僕と猫と米沢牛 ― 勝手に他人の半生を書いてみた

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僕と猫と米沢牛

クローンの両親

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(26)クローンの両親

竹村は武たちを研究所に案内した。落ち着いて話せる場所の方がいいと思ったのだろう。
猫も暇そうに研究所に入ってきた。

研究所に入ると奥まで続く無機質な通路が見えた。その通路沿いに無数のドアがあって研究室になっているようだ。幾つ部屋があるか分からないくらい巨大な施設であることは、小学生の武にも理解できた。

今の武の興味は『自分の両親が誰なのか?』だけだ。
これを竹村から聞き出せれば、この研究所への訪問の目的は達成されたことになる。

竹村は武、クマさんを入り口付近にあるミーティングスペースに座るように勧めた。竹村は武とクマさんが席に座ったのを確認すると、自分も座って武に話しかけた。

「君の両親のことだったよね?」

「そうです。」と武は緊張しながら答えた。

「本当は20歳になったら伝える約束なんだ。でも、君は自分がクローン人間だと知ってるから、話してもいいか・・・。」竹村は独り言のように言った。

「お願いします。」

「じゃあ言うよ。まず、君の父親は僕だ。」と竹村は言った。

「え?」

「だから、君の父親は僕だ。君の前に座っている竹村英世(たけむら ひでよ)だ。」

竹村の名前は英世というらしい。きっと、野口英世から取ったのだろう。
武はそっち(英世)に気を取られてしまったが、重要なのは竹村が武の父親であるということだ。

どういう反応をすればいいのだろう?

武はこんなに早く本当の父親と対面できるとは予想していなかった。
しかも、父親はマッドサイエンティスト竹村英世。

横を見るとクマさんも驚いている。
さすがに竹村が武の父親だとは想像していなかったようだ。

猫はあくびをしながら聞いている。
竹村が武の父親だと知っていたのだろう。
猫が武に教えなかったのは『猫の優しさ』ということにしておく。でも、一応確認しておこうと武は思った。

「お前、知ってたのか?」と武は小声で猫に聞いた。

「もちろん。知ってたよ。研究所に行くんだったら父親本人から聞いた方がいいかと思って、俺からは言わなかった。」と猫は答えた。

武と猫が小声で話しているのを見て、竹村は驚いている。

「武はもう猫と話ができるのか?」と竹村は言った。

「もう?『もう』って、どういうこと?」と武は竹村に聞き返した。

「僕も猫と話ができる。猫語が理解できる人は、特殊な遺伝子を持っているんだ。」

「つまり、猫と話させるのは遺伝?」

「そうだよ。遺伝だ。そして、体細胞クローンの君が猫語を理解できるのは、僕の遺伝子を引継いでいるからだ。」

※体細胞クローンは、元となる個体(ドナー)の体細胞から取り出した遺伝子を含む核を、核を抜いた未受精卵に移植し、電気的刺激等により融合させます。すなわち、作製されたクローン個体は、ドナーと同一の遺伝情報を持っています。

「じゃあ、僕と猫の話の内容は聞こえてた?」武は竹村に聞いた。

「もちろん。分かるよ。だって、僕はムハンマドと一緒に暮らしていたから。今から30年くらい前かな。」

「違う違う!お前が武くらいの時だから、もう40年くらい前だ。」と猫が言った。

「え?お前は父さんの猫?」と武は猫に聞いた。

武は不覚にも竹村のことを『お父さん』言ってしまったことに気付いた。
恥ずかしい・・・。
養子が実の親に会うのはこういう感覚なのだろうか?
他の人たちは武が『お父さん』と言ったことには気付いていないようだ。

「失礼だな。竹村と一緒に暮らしたことはあるけど、俺は誰の猫でもねーよ。」と猫は言った。

「でも、40年前に一緒に住んでいた。これでお前が200歳というのも信憑性が出てきたな。」

「嘘じゃねーよ。年を誤魔化してどうすんだ?俺は駆け出しのアイドルか?」
猫はよく分からないところでキレている。

「あなた(竹村)が僕の父親ということは分かった。猫語のこともあるしね。それで、僕の母親は誰なの?」と武は竹村に質問した。

「君の母親は私の妻だ。見えるかな?あそこに立っている女性が私の妻だ。」と竹村は言うと、直ぐ近くに立っている女性を指さした。

武は女性をゆっくりと観察したが、竹村が武の母親と言った女性は20代にしか見えない。

「あれが僕の本当のお母さん?父親が48歳なのに、母親が若過ぎない?」と武は竹村に疑問をぶつけた。

「ああ、お前の母親は僕よりも20歳若い。正確に言うと、お前の母親は私の妻のクローンだ。」

「妻のクローン?」

武は話が更にややこしくなっていくことを覚悟した。
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