【魅了の令嬢】婚約者を簒奪された私。父も兄も激怒し徹底抗戦。我が家は連戦連敗。でも大逆転。王太子殿下は土下座いたしました。そして私は……。

川嶋マサヒロ

文字の大きさ
11 / 33

11「対決の前哨」

しおりを挟む
 第三王城アジャクシオの王宮では、定期的に夜会なる社交の場がもたれていた。国の政務高官や第一、二王都の大使が夫人同伴で出席する政治の集まりもあれば、今夜のように若い貴族子弟たちが集う出会いの場など形式は様々だ。

 迎賓館の車寄せに、バシュラール家の紋章を刻んだ貴賓馬車が停止する。颯爽と降り立った第一令息のバシュラール・ヴィクトルはアジャクシオでも名高い若き騎士団長だった。
 そしてうやうやしく差し出された手を握るのは、俗世のような雰囲気に染まりがちな夜会を、白に染めるような清純を思わせる大人の女性であった。下車した二人は流れるような自然さで腕を組み入場する。
 全てヴィクトルの妹ディアーヌの振り付けであり、二人は二十回も事前に練習させられていたのだ。

 ヴィクトルとマルゲリット嬢はそのまま会場に入る。
「さて、どうしたものか……」
 このような場所で何をしてよいのか分からないヴィクトルは、とまどいつつ会場内を見回した。まだビュファン・アルフォンス王太子も、あの・・女も来ていない。今夜この場にやって来るという保証もないのだが、最近の出席率は高いとの情報は得ていた。
「昔からのお友達が何人かいますね。挨拶したいのですが、よろしいですか? 団長――いえ。ヴィクトル様……」
「いいぞ。いや、もちろんです。マルゲリット嬢。私もあなたの上司として、ぜひご挨拶したいですね」
「では……」


 少々ぎこちない二人はそれなりに夜会を楽しんだ。マルゲリットの友人たちは、バシュラール伯爵家の第一令息であり、若き騎士団長でもあるヴィクトルに羨望の眼差しを送る。しかしその目は一呼吸後に、破棄令嬢の兄を見る目に変わるのだ。

「やれやれ。けっこう楽しいものじゃないか……。魔獣がいないのは少々物足りんがな」
 二人は一通り会場を回ってから、飲み物を受け取り大きなバルコニーに出る。
「母は魑魅魍魎が策謀を巡らす場だと言っておりましたわ。団長」
「そりゃあ、男女の恋愛戦闘の話だろうな。いや、令嬢も令息たちも家を背負って来ているのかもなあ」
 ヴィクトルは自分の立場を思い出す。今この時にも難しい問題を抱え込んだ若き貴族が、解決の糸口を探して奔走しているのかもしれない。自分もその一人だと。

「来ました……」
「ああ……」
 今夜の主役がいよいよ登場した。ルフェーヴル連合王国の次期国王となるビュファン・アルフォンス殿下と、西方の雄と呼ばれるヴォルチエ辺境伯家のソランジュ令嬢だ。
「あいつら……」
 二人はまるで王と王妃のように振舞っているようにヴィクトル見えるのだ。まだ正式な婚約前にもかかわらず。
「どうされるのですか?」
 婚約破棄については、なんとかしたいとの同意見なれど、マルゲリットはヴィクトルを不安げな眼差しで見つめる。
「騎士には騎士の流儀がある。付いてきてくれるか?」
「どこまでもお供いたします。団長」
 一度顔を赤らめて目を伏せたマルゲリットはヴィクトルを見上げる。

 会場に戻った二人は優雅に腕を組み、主役の前に進み入る。この二組の因縁を知っている者たちは自然と後ずさった。気が付かない淑女は紳士たちに腕を引かれて騎士たちの進路から移動する。
 その二人に気が付いたアルフォンスは笑みを浮かべ、両手を大袈裟に広げて見せた。
「おおっ、我が友よ! 久しぶりではないか――」
「たいへんご無沙汰しております。殿下におかれましてはますますのご健勝、なによりでございます」
「よしてくれよ、ヴィクトル。昔と同じアルフォンスでよい」
「そうもいきませんよ。あなたはこの国の王太子であります。アルフォンス」
「ははは――」
 一触即発の事態かと緊張していた周囲はホッと息を吐き出す。二人は以前の噂どおり、旧知の間柄のように気さくに話していたからだ。
「――ところで、そのご令嬢はどなたなのかな?」
 ヴィクトルはチラリとマルゲリットを見てから微笑んだ。
「第七騎士団の部下だ。今夜は俺が部下だけどな」
「それはそれは……」
 その言葉に、アルフォンスも笑顔で返す。ソランジュ嬢は一歩引いたままにこやかにしていた。
「本当に久しぶりだね。たまには顔を見せてくれよ」
「面談を申し込んでいたのだがなあ?」
「そうかい? たぶん、どこかで止まっているんだな。悪かったね」
 騎士の顔に戻ったヴィクトルは、左手の白い手袋を静かに外す。マルゲリットは組んでいた腕を外し、投げられた純白の手袋が王太子の胸に当たり床に落ちた。
 きらびやかな夜会の雰囲気は一気に凍りつく。ついに始まったと。
「ふーん。お前らしいね……」
 ソランジュが前に出てひざまずき、それを拾い上げて王太子に手渡す。
「さて、これは何の余興だったかな? 我が友よ……」
 アルフォンスの瞳が鋭い刃のようにギラリと光る。この一面を親友のヴィクトルはよく知っていた。
「お前に決闘を申し込むのさ。これならば無視もできまい。剣で語ろうではないか」
「ふっ……」
 アルフォンスもまた左の手袋を外して投げつける。これはマルゲリットが拾い上げた。
「面白い。ところで僕たちの戦績はどうだったかな?」
「昔も今も互角だよ」
 二人の間に魔力の火花が散る。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章をゆっくり更新中です。書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

婚約破棄されたので契約を終了しただけですが? ~王国が崩壊したのは私のせいではありません~

しおしお
恋愛
王立学園の卒業舞踏会。 王太子レオナードは突然、婚約者である公爵令嬢アデリーナとの婚約破棄を宣言する。 隣に立つのは、涙を流す義妹ミレイナ。 「お姉様に虐げられてきました」と訴える彼女の言葉を、貴族たちは信じてしまう。 悪女として断罪され、追放を宣告されるアデリーナ。 だが彼女は怒りも悲しみも見せず、ただ静かに微笑んだ。 「承知いたしました。では――契約を終了いたします」 その一言が、すべての始まりだった。 公爵家による融資、貿易、軍需支援。 王国を支えていたすべてが、静かに停止する。 財務は崩壊し、軍は止まり、商人は離反。 王都は混乱に包まれていく。 やがて明らかになる義妹の嘘。 そして王太子の責任。 すべてが暴かれたとき、二人を待っていたのは―― 完全な破滅だった。 一方アデリーナは、隣国で静かな紅茶の時間を過ごしていた。 これは、 婚約破棄された公爵令嬢が“何もしなかった”ことで始まる、 王国崩壊と地獄のざまぁの物語。 ――その報告書を、彼女が読むことは一度もなかった。

処理中です...