僕と猫と米沢牛 ― 勝手に他人の半生を書いてみた

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僕と猫と米沢牛

米沢狩り

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(20)米沢狩り

話が途中になってしまったので、猫は説明を続けた。

「お前の父ちゃんは米沢北警察署に連行されたはずだ。俺の仲間が見張ってくれているから、何か動きがあったら連絡がくる。俺はお前に知らせるために、先にここに戻ってきた。」

猫は最善を尽くしてくれたようだ。父親を救い出す必要があるのだが、小学生の武では米沢北警察署に乗り込んでも何もできないだろう。

どうすればいい?

武が考え込んでいると、牧場に手を後ろに縛られ麻布を被せられた人影が見えた。
20人はいるだろう。

「あれは何?」と武はクマさんに尋ねた。

「米沢狩りで捕まった米沢派のスパイだ。今朝、他のメンバーが地下施設に収容すると言ってた。」とクマさんは言った。

地下牧場はシン米沢派の拠点だから、米沢派のスパイがここに連れてこられたようだ。
スパイたちは牛舎とは別の建物に向かって歩いている。
牛舎にはシン米沢牛の極秘情報があるから、米沢派を別の建物に収容するのだろう。

スパイとして連れてこられた中には女性や子供も混ざっている。女性や子供がスパイとは思えないが、スパイ容疑をかけられて家族ごと地下施設に連行されたのだろう。

「あれは聡かな?」と武はクマさんに聞いた。

「どうだろうな?遠いから顔が分からん。て言うか、俺は聡を知らないぞ。」

「あ、そうか。ごめん。クマさんは聡を知らないよね。」

「俺は聡の顔が分かるぞ。あそこにはいない。」猫が言った。

「そうか。やっぱり、北に逃げたんだな。」

「米沢狩りは始まったばかりだから、後から連行されてくるかもなー。収容者はもっともっと増えるだろう。」と猫は言った。

武は猫語の分からないクマさんに説明する。まるで通訳者のようだ。

「猫が言うには、あの中には聡はいないらしい。北に逃げたのかもしれない。」

「そうだな。まあ、あれだけスパイを摘発できれば米沢派に交渉できるだろう。お前の父ちゃんも人質交換で助けられるかもしれない。」

「本当?」

「ああ。収容所で状況を聞いて来るから、少しこの辺りで待ってろ。」
そうクマさんは言って、スパイが連行された収容所に向かっていった。

クマさんが収容所に行った後、猫が食べ物を要求してきたので武は残してあったシン米沢牛を与えた。猫は美味そうにシン米沢牛を食べている。

それから武はしばらく時間があったので、猫と一緒に牧場のシン米沢牛を見て回った。厳密には、牛舎の入り口には鍵が掛かっていたので、武は牛舎の外から中の様子を見学した。

シン米沢牛は冷暖房完備の牛舎で暮らしている。
世話をしているのはロボットだ。人間は牛舎にはいない。
猫のムハンマドに人間がシン米沢牛の世話をしない理由を聞くと、『シン米沢牛に病気が移るのを避けるためだ』と言っていた。
ロボットは病原菌とは無縁なので、シン米沢牛は無菌空間で飼育されているのだ。

牛舎から収容所に視線を移すと、またスパイ容疑をかけられた人たちが連行されていた。

建物の中には何人収容されているのだろうか?

しばらく眺めていると、武が小学生で見たことがある顔が何人か含まれていた。
小学生が本当にスパイなのかは分からない。本当にスパイかどうかは、関係ないのだ。
紛争状態では怪しい者は全て連行される。

武が見ただけでも連行されたスパイ容疑者は200人を超えている。実際には数倍いるだろうから、連行された人の数は1,000人を超えているだろう。

米沢市の人口規模からすると1,000人は異常な数だ。

現在の米沢市の人口は約9万人。南部の人口がその半分の4万5,000人だとすると、南部全体の約2%が収容所に連行されていることになる。スパイ容疑者の中には冤罪も多く含まれているだろう。

何よりも米沢市民の生活に深刻なのは、市が2つに分断されることだ。

これから米沢市の北部と南部の境界線で分断が進み、お互いの行き来がなくなる。
境界性を跨いだ商売は難しいし、家族や親戚と会えなくなる者が続出するだろう。
武の祖父母は北部に住んでいるので、これからしばらく祖父母に会えなくなる。

次に祖父母に会えるのはいつだろう?
父親は無事だろうか?

こうして米沢戦争は始まった。
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