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犯人を私の前に連れてきなさい、期限は1カ月(ケイトの話)

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 私たちはコードウェル王国の王城に転移した。
 突然現れた私たち(主にフェルナンドだと思う)を見て、城内は騒然としている。あちこちで聞こえる悲鳴、我先に走って逃げる衛兵、文官たち。その中に立ち止まっている兵士がいる。責任者だろうか?

 私はその兵士に「王をここに連れてきなさい!」と言った。兵士は私の言葉を聞いていないのか、剣を抜いて構えた。

「早く、早く、早く! 連れてこいって言ってるのよ!」
 私が王城の壁を粉砕すると、その兵士は地面にへたり込んだ。

「ケイト様、この者はダメです。私が連れてきます」

 一番高い建物の前まで飛行すると、フェルナンドは叫んだ。

「私はケイト様の忠実な僕(しもべ)、フェルナンド。この国の王よ、どこにいるか?」

 フェルナンドの翼から発生する風圧とともに、竜の発する言葉によって身体にビリビリとする振動が走る。
 逃げ惑う衛兵、文官たちはフェルナンドを一瞥したものの、散り散りになって走っていく。
 フェルナンドがしばらく空中に浮遊していると、一人の初老の男がやってきた。

「私がご案内いたします」男はそう言った。

「場所はどこだ?」

 男が指さした建物の壁をフェルナンドが尾で破壊すると、中には中年の男が立っていた。

***

 フェルナンドは大きすぎて城の中に入れないから、空中から中を窺っている。私はグレコを連れて王城の中年男のところへ転移した。

「あなたがこの国の王かしら?」と私は男に聞いた。

「いかにも。私がコードウェル王国国王のマルティン・コードウェルです。何か御用ですか?」

「あなたに聞きたいことがあります。森の教会の交渉団としてこちらに来たポールは知っていますか?」私は怒りを抑えて努めて冷静に言った。

 私の質問にマルティン国王は少し考えてから答えた。

「ポール・・・、ああ・・・あの青年ですか。独立のメリットを私たちに説明していました。よく覚えています。結局、私たちが彼に根負けして、独立を認めさせられたようなものです。彼はどうしていますか?」

「ポールは何者かに殺されて死にました。交渉をまとめて戻ってくる途中、何者かに襲われて・・・」

「えっ、死んだのですか? マデラ共和国に彼がいれば、私たちといい関係性を続けられると安心していたのですが・・・」

 マルティン国王はポールが死んだことを知らない素振りで答えた。でも、そんな素振りは演技で何とでもなる。それに、私にはマルティン国王が演技をしていても関係はない。
 私は本題を切り出すことにした。フェルナンドに言われたからできるだけ冷静に。

「私がこちらに来た理由は、ポールを殺した犯人を殺すためです」
「え? あなたは森の教会では神と呼ばれていると聞いています。神が人を殺すのですか?」

「私は神ではありません。信者が勝手にそう呼んでいるだけです。それに、私には万人を等しく愛せるような心の広さはありません。あなたは国王だけど、国民全員を等しく愛しているわけではないでしょう?」

 マルティン国王は私が何を言いたいのかを考えている。少ししてから私に言った。

「そうですね。国民全員を等しく愛する王は理想の国王です。でも、実際には家族や関係性の近い者を優先するでしょう」

「それと同じです。ポールはコードウェル王国とサンダース王国の国境近くを通っていた時に、襲われたと聞いています。と言うことは、犯人はコードウェル王国とサンダース王国のどちらかにいる。つまり、コードウェル王国を滅ぼせば、容疑者の半分が死ぬ」

「そんな乱暴な・・・。一人の仇を討つために、コードウェル王国にいる数万人を殺すのですか?」

「ええ、そうです。さっきも言ったように、私には万人を等しく愛せるような心の広さはありません。私の中では、ポールの命はコードウェル王国の数万人の命よりも重い。コードウェル王国を滅ぼした後、サンダース王国を滅ぼせばいい。そうすれば犯人は確実に死ぬ」

 マルティン国王は私が何を考えているかを理解したようだ。自分を含めたコードウェル王国の数万人の命を救えるかどうかの瀬戸際であることを。
 黙ってはいるものの、マルティン国王はこの状況をどう乗り切るかを必死に考えている。

「仰ることは分かりました。ポールを失ったあなたの心の傷が深いことも理解しました。ただ、一つ確認させて下さい」
「何かしら?」
「コードウェル王国の数万人の命を奪うことは、あなたにとって容易いことかもしれません。だとしても、あなた方が城に到着してから誰一人殺していません。そればかりか、事前に私にコードウェル王国を滅ぼそうとしていることを教えています。なぜですか?」

「ポールが人的被害を出さないために話し合いで解決しようとしていた、とフェルナンドに言われたからです。ああ、フェルナンドはあの外を飛んでいる竜です。だから、滅ぼす前に会いにきました」

「じゃあ、私たちがまだ生きているのはフェルナンドのお陰ですか・・・」
 マルティン国王は外にいる竜を見た。

「彼に感謝した方がいい。私がコードウェル王国を攻撃する直前だったから」

 マルティン国王は慎重に言葉を選んで言った。
「コードウェル王国を滅ぼす前に私に会いにこられた、ということは、私に何か要求事項があると推測しますが?」

「ええ、あるわ。ポールを殺害した犯人を私の前に連れてきなさい。猶予は1カ月。その間、犯人が逃亡する可能性があるから国境は閉鎖しなさい。1カ月過ぎても犯人が見つからなかったら、私は二つの国を滅ぼします」
「1カ月・・・」
「そう1カ月。できなければ皆殺しにする。私にとっては犯人を殺すことができれば、どっちでも構わない。私が本気かどうか疑わしいのであれば、今から1つか2つ、村を消滅させておきましょうか?」

「やめてください! 分かりました。1カ月以内に必ず犯人を捕まえます」

「期限は1カ月よ」

 私はそう言うと、フェルナンドとグレコを連れて転移魔法で森へ戻った。
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