
どういう想像だったのか知らないが、『想像したよりも』という言葉は、本人に言うべきではないだろう。怒ってもしかたない。
「ありがとうございます!」と愛想よく応える俺。
ターニャは俺が男前かどうかには興味がないらしく、「それにしても、こんな暑い日に倉庫に来るなんて、大変ですね。」と返してきた。
「1時間くらい外にいたら、暑くて死にそうでした。他の人は涼しそうな顔をして作業をしていましたが、慣れですかね?」
「もしかして、空調服を着ていなかったんですか?」
「空調服って何ですか?」と俺は知らない単語が出てきたので、ターニャに聞いた。
「ファンが付いている作業着です。この季節に外で作業する時は、保冷剤を作業着の中に入れて、その冷気をファンで循環させるのです。エアコンを着ているようなイメージですね。」とターニャは言った。
炎天下で作業しない俺は、便利グッズを知っている訳がない。
「だから、他の人は平気だったんだ。」
「誰か、予備の空調服を貸してあげればよかったのに。可哀そうに・・・。」
「まあ、炎天下の確認作業は終わったので、もう大丈夫です。今はエアコンが効いた事務所スペースにいますから。」
「どこも大変なのですね。ところで、在庫棚卸の確認で来ていると聞いていますが、作業は順調ですか?」ターニャは暇なのだろう。俺と話して時間つぶしをしているようだ。
<続く>
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
