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第3回活動報告:投資詐欺から高齢者を守れ

新たな依頼(その4)

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(1)新たな依頼 <続き>

そして俺は気になっていたことをロドリゲスに質問した。

「社債を保有している人は全国に10万人もいて、金額も総額1,000億JDと巨額です。普通であれば大きなニュースになると思うのですが、なぜ今まで問題になっていなかったのでしょうか?」

社債を購入していないロドリゲスに聞いても分からないと思うのだが。
一応、念のためだ。

そう言えば、たまに『為念(ためねん)』という言い方をする弁護士がいる。
意味は「念のため」だが、他の業界では使っている人を見たことがない。
「為念ですが、ご確認下さい。」とメールがきた時に、これは「念のため」の丁寧な言い回しなんだろうか?といつも思う。

誰か知っていたら、俺にこっそりと教えてほしい。
脱線したが、話を続けよう。

ロドリゲスは、俺の質問に対して「私自身は詳しく知らないのですが、母が話していたのは・・・・」と前置きをして、話し始めた。

「それは、社債保有者のグループが関係しているのだと思います。母の話によれば、社債保有者は5人で1グループを作っていて、グループのメンバーに発生した問題は、そのグループ内で対応していたようです。」とロドリゲスは言った。

「マルチ商法とか宗教法人みたいですね。メンバーがお互いに、お互いを見張っているような感じでしょうか?」と俺は言った。

「そうだと思います。社債保有者のグループは、マルチ・レベル・マーケティング(MLM)の仕組みを使っていて、グループ内に親子関係があったのだと思います。」とロドリゲスは答えた。

言い方が「思います」だから、想像で言っているようだ。
ロドリゲスは母親からの又聞きだから、話半分くらいで聞いておかないといけない。

ロドリゲスは話を続ける。
「社債保有者グループの親メンバーが子メンバーを管理するような仕組みになっていて、子メンバーが抜ける場合は、親メンバーが社債を買い取るようになっていた、と母から聞いています。」

「社債は満期まで償還されなくて、途中解約もできませんよね?」と俺は質問する。

「そうです。本来は現金化できない社債を買取るので、親メンバーが子メンバーから社債を買取る際には、額面ではなく、ディスカウントして買取る、と母は言っていました。」

「ディスカウント率は決まっているのですか?」

「母から聞いた話では、額面の60%で親メンバーが子メンバーから買取っていたようです。
親メンバーは買取った社債をそのまま保有しておけば、満期償還で40%儲かります。」

「ただ、親メンバーが子メンバーから社債を買い取るのには、結構な資金が必要になりますよね?」と俺は聞く。

「そう思います。償還時に利益が出るといっても、個人が買取ることができる社債は限られるでしょう。この点を考慮して、親メンバーが買い取った社債を換金したいと申請すれば、社債発行会社を管理している運用会社が額面の70%で買い取ってくれるという制度があったようです(図表3-1-2参照)。」

【図表3-1-2:劣後社債の買取りの流れ】
 



「じゃあ、親メンバーの買取り資金が潤沢になくても、運用会社に買い取ってもらえば10%利益が出る。資金がある人は、満期まで保有して40%利益を確保できる。」

「そうです。社債保有者は、社債は元本保証がされないことは分かっています。それでも、現金化したい場合は60%で買い戻してくれます。全くお金が返ってこないわけではないんです。」

「確かに。」

「それに、社債は少なくとも5年間は利払いがされていました。社債保有者の多くはそのうち金利支払いが復活するだろう、と思っていたのではないでしょうか?」とロドリゲスは言った。

「それにしても、よく考えられた仕組みですね。社債を購入させるために競争心を煽ったり、社債保有者を管理するためにMLMの仕組みを取入れたりと手が混んでいます。」

「よくできた仕組みだと思います。私はいま経営学部の学生ですが、すごく勉強になりました。」

こういうことは、勉強しなくてもいいと思う。

「これを考えたのは誰か知っていますか?」と俺はロドリゲスに聞いてみた。

「誰なのかは分かりません。私の想像では、イベント会社が一連のスキームを考えたと思っています。運用会社は純粋に投資商品を組成して、集めたお金を住宅ローン債権として運用していただけじゃないでしょうか。」とロドリゲスは言った。

状況はある程度分かったので、俺たちはロドリゲスに礼を言って、その場を後にした。
「10万円もらえるキャンペーンの当選は、採用時にご連絡します。」と言い残して。

ロドリゲスはいろいろと話してくれたが、所詮は母親からの又聞きだ。
だから、ロドリゲスから聞いた情報は全て正しいとは限らない、と心に留めておく必要があるだろう。

それにしても、この件を解決するためには、イベント会社と運用会社を調べてみる必要がありそうだ。

仕組みが複雑なので、内部調査部の案件として向いているのか、俺には判断できないのだが・・・。
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