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ある刑事の話
俺は死体を捨てたくないのかもしれない
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夜通し貯水池を回った俺は、朝焼けの中アパートに到着した。捨てられなかったスーツケースと共に。
雑に捨てようと思えば、どこにでも捨てられる。でも、スーツケースが誰かに発見されて死体が見つかるのは避けたい。スーツケースが発見されたら、女性の失踪事件から殺人事件に格上げされるのだ。
それに、殺人事件を捜査している刑事の俺が、すぐに発見される場所に捨てたのが同僚にバレると恥ずかしい。
「おい、聞いたか?」
「諸江の話?」
「そう。あいつ、ゴミ捨て場に死体捨てるとか、ウケるよなー?」
「いえてるー。もっと捨てる場所考えろよ。アイツ、刑事として恥ずかしくないのか?」
「だろ? だから、あいつ出世しないんだよ」
「だな」
こういう捜査第一課での会話が容易に想像できる。捜査第一課の笑いものだ…
俺は刑事としてのプライドを保つために、誰も見つけることができない場所に捨てないといけない。つまり、俺は殺人事件を知り尽くしたベテラン刑事として、『誰もが予想しない場所に死体を捨てないといけない』プレッシャーを感じているのだ。
きっと、お笑い芸人が「なんか面白いこと言って!」と言われるのと同じような感じだろう。お笑い芸人になったことないけど・・・
そもそも、特大スーツケースで死体を捨てるから目立つのだ。もし、死体を切断すれば捨てやすくはなる。でも・・・
――俺に奈那の死体を切断できるだろうか?
部屋に戻った俺は、スーツケースを開けた。中から奈那の死体が出てくる。綺麗な死体だ。こうして見ていると、奈那は生きているように思える。
「奈那、俺が殺したのか?」
奈那に問いかけるものの返事はない。死んでいるから当然だ。
俺は死体の奈那を見つめる。
奈那は目を閉じているから笑っているのか怒っているのか分からない。
死に顔からは悲痛な表情は読み取れないから、苦しまずに死んだのだろう。それだけが救いだ。
奈那の死体を傷つけることはしたくないし、奈那にはこのまま綺麗でいてほしい。
そして、できることなら俺は奈那とずっと一緒にいたい。
――俺は死体を捨てたくないのか?
さっきまで捨てに行こうとしていた奈那の死体と俺は一緒にいる。
そして、死体の奈那が部屋にいることで、俺は幸せな気分になっている。
奈那がいれば一人暮らしの寂しさを紛らわせるから?
それとも、俺に芽生えた性癖なのか?
俺は改めて自分に質問する。
――俺が奈那を殺したか?
多分、答えはノーだ。俺は直感的にそう感じた。
警察がいつ俺の部屋に来るかは分からない。でも、警察が俺の部屋に来るまでは奈那の死体を俺の手許に置いておくことに決めた。
奈那と一緒にいたいから。
俺は部屋の冷蔵庫の中身を取り出すことにした。奈那の死体が腐食しないように、奈那に中に入ってもらうために。
俺の冷蔵庫は狭い部屋には不釣り合いな大きさ。サイズが大きくても小さくてもほとんど値段が変わらなかったから、『大は小を兼ねる』の諺に従って大きいのを購入した。その判断が役に立ったと思う。
中身を取り出した冷蔵庫に、俺は奈那をそっと入れた。冷蔵庫の角にぶつけて奈那に傷が付かないように。丁寧に、慎重に・・・
冷蔵庫のサイズは奈那の身体にピッタリだった。バービーハウスよりもサイズ感がフィットしている。
俺は冷蔵庫の冷気が漏れないように、透明のビニール袋をハサミで切ってドアに付けた。
こうすれば腐食を防ぎながら、奈那を見ていられる。
こうして、俺と奈那の生活はスタートした。
きっと、新婚生活はこんな感じなのだろう・・・
***
俺はシャワーを浴びてから〇〇県警に向かうことにした。一眠りすることも考えたが、今日は朝から捜査会議がある。この前遅刻してこっぴどく田畑部長に怒られたから、今日は遅刻厳禁だ。
俺は冷蔵庫を開けて「行ってくるよ!」と奈那に言ってから部屋を出た。
〇〇県警の会議室に入ったら後輩の石倉が席に座っていた。俺は石倉の隣に座った。
「あっ、先輩、おはようございます!」
「おはよー、早いね」
「先輩も早いですよ。まだ会議まで10分以上ありますよ」
「まあ、社会人として遅刻は恥ずかしいことだ。と、この前の会議で思い知らされたからなー」
「この前、部長、めっちゃキレてましたねー。あれ、公開処刑ですよ」
「だよなー」
「それにしても、先輩、今日は嬉しそうですね」
「そうか?」
「何かいいことありました?」
「特にないけど。なんで?」
「いやー、彼女でもできたのかと思って」
石倉が気付くくらいだから、相当顔面が緩んでいるのだろう。
そうか、俺は嬉しいのか。
――今日は早く帰ろう・・・
しばらく石倉と雑談していたら、田畑部長が入ってきた。
さて、捜査会議の始まりだ。
【後書き】
優柔不断で思い込みが激しい刑事はこれで終了です。次話から後輩刑事の話が始まります。
この物語はオムニバス形式になっていて、前半(1~6話:この刑事の話)が問題編、後半(7~11話:後輩刑事、法医学者、女性の話)が解決編になっています。
問題編(1~6話)に出てきた謎は、こんな感じでしょうか。
・なぜ部屋に死体があったのか?
