僕と猫と明珍火箸 ー 勝手に他人の半生を書いてみた

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ついに成仏するお菊さん

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(20)ついに成仏するお菊さん

武たちの計画では、町坪弾四朗(ちょうのつぼ だんしろう)の子孫が姫路市役所の『お菊さん対策課』に最後の1枚の皿を持ってくることになっている。
ただ、町坪弾四朗の子孫をでっち上げると担当者にバレる可能性がある。

だから、武は『おばあさんに手紙と皿を持っていくように頼まれた』と言って『お菊さん対策課』に皿を持っていくことにした。

手紙の文面を母の信子に考えてもらうと、こんな感じの文章が出来上がった。

---------------
姫路市役所 お菊さん対策課 ご担当者様

拝啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。

 さて、私が終活のために倉庫を整理していたところ、この皿を発見しました。私の先祖は町坪弾四朗であることは祖母から聞いておりましたので、発見した皿は播州皿屋敷の儀式で使われているお菊の皿ではないかと思われます。
 付きましては、この皿を播州皿屋敷の儀式にお持ちいただき、お菊様が成仏するかを確認していただけませんでしょうか。
 ご存知の通り、当家は青山家と深い因縁があります。青山家に皿を渡すと破壊する可能性がありますので、お手数では御座いますが、ご担当者様が直接儀式に持ち込みいただければ幸いでございます。

 貴役所のますますのご発展をお祈りいたしますとともに、今後とも変わらぬご愛顧を賜りますようお願いいたします。
           敬具
---------------


― 会社の挨拶状みたいだ

そう武は思ったものの、要件は網羅しているからこの文面をそのまま使うことにした。

武は手紙と皿を姫路市役所のお菊さん対策課に持ち込んだ。

「前を歩いていたら、おばあさんに手紙と皿を持っていくように頼まれたんだ」
武はそう言って手紙と皿を職員に渡した。

手紙と皿を受取った職員は驚いている。

「きみ、これ誰から受け取ったの?」と職員は武に聞いた。

「知らない人だった。でも、お小遣いくれたからいい人だと思う」

「ありがとう」

職員はそう言うと責任者らしき男性に手紙と皿を持っていった。
しばらくすると『お菊さん対策課』が騒がしくなった。

これで大丈夫かな?

***

夜になって武と猫とお菊さんは姫路城に忍び込んだ。今回は『お菊の皿』のコピー9枚を持ち込んでいるから荷物が多い。

武たちは午後7時30分に姫路城のお菊井戸に到着した。お菊さんは『お菊の皿』のコピー9枚を透明にして待機している。

午後7時40分になると、青山家のおじいさんが風呂敷包みを持って井戸の側にやってきた。いつもより10分早い。

午後7時45分になると、姫路市役所の職員らしき男性が皿を持ってやってきた。遠目からでは確認できないが、昼に見た『お菊さん対策課』の責任者に似ている。

姫路市役所の職員は皿を青山家のおじいさんに渡して話し始めた。
暗いから追加された1枚の皿が本物か偽物か確認できないだろう。

離れているから詳しくは聞こえないが、青山家のおじいさんは「町坪弾四朗の子孫?」、「成仏するかもしれない?」と大声で叫んでいる。
今日の皿屋敷の儀式は、皿を1枚追加して10枚でチャレンジするだろう。

午後7時50分になると、青山家のおじいさんは、姫路市役所の職員から受け取った皿を他の『お菊の皿』の一番上に置いて、風呂敷に包んでお菊の井戸の側に置いた。

午後8時になると、お菊さんは水蒸気の膜をとって姿を現した。
お菊さんはお菊井戸の側に置かれた皿一式を確認すると、皿数えの作業に取り掛かった。

今夜、お菊さんは皿を1枚ずつ偽物にすり替えながら皿を数えないといけない。
ハイレベルなテクニックが要求されるわけだ。

午後8時1分を過ぎたころ、お菊さんは数え始めた。

― いちまぁ~い・・・

一番上の皿はコピーだからすり替えの必要はない。
武はお菊さんが皿をすり替えていないことを確認した。

― にまぁ~い・・・

お菊さんはそう言った瞬間、手に持った皿を水蒸気の膜を掛けて透明にし、偽物の皿とすり替えた。

「すげーな。相変わらず見事なテクニックだなー」猫は興奮して言った。

「そうだな。すげーな」

「これが最後の播州皿屋敷かと思うと、寂しい気分になるなー」猫はしみじみと言った。

「そうだなー。お菊さんの千秋楽だな」

武たちが話している間も皿数えは進んでいく。
その間、お菊さんは順調に偽物の皿にすり替えている。

― きゅうまぁ~い・・・

いつもであれば青山家のおじいさんが「じゅう(十)」というタイミングだ。
でも今日はもう一枚皿がある。

― じゅうまぁ~い・・・

お菊さんがついに10枚目を数えた。
お菊さんは皿を見つめている。

しばらくすると、お菊さんは目から涙を流しながら言った。

― あらうれしや~

お菊さんは水蒸気の膜を被って視界から消えた。

遠くで青山家のおじいさんと姫路市役所の職員が抱き合って喜んでいるのが見える。

青山家のおじいさんは10枚の皿を1枚ずつ丁寧に風呂敷に包んだ。
そして、青山家のおじいさんと姫路市役所の職員は夜の街に消えていった。



武には本当にお菊さんが成仏したように見えた。

― お菊さん、ついに成仏できたんだね・・・
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