92 / 197
第5回活動報告:仮想通貨の詐欺集団を捕まえろ
ジャービット・コイン(その2)
しおりを挟む
(2) ジャービット・コイン <続き>
内部調査部のミーティングが始まった。俺が部長なので、まず調査の方針をメンバーに伝える。どうせ方針転換することになるだろうが、メンバー間での共通認識はあった方がいいだろう。
「今回は、暗号資産の件に決定する予定です。まず、一般的には『仮想通貨』と言われているけど、国内の正式な文書では『暗号資産』の名称を使っているので、部内での呼び方は暗号資産に統一しましょう。それで、数年前から暗号資産取引が流行っているけど、いろいろ問題もあることは、みなさんも知っているよね?」
「暗号資産を発行している会社が倒産したり、ハッキングで顧客からの預り資産が流出したり、といった件ですよね?」とロイが聞いてきた。
「その通り。一時期ほどではないけど、投資したい人がまだ大勢いる。何となく儲かるイメージがあるから。内部告発ホットラインに届いた本文には、告発者は詐欺じゃないかと書いている。いろんな暗号資産が発行されているから、全部とは言わないけど、中には詐欺もあると思う。」
「あの、ちょっといいですか?」とミゲルが言った。
「何かな?」
「私は暗号資産のことをよく知らないのですが・・・・、そもそも何のために暗号資産が存在するのですか?」とミゲルが俺に聞いてきた。
「もともとは、世界中で自由に決済できる通貨を作りたかったのだと思う。信用力のある通貨は価値が安定していて、全世界で決済に使用できる。でも、ジャービス王国のような小さな国の通貨は価値が安定していないし、対外的な決済で使用できない。他国の企業がジャービス・ドル(ジャービス王国の通貨)を受け取っても、使えないからね。
それに、もし、ジャービス王国内または周辺国で戦争や紛争が発生したら、一気にジャービス・ドルの価値は下がってしまう。つまり、弱小国の場合は、『自国の通貨を持っているよりも、暗号資産(仮想通貨)を持っていた方が安心』と考えるはずだ。」
自分で悲しくなるような説明だ。弱小国のジャービス王国で暗号資産を保有する理由としては、間違ってはいないが・・・。
「じゃあ、ジャービス王国は国を挙げて暗号資産取引を推奨するのですか?」と今度はスミスが聞いてきた。
「そんな訳ないじゃない。暗号資産はどの国にとっても厄介者でしかない。自国通貨は国が管理できるけど、暗号資産を国民に保有されると国が管理できない。それに、国からキャピタルフライト(資本逃避)しようとする人が大量に発生すると、経済が立ち行かなくなってしまう。」
「とはいえ、暗号資産は他国でも取引されています。ジャービス王国では、暗号資産の取引を禁止するだけの理由はないから容認している、ということでしょうか?」とスミスが再び聞いてきた。
「その通り。さすが、スミスは鋭い。本音を言えば、『暗号資産は何とかして潰したい』と思っている。だけど、潰すための積極的な理由がないから、手を焼いている状況だ。他国も同じだと思う。」
「何か対策を採っているのですか?」と今度はロイが聞いてきた。
「微力ながら幾つかの対策はしているよ。一つは税率かな。
ジャービス王国では、個人の上場株式の譲渡所得と配当所得の税率は、源泉分離課税の場合20%だ。つまり、上場株式の売買や配当から、どれだけ利益が出ても税額は利益の20%で済む。でも、暗号資産の所得は雑所得に区分されるから他の所得と損益通算できない。更に、累進課税を採用しているから、税率が最大45%まで膨らむ。国としては暗号資産取引を広げたくないから、差別するよね。」
「暗号資産は、国に嫌われているのですね。」とロイが言った。
「そうだね。大きな声では言えないけど。」
どうやら俺は暗号資産のことが好きではないらしい。やけに熱が入ってしまった。
<続く>
内部調査部のミーティングが始まった。俺が部長なので、まず調査の方針をメンバーに伝える。どうせ方針転換することになるだろうが、メンバー間での共通認識はあった方がいいだろう。
「今回は、暗号資産の件に決定する予定です。まず、一般的には『仮想通貨』と言われているけど、国内の正式な文書では『暗号資産』の名称を使っているので、部内での呼び方は暗号資産に統一しましょう。それで、数年前から暗号資産取引が流行っているけど、いろいろ問題もあることは、みなさんも知っているよね?」
「暗号資産を発行している会社が倒産したり、ハッキングで顧客からの預り資産が流出したり、といった件ですよね?」とロイが聞いてきた。
「その通り。一時期ほどではないけど、投資したい人がまだ大勢いる。何となく儲かるイメージがあるから。内部告発ホットラインに届いた本文には、告発者は詐欺じゃないかと書いている。いろんな暗号資産が発行されているから、全部とは言わないけど、中には詐欺もあると思う。」
「あの、ちょっといいですか?」とミゲルが言った。
「何かな?」
「私は暗号資産のことをよく知らないのですが・・・・、そもそも何のために暗号資産が存在するのですか?」とミゲルが俺に聞いてきた。
