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11『殿下の味方』
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一夜明けた午前、定例の帝国評議会が始まりました。私も本来の秘書従者(事務メイド)兼、皇太子婚約者として、本日から同席いたします。
身分は皇室付の貴族メイドのままですが、昨夜のお目通りが婚約の了解と解釈されました。
本日出席されるメンバーは総勢十名となります。西ハウセンのオズヴァルド様も特別ゲストとして出席されます。
デマルティーニ様は最初に、この婚約破棄がいかに有意義であるかと説きました。
アテマ王国を排除することにより、他国と同盟を結びより援助を得られる、と力説いたしました。
家臣団の中には懐疑的な目を向ける者はいましたが、このメンバーの大半は現帝国皇とデマルティーニ宰相を支えている者たちです。つまり宰相とこの評議会が全てを決定いたします。
ブルクハウセン・セラフィーノ様は孤独でした。
私がお支えせねばなりません。
宰相による所感が終り一部の者たちは無表情、一部の者は少し困ったような表情をしておられます。それぞれの立ち位置を読まねばなりません。
「ならばアテマ第二王女に追っ手でも差し向ければよかったのではないかな?」
オズヴァルド様がいきなり過激路線に振りました。ゲストとはいえあまりにも無責任すぎます。
「今からでも遅くはない。足の速い部隊で追撃してはいかがか?」
皆は静まり返ってしまいました。相手は一応準王族という立場です。殿下は腕を組み、目をつむっておられます。バカバカしいから相手にするなとアピールいたします。
「さてさて。東方の皆様は隣国と友好関係を保っております。各領主たちからすれば、不要な揉め事は避けたいでしょう」
帝国内務大臣がやんわりと否定いたします。国境線の揉め事はもう遠い昔の話でした。
「殿下の権限で幽閉すればよろしかったのですよ」
オズヴァルド様は憮然とし吐き捨てます。なんとか失策をアピールしたいのでしょう。殿下は挑発されたと思ったのか、済んだ青い目を開かれます。
「ふふっ、戦争を欲しているのか? それこそ東の領主たちは望むまい。国境貿易でそれなりに潤っているからな。西はどうなのだ?」
殿下は西の国境線を挑発すると、暗に示して見せました。そうなれば困るのは西ハウセンの領主たちです。謀略程度なら可能です。
「皇太子とは呑気でよろしいですなっ! 甘い顔をすればアテマは更に増長しましょう。これは終りではなく始まりなのですよっ!」
かん高い叫びが会議室に響きます。ここで大声を張り上げて、どうなるものでもないでしょうに……。西の貴族様は東側の状況などロクに知らないのでしょう。
「我ら西ハウセンは帝都の失策の後始末は御免ですからね」
「好きにすれば良いさ。今もそうしているだろ?」
そもそも税を免除されている西ハウセン公爵領と、他の領主たちとは違うのです。この部分については皆がシラケてしまわれたようです。産まれる前からの特権を、あたりまえのことだと思っていると。
帝国でありながら帝国に甘えきっているだけの地域が、西ハウセン公爵領なのです。
「殿下はメイドの尻でも追いかけておれば結構。我らは我らで備えますので」
「婚約者の侮辱は許さん。お前こそ女好きの好色貴公子などと、帝都で評判だぞっ!」
「なんですって!? それは西ハウセンを貶める謀略。殿下の仕業ではないのですか?」
「何だと?」
メイドを揶揄され怒り心頭なのは嬉しいのですが、何だか泥仕合のようになってきました。ちなみに好色貴公子は主に酒場などで語られ大いに盛り上がるネタです。どうやら真実のようであります。
「まあまあ、お二人とも。ここは帝国評議会でありますぞ。どうかそれくらいに――」
長老格のロドルフォ枢密院議長がとりなしました。帝国全土の貴族代表が集まる枢密院の長であります。自身の領地が西ハウセンに隣接しておりますので、なかなか難しい立場でもあります。現皇帝の家庭教師を務めていたこともありました。
「さて、それでは議事を進めさせていただきますぞ――」
再びデマルティーニ宰相が進行を務めます。現状の帝国が抱える問題がいつもどおりに列挙されますが、これといった解決策はいつもと同じで提言されません。
