僕と猫と米沢牛 ― 勝手に他人の半生を書いてみた

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僕と猫と米沢牛

米沢の牛

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(8)米沢の牛

武が机で事件の内容を書いていると、窓の外から猫の声が聞こえた。
姿は見えないがきっと例の白い猫だ。自分の都合で武のところにやってくる。

武が窓の方を向いて「お前か?」と小さく言うと、窓の向こうから「やっと警察に行く気になったか。」と猫語が聞こえてきた。

「まあね。僕はまだ死にたくないから。」

「懸命な判断だ。よく決断したな。偉いぞ!」

武は猫に褒められた。悪くない気分だ。
少しでも生存確率を上げるために、武は猫から情報を聞き出そうと話しかけた。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「なんだ?」と猫はぶっきらぼうに返す。

「犯人は誰なんだよ?そろそろ教えてくれてもいいじゃないか!」
思わず声が大きくなってしまった。

「嫌だね。お前に教えても俺にメリットがない。」

武の足元を見ている。生意気な猫だ。

「メリットか・・・。何が望みだ?」武は猫に聞いた。

「うーん。そうだな。」

猫はしばらく考えてから言った。

「米沢牛!」と猫は武に要求した。

※米沢牛は、山形県米沢市がある置賜地方3市5町で肥育された黒毛和牛が、一定の基準を満たした場合に呼称される銘柄牛肉である。
出所: Wikipedia 

「今日の晩御飯はカレーだから、家に米沢牛あると思う。」

「お前の家は、カレーに米沢牛使うのか?お前の家は貴族か?」と猫は言った。

「うちの父親は社会科の先生だ。貴族の家じゃない。」

「じゃあ、なんで米沢牛をカレーに入れるんだ?カレーに米沢牛は貴族特権だぞ。」

米沢市在住の武には、猫の言った『米沢牛』の定義が曖昧だ。
何か勘違いをしているのだろうか?

「なんで、って言われてもさ。うちのカレーは牛肉が入ってる。」と武は答えた。

「ははーん。一応確認するけど、お前の言った米沢牛って、米沢市のスーパーで売ってる牛肉のことか?」

「そうだ。他に米沢牛があるのか?」武は猫に聞いた。

「米沢牛は高級品だから、近所のスーパーで買えるかな?普通は肉屋で買うだろうな。」

「肉屋か・・」

「高級品だから『米沢牛』ってのぼりが肉屋に立ってるだろ。」と猫は言った。

「へー。米沢市の牛肉は全部米沢牛だと思ってた。僕は食べたことあるのかな?」

「お前なー。米沢牛なめんなよ!」と猫は声を荒げる。

「小学生の知識はそんなもんだ。」

「ところで、米沢牛は何色か知ってるか?」と猫は武に質問した。

武は社会科見学で訪れた牛舎を思い浮かべた。頭に浮かんできたのは白と黒の牛だった。
武が飲む牛乳のパッケージにも載っている。

「白と黒のまだら模様だろ?」と武は言った。

「それホルスタイン!乳牛だよ。食べねーよ。」
※食肉用として飼育されるホルスタインもいるようです。

「じゃあ、何色なんだよ?」武はイライラしながら聞いた。

「黒。黒毛和牛っていうんだ。黒い牛を見たことあるか?」

「黒い牛か。どうだろう?覚えてないな。」と武は正直に答えた。

「そうだろうな。お前が米沢市に住んでいても米沢牛を見ることはない。米沢牛と知られたら盗まれるから、畜産農家は牛舎の奥深くに米沢牛を隠してるんだ。人の目に付かないように。」

「へー。牛舎の奥深くか。迷宮みたいだな。」

「まさに迷宮だ。知らない奴が入ったら出て来られない。」

「そんなに危険だったら、これからは牛舎に近づかない方がいいな。それにしても、米沢牛を育てるのに金かかるんだな。」

「そりゃそうだよ。エサはヤバいのを使ってるし、盗まれないように軍人崩れを雇って警備してる。もしお前が忍び込んだら、銃で撃ち殺されるぞ!気をつけろ。」猫は武に念押しした。

「分かったよ。気を付けるよ。それで、山田家のカレーは米沢牛じゃないんだな?」

「もちろん。カレーに米沢牛使うのは大金持ちだけだ。」

「主税の家は金持ちだったけど、カレーに米沢牛入れてたのかな?」

「それはないね。カレーに米沢牛使う金持ちはレベルが違う。日本だったら、そうだな・・・、岩崎家は知ってるか?」

「岩崎弥太郎の?」
※岩崎弥太郎は、三菱財閥の創設者です。

「そうだ。カレーに米沢牛ができるのは、岩崎弥太郎クラスの金持ちだ。」と猫は言った。

「主税の家でもカレーに米沢牛は無理か・・・。」

「そりゃ無理だ。カレーに米沢牛は普通の金持ちには。」

「じゃあ、僕みたいな普通の家は、米沢牛をいつ食べるんだ?」

「お前、高熱で死にかけた時あったか?」

「2年前に熱が42度でて死にかけた、って母さんから聞いた。」

「その時、何か珍しい食べ物食べなかったか?」

「メロンを食べさせてもらった。はじめて食べたけど、美味しかったな。」
※メロンは貴重品でした。

「お前が死ぬ前に、一度は高級品を食べさせてやろうとしたんだ。いい母ちゃんじゃねえか。」

「そうだね。」

「でもな、メロンは喉がイガイガするからもう止めとけ。母ちゃんには『次に死にかけたら米沢牛が食べたい!』って言っといた方がいい。」と猫は武に言った。

「そんなに貴重なんだ。米沢牛はメロンと同じレベルなのかー。知らなかったな。」

「死にかけなくても、記念日に食べる家もある。」

「そうなのか。じゃあ、今日は誰の誕生日でもないから山田家には米沢牛がないね。」

「あっそう。じゃあ犯人は教えない。」と猫は言った。

「そう言わずに、今度用意するから教えてくれよ。」

「嫌だね。そんな口約束を信じるほどアホじゃない。犯人の名前は米沢牛と交換だ。」

「じゃあ、何かヒントくれよ」と武は猫に頼んだ。

猫は少し考えてから武に言った。

「そうだな。一つ教えてやろう。警察署に着いたらナカムラを探せ。じゃあな!」

そう言うと猫はどこかに去っていった。

ナカムラって誰だよ?

あいつのヒントはイマイチなんだよな・・・
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