「もともとは、世界中で自由に決済できる通貨を作りたかったのだと思う。信用力のある通貨は価値が安定していて、全世界で決済に使用できる。でも、ジャービス王国のような小さな国の通貨は価値が安定していないし、対外的な決済で使用できない。他国の企業がジャービス・ドル(ジャービス王国の通貨)を受け取っても、使えないからね。
それに、もし、ジャービス王国内または周辺国で戦争や紛争が発生したら、一気にジャービス・ドルの価値は下がってしまう。つまり、弱小国の場合は、『自国の通貨を持っているよりも、暗号資産(仮想通貨)を持っていた方が安心』と考えるはずだ。」
自分で悲しくなるような説明だ。弱小国のジャービス王国で暗号資産を保有する理由としては、間違ってはいないが・・・。
「じゃあ、ジャービス王国は国を挙げて暗号資産取引を推奨するのですか?」と今度はスミスが聞いてきた。
「そんな訳ないじゃない。暗号資産はどの国にとっても厄介者でしかない。自国通貨は国が管理できるけど、暗号資産を国民に保有されると国が管理できない。それに、国からキャピタルフライト(資本逃避)しようとする人が大量に発生すると、経済が立ち行かなくなってしまう。」
「とはいえ、暗号資産は他国でも取引されています。ジャービス王国では、暗号資産の取引を禁止するだけの理由はないから容認している、ということでしょうか?」とスミスが再び聞いてきた。
「その通り。さすが、スミスは鋭い。本音を言えば、『暗号資産は何とかして潰したい』と思っている。だけど、潰すための積極的な理由がないから、手を焼いている状況だ。他国も同じだと思う。」
「何か対策を採っているのですか?」と今度はロイが聞いてきた。
「微力ながら幾つかの対策はしているよ。一つは税率かな。
ジャービス王国では、個人の上場株式の譲渡所得と配当所得の税率は、源泉分離課税の場合20%だ。つまり、上場株式の売買や配当から、どれだけ利益が出ても税額は利益の20%で済む。でも、暗号資産の所得は雑所得に区分されるから他の所得と損益通算できない。更に、累進課税を採用しているから、税率が最大45%まで膨らむ。国としては暗号資産取引を広げたくないから、差別するよね。」
「暗号資産は、国に嫌われているのですね。」とロイが言った。
「そうだね。大きな声では言えないけど。」
どうやら俺は暗号資産のことが好きではないらしい。やけに熱が入ってしまった。
<続く>
0
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
【第一部完結】科学で興す異世界国家 ~理不尽に殺された技術者は第三王子に転生し、科学で王座に至る~
Lihito
ファンタジー
正しいデータを揃えた。論理も完璧だった。
それでも、組織の理不尽には勝てなかった。
——そして、使い潰されて死んだ。
目を覚ますとそこは、十年後に魔王軍による滅亡が確定している異世界。
強国の第三王子として転生した彼に与えられたのは、
因果をねじ曲げる有限の力——「運命点」だけ。
武力と経済を握る兄たちの陰で、継承権最下位。後ろ盾も発言力もない。
だが、邪魔する上司も腐った組織もない。
今度こそ証明する。科学と運命点を武器に、俺のやり方が正しいことを。
石炭と化学による国力強化。
情報と大義名分を積み重ねた対外戦略。
準備を重ね、機が熟した瞬間に運命点で押し切る。
これは、理不尽に敗れた科学者が、選択と代償を重ねる中で、
「正しさ」だけでは国は守れないと知りながら、
滅びの未来を書き換えようとする建国譚。
※1話から読んでも大丈夫。ただ、0話を読むと「あのシーン」の意味が変わります。
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。
音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、
幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。
魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。
そして再び出会う幼馴染。
彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。
もういい。
密かにやってた支援も打ち切る。
俺以外にも魔道具職人はいるさ。
落ちぶれて行く追放したパーティ。
俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。
崖からポイ捨てされた不運令嬢ですが、銀髪イケメン竜王に『最愛の伴侶』としてスカウトされました!
有賀冬馬
恋愛
不作も天災も、全部わたしのせい!?
「不運な女」と虐げられ、生贄として崖から捨てられたわたし、ミラ。
でも、落ちた先で待っていたのは、まぶしいほど綺麗な銀髪の竜王・アルベルト様でした!
「君がいたから、この国は守られていたんだよ」
えっ、わたしって実はすごい聖女だったの!?
竜宮城で贅沢三昧&溺愛生活スタート!
そんな中、わたしを捨てて大ピンチになった元婚約者が「ミラ、戻ってきて!」と泣きついてきて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる