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詐欺の主犯格を逮捕しろ!

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 一人と一匹の小競り合いが落ち着いた頃、エレーヌがルッツとヴァレリアを連れてホテルの部屋にやってきた。エレーヌはドヤ顔しているから、いい知らせのようだ。

 3人にはロマンス工場のリーダーの尾行を頼んでいた。リーダーはヘイズ王国にいる詐欺集団の幹部に会ったはずだ。これで国際ロマンス詐欺の主犯格が分かる。

「どうだった?」と私はエレーヌに尋ねた。

「いやー、大変でしたよ」
「それは、お疲れ様」
「幹部のアジトが判明しました。ガラン子爵家です」

「ガラン子爵というと……誰だっけ?」

 私が思い出せないでいると、「母さんの幼馴染のパオラの家だよ」とロベールが助け舟を出した。

 ――あっ、あの嫌な女か……

 私はロベールの母に高圧的な態度で接していた子爵婦人を思い出した。
 ロベールの母はガラン子爵には良くない噂があると言っていた。それに、ハリス元侯爵と悪事を働いているとも。
 そうすると、この件はハリス元侯爵が関わっているのか?

 私はエレーヌに状況を確認する。

「ロマンス工場のリーダーは捕らえたの?」
「バッチリです!」
「それは良かった」

「いま、ヘイズ王立警察の留置所にいます」
「そう。それにしても、マンデル共和国の国民をヘイズ王国の警察が逮捕して問題なかったの?」
「それは大丈夫です。事前に詐欺の件をマンデル共和国に伝えていますから」

 国際ロマンス詐欺の内容はリーダーを尋問すれば明らかになるだろう。

 そうすると、私たちのやるべきことは……

 詐欺集団の中心人物であるガラン子爵を逮捕することだ。
 ロマンス工場のリーダーが捕まったことをガラン子爵が知ったら、逃げるに違いない。
 事は急を要する。

「ロベール、相談があるんだけど」
「なんだい?」
「ガラン子爵を捕まえに行こうと思うだけど……ついてきてくれないかな?」
「いいよ。いつ?」
「今から」
「今から?」

 ロベールは考えている。今は学生生活で一度きりの修学旅行の途中。
 今からガラン子爵を逮捕して、明日までに戻ってこられれば……修学旅行には参加できる。

「分かったよ。僕が断ってもデイジーは一人で行くでしょ?」
「まあ、そうね。行くわね」
「じゃあ、僕も一緒に行くよ」

 私は部屋の窓を開けて飛行魔法で飛び立った。

「ロベール、飛ばすわよ。ついてきなさい!」

 高速で飛行する私の遥か後方にロベールが見えた。飛行魔法があまり得意ではないロベールが四苦八苦して飛行している。そのロベールの横を高速で黒い塊が飛んできた。

 小さい黒い塊……マリオだ。

「僕を置いていかないでよーー!」

 放っておかれて寂しかったらしい。マリオは私の近くまで飛んできて、私の肩に乗った。

「へー、猫なのに飛べるんだ。自称マリアの使い魔はすごいね!」
「自称じゃないよ」

「待ってよーーー!」
 後ろからロベールの声が聞こえる。

「ほーら、捕まえてごらんなさーーーい!」
 私は笑いながら速度を上げた。

 ――ああ、楽しい!

 ロベールは遥か後ろにいるのだけれど、これも夜のデートだよね。


 ***


 ヘイズ王国に戻ってきた私は、私の屋敷を目指して飛行した。ホテルを飛び出してきたのはいいのだが……私はガラン子爵家の場所を知らない。フィリップに教えてもらおう。

 私が屋敷に戻ったら、フィリップが音もなく現れた。

「お嬢様、修学旅行に行かれていたのでは?」
「まぁ、詐欺集団の主犯格が分かったのよ」
「やはり、ヘイズ王国にいたので?」
「そう。ガラン子爵よ。ハリス元侯爵も絡んでいるかもしれない」
「はぁ、そうですか。ガラン子爵は急に羽振りが良くなったようで、何かしていると噂されていたのです」
「それで、教えてほしいのだけれど……ガラン子爵の家ってどこかしら?」

 フィリップは少し硬い表情をした後、咳払いをした。
 私が何の準備もせずに飛び出してきとことを笑いそうになったのだ。

 フィリップは前の方を指して、「この方向に真っ直ぐ行くと、赤い屋根の屋敷があります。そこがガラン子爵の屋敷です。庭に大きな池があります」と教えてくれた。

 私はフィリップにもう一つお願いをする。

「ヘイズ王立警察にガラン子爵の屋敷に来るように依頼しておいて。それと、逮捕したロマンス工場のリーダーも連れてくるようにと」
「ロマンス工場?」
「手紙を書いている詐欺集団のアジトをロマンス工場って呼んでいるの」
「ああ、そういうことですか。承知しました」

 フィリップはそういうと音もなく消えた。

 さて、準備は整った。ガラン子爵を逮捕しに行こう!

 ***

 ガラン子爵家に着いたところで、ロベールが追いついた。ちょっと飛ばし過ぎたかもしれない。

 私は屋敷の周りに結界を張った。
 ロマンス詐欺の首謀者を逃がさないためだ。

 屋敷に乗り込もうとしたら、ロベールが私に提案した。

「デイジー、僕が先に行くよ。罪を認めて大人しく捕まるかもしれないし」

 性善説に立つロベールは悪党もいい人だと信じている。いや、そう信じたいのかもしれない。
 純粋なロベールの気持ちを踏みにじることはしたくない。
 だから、私はロベールの提案を受け入れた。

「いいわよ。でも、逃げようとしたり、攻撃してきたら容赦しない。いいわね?」
「分かったよ。それでいい」

 ロベールは門を飛び越えて屋敷の玄関に続く道を歩いていった。
 私は門の近くの茂みの中に隠れた。

 私はロベールが期待する結果にはならないと思っている。
 
 自分から罪を認めるわけがない。
 いい悪党なんていないから。悪党は悪党だ。



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