13 / 33
13「和解への道」
しおりを挟む
両家は更に疎遠となりました。儀礼的に続いていた事務連絡も途絶いたします。貴族社会からもはじき出され、我が家は第三王都アジャクシオの王政や王宮などから好奇の目で見られております。
おめおめと、まだ何をやっているのかと。なぜあきらめないのだ。しつこい連中だと。
私たち家族は屈辱と、周囲の視線に耐える惨めな日々が続きました。
アルフォンス殿下と令嬢ソランジュ様は、誰はばかることなく親交を深めているようです。
ご婚約近し。
屋敷に閉じこもる私にも、いやがおうにも話が聞こえて来ました。
そして同時に意外な噂も静かに広がり始めます。
【魅了】です。
皆がこの街の変化に戸惑っておりました。王宮もそれを感じているはずです。
そのような最中、ビュファン家から招待状が届きました。主催する王宮の舞踏会に、ぜひ参加してほしいとの内容です。
大量発生した魔獣討伐が一息つき、その慰労も兼ねた催しのようであります。
「ふざけおって! これ以上、まだバシュラール家を愚弄するつもりか!」
兄は怒りますが、母上は複雑な表情です。父上は顔を曇らせ何事かを考えます。
「いつまでもこのような状況は続けられない。和解の用意がある、とのことではないのかな?」
「これが和解ですか?」
「相手は譲歩だと思っているだろうな。決断する切っ掛けを、わざわざ作ってやったのだと」
「くっ――、また、負けるのか……」
これ以上のいがみ合いは、確かに両家にとっても良いことはありません。このような争いをいつまでも続ければ、街の運営に支障があると考えているようです。
第一王都で噂にでもなり、現王陛下の耳にでも入ればどうなるか? 敏腕政務官のアルフォンス様らしい合理的な思考でもあります。
せめて、表面だけでも取り繕わねばなりません。
父は私の表情をうかがいます。
「ソランジュ様は素晴らしいお方です。これ以上争っていては、こちらがみじめになるだけですわ」
「……すまない。耐えてくれるか?」
「私は大丈夫です。お父様」
「武でも負け、経済でも負け、そしてお前にまた負けを強いるなど……」
お兄様は両拳を握り締めます。
「恋愛に勝ち負けなどありません。兄上もそのような考えは改め、早く可愛らしいお嫁さんをもらって下さいな」
「……何を馬鹿な」
経済戦争も完敗しつつあります。我が家の取引先も次々と距離を取り始めました。どこからか、圧力がかかっているのです。
領地経営を破綻させ、多くの使用人を路頭に迷わすことなどできません。
もう、勝ち目などありません。足掻けば足掻くほど、こちらの立場は悪くなるばかりでした。
アルフォンス様は王族であり、継承権を持つ公爵なのですから。
私はただ、誠実な話し合いだけを望んでおりました。なぜ婚約を反故にしたのか。私の何がいたらなかったのか。せめてアルフォンス様のお気持ちをお聞かせ頂ければ、次に進めると思ったのです。それも叶いませんでした。
「いいのか?」
「はいっ! お兄様」
「男も女もこぞって、あの女の話ばかりしているそうだ。どんな魅力があるだとか、どのような短い言葉を交わしたなどと、自慢し合う連中ばかりが集まっているらしいぞ!」
「自分たちは、こうはなりたくないからな。もはや色恋の話ではない。政治だよ」
お母様は両手で顔を覆います。
「なぜなのでしょう。なぜ女ばかりがこんな目に……」
皆に心配をかけて申し訳ございません。私は決断いたしました。
「大丈夫です。私はバシュラール家の伯爵令嬢なのですから」
努めて明るく振舞う私の顔を、お父様は沈痛な表情で見ております。
「……破棄通知の返事を出そう。舞踏会へのお前たち二人の出席も」
敗北は終結との意味もあります。終りの後には、いつも新しい物語が始まるのですから。
これで殿下とあの女の婚約を阻む障害はなくなります。
おめおめと、まだ何をやっているのかと。なぜあきらめないのだ。しつこい連中だと。
私たち家族は屈辱と、周囲の視線に耐える惨めな日々が続きました。
アルフォンス殿下と令嬢ソランジュ様は、誰はばかることなく親交を深めているようです。
ご婚約近し。
屋敷に閉じこもる私にも、いやがおうにも話が聞こえて来ました。
そして同時に意外な噂も静かに広がり始めます。
【魅了】です。
皆がこの街の変化に戸惑っておりました。王宮もそれを感じているはずです。
そのような最中、ビュファン家から招待状が届きました。主催する王宮の舞踏会に、ぜひ参加してほしいとの内容です。
大量発生した魔獣討伐が一息つき、その慰労も兼ねた催しのようであります。
「ふざけおって! これ以上、まだバシュラール家を愚弄するつもりか!」
兄は怒りますが、母上は複雑な表情です。父上は顔を曇らせ何事かを考えます。
「いつまでもこのような状況は続けられない。和解の用意がある、とのことではないのかな?」
「これが和解ですか?」
「相手は譲歩だと思っているだろうな。決断する切っ掛けを、わざわざ作ってやったのだと」
「くっ――、また、負けるのか……」
これ以上のいがみ合いは、確かに両家にとっても良いことはありません。このような争いをいつまでも続ければ、街の運営に支障があると考えているようです。
第一王都で噂にでもなり、現王陛下の耳にでも入ればどうなるか? 敏腕政務官のアルフォンス様らしい合理的な思考でもあります。
せめて、表面だけでも取り繕わねばなりません。
父は私の表情をうかがいます。
「ソランジュ様は素晴らしいお方です。これ以上争っていては、こちらがみじめになるだけですわ」
「……すまない。耐えてくれるか?」
「私は大丈夫です。お父様」
「武でも負け、経済でも負け、そしてお前にまた負けを強いるなど……」
お兄様は両拳を握り締めます。
「恋愛に勝ち負けなどありません。兄上もそのような考えは改め、早く可愛らしいお嫁さんをもらって下さいな」
「……何を馬鹿な」
経済戦争も完敗しつつあります。我が家の取引先も次々と距離を取り始めました。どこからか、圧力がかかっているのです。
領地経営を破綻させ、多くの使用人を路頭に迷わすことなどできません。
もう、勝ち目などありません。足掻けば足掻くほど、こちらの