・この死体は鶴崎彩なのか? 山本奈那なのか?
・監視カメラを確認しにきた刑事は?
・『小指フェチ連続殺人事件』の犯人は?
・優柔不断な刑事は死体を捨てることはできるのか?
雑に捨てようと思えば、どこにでも捨てられる。でも、スーツケースが誰かに発見されて死体が見つかるのは避けたい。スーツケースが発見されたら、女性の失踪事件から殺人事件に格上げされるのだ。
それに、殺人事件を捜査している刑事の俺が、すぐに発見される場所に捨てたのが同僚にバレると恥ずかしい。
「おい、聞いたか?」
「諸江の話?」
「そう。あいつ、ゴミ捨て場に死体捨てるとか、ウケるよなー?」
「いえてるー。もっと捨てる場所考えろよ。アイツ、刑事として恥ずかしくないのか?」
「だろ? だから、あいつ出世しないんだよ」
「だな」
こういう捜査第一課での会話が容易に想像できる。捜査第一課の笑いものだ…
俺は刑事としてのプライドを保つために、誰も見つけることができない場所に捨てないといけない。つまり、俺は殺人事件を知り尽くしたベテラン刑事として、『誰もが予想しない場所に死体を捨てないといけない』プレッシャーを感じているのだ。
きっと、お笑い芸人が「なんか面白いこと言って!」と言われるのと同じような感じだろう。お笑い芸人になったことないけど・・・
そもそも、特大スーツケースで死体を捨てるから目立つのだ。もし、死体を切断すれば捨てやすくはなる。でも・・・
――俺に奈那の死体を切断できるだろうか?
部屋に戻った俺は、スーツケースを開けた。中から奈那の死体が出てくる。綺麗な死体だ。こうして見ていると、奈那は生きているように思える。
「奈那、俺が殺したのか?」
奈那に問いかけるものの返事はない。死んでいるから当然だ。
俺は死体の奈那を見つめる。
奈那は目を閉じているから笑っているのか怒っているのか分からない。
死に顔からは悲痛な表情は読み取れないから、苦しまずに死んだのだろう。それだけが救いだ。
奈那の死体を傷つけることはしたくないし、奈那にはこのまま綺麗でいてほしい。
そして、できることなら俺は奈那とずっと一緒にいたい。
――俺は死体を捨てたくないのか?
さっきまで捨てに行こうとしていた奈那の死体と俺は一緒にいる。
そして、死体の奈那が部屋にいることで、俺は幸せな気分になっている。
奈那がいれば一人暮らしの寂しさを紛らわせるから?
それとも、俺に芽生えた性癖なのか?
俺は改めて自分に質問する。
――俺が奈那を殺したか?
多分、答えはノーだ。俺は直感的にそう感じた。
警察がいつ俺の部屋に来るかは分からない。でも、警察が俺の部屋に来るまでは奈那の死体を俺の手許に置いておくことに決めた。
奈那と一緒にいたいから。
俺は部屋の冷蔵庫の中身を取り出すことにした。奈那の死体が腐食しないように、奈那に中に入ってもらうために。
俺の冷蔵庫は狭い部屋には不釣り合いな大きさ。サイズが大きくても小さくてもほとんど値段が変わらなかったから、『大は小を兼ねる』の諺に従って大きいのを購入した。その判断が役に立ったと思う。
中身を取り出した冷蔵庫に、俺は奈那をそっと入れた。冷蔵庫の角にぶつけて奈那に傷が付かないように。丁寧に、慎重に・・・
冷蔵庫のサイズは奈那の身体にピッタリだった。バービーハウスよりもサイズ感がフィットしている。
俺は冷蔵庫の冷気が漏れないように、透明のビニール袋をハサミで切ってドアに付けた。
こうすれば腐食を防ぎながら、奈那を見ていられる。
こうして、俺と奈那の生活はスタートした。
きっと、新婚生活はこんな感じなのだろう・・・
***
俺はシャワーを浴びてから〇〇県警に向かうことにした。一眠りすることも考えたが、今日は朝から捜査会議がある。この前遅刻してこっぴどく田畑部長に怒られたから、今日は遅刻厳禁だ。
俺は冷蔵庫を開けて「行ってくるよ!」と奈那に言ってから部屋を出た。
〇〇県警の会議室に入ったら後輩の石倉が席に座っていた。俺は石倉の隣に座った。
「あっ、先輩、おはようございます!」
「おはよー、早いね」
「先輩も早いですよ。まだ会議まで10分以上ありますよ」
「まあ、社会人として遅刻は恥ずかしいことだ。と、この前の会議で思い知らされたからなー」
「この前、部長、めっちゃキレてましたねー。あれ、公開処刑ですよ」
「だよなー」
「それにしても、先輩、今日は嬉しそうですね」
「そうか?」
「何かいいことありました?」
「特にないけど。なんで?」
「いやー、彼女でもできたのかと思って」
石倉が気付くくらいだから、相当顔面が緩んでいるのだろう。
そうか、俺は嬉しいのか。
――今日は早く帰ろう・・・
しばらく石倉と雑談していたら、田畑部長が入ってきた。
さて、捜査会議の始まりだ。
【後書き】
優柔不断で思い込みが激しい刑事はこれで終了です。次話から後輩刑事の話が始まります。
この物語はオムニバス形式になっていて、前半(1~6話:この刑事の話)が問題編、後半(7~11話:後輩刑事、法医学者、女性の話)が解決編になっています。
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・なぜ部屋に死体があったのか?
・この死体は鶴崎彩なのか? 山本奈那なのか?
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