今はアテマ王国の出方と、周辺諸国との同盟案件を見守る時でもあります。セラフィーノ殿下は憮然として話を聞いているだけでした。
身分は皇室付の貴族メイドのままですが、昨夜のお目通りが婚約の了解と解釈されました。
本日出席されるメンバーは総勢十名となります。西ハウセンのオズヴァルド様も特別ゲストとして出席されます。
デマルティーニ様は最初に、この婚約破棄がいかに有意義であるかと説きました。
アテマ王国を排除することにより、他国と同盟を結びより援助を得られる、と力説いたしました。
家臣団の中には懐疑的な目を向ける者はいましたが、このメンバーの大半は現帝国皇とデマルティーニ宰相を支えている者たちです。つまり宰相とこの評議会が全てを決定いたします。
ブルクハウセン・セラフィーノ様は孤独でした。
私がお支えせねばなりません。
宰相による所感が終り一部の者たちは無表情、一部の者は少し困ったような表情をしておられます。それぞれの立ち位置を読まねばなりません。
「ならばアテマ第二王女に追っ手でも差し向ければよかったのではないかな?」
オズヴァルド様がいきなり過激路線に振りました。ゲストとはいえあまりにも無責任すぎます。
「今からでも遅くはない。足の速い部隊で追撃してはいかがか?」
皆は静まり返ってしまいました。相手は一応準王族という立場です。殿下は腕を組み、目をつむっておられます。バカバカしいから相手にするなとアピールいたします。
「さてさて。東方の皆様は隣国と友好関係を保っております。各領主たちからすれば、不要な揉め事は避けたいでしょう」
帝国内務大臣がやんわりと否定いたします。国境線の揉め事はもう遠い昔の話でした。
「殿下の権限で幽閉すればよろしかったのですよ」
オズヴァルド様は憮然とし吐き捨てます。なんとか失策をアピールしたいのでしょう。殿下は挑発されたと思ったのか、済んだ青い目を開かれます。
「ふふっ、戦争を欲しているのか? それこそ東の領主たちは望むまい。国境貿易でそれなりに潤っているからな。西はどうなのだ?」
殿下は西の国境線を挑発すると、暗に示して見せました。そうなれば困るのは西ハウセンの領主たちです。謀略程度なら可能です。
「皇太子とは呑気でよろしいですなっ! 甘い顔をすればアテマは更に増長しましょう。これは終りではなく始まりなのですよっ!」
かん高い叫びが会議室に響きます。ここで大声を張り上げて、どうなるものでもないでしょうに……。西の貴族様は東側の状況などロクに知らないのでしょう。
「我ら西ハウセンは帝都の失策の後始末は御免ですからね」
「好きにすれば良いさ。今もそうしているだろ?」
そもそも税を免除されている西ハウセン公爵領と、他の領主たちとは違うのです。この部分については皆がシラケてしまわれたようです。産まれる前からの特権を、あたりまえのことだと思っていると。
帝国でありながら帝国に甘えきっているだけの地域が、西ハウセン公爵領なのです。
「殿下はメイドの尻でも追いかけておれば結構。我らは我らで備えますので」
「婚約者の侮辱は許さん。お前こそ女好きの好色貴公子などと、帝都で評判だぞっ!」
「なんですって!? それは西ハウセンを貶める謀略。殿下の仕業ではないのですか?」
「何だと?」
メイドを揶揄され怒り心頭なのは嬉しいのですが、何だか泥仕合のようになってきました。ちなみに好色貴公子は主に酒場などで語られ大いに盛り上がるネタです。どうやら真実のようであります。
「まあまあ、お二人とも。ここは帝国評議会でありますぞ。どうかそれくらいに――」
長老格のロドルフォ枢密院議長がとりなしました。帝国全土の貴族代表が集まる枢密院の長であります。自身の領地が西ハウセンに隣接しておりますので、なかなか難しい立場でもあります。現皇帝の家庭教師を務めていたこともありました。
「さて、それでは議事を進めさせていただきますぞ――」
再びデマルティーニ宰相が進行を務めます。現状の帝国が抱える問題がいつもどおりに列挙されますが、これといった解決策はいつもと同じで提言されません。
今はアテマ王国の出方と、周辺諸国との同盟案件を見守る時でもあります。セラフィーノ殿下は憮然として話を聞いているだけでした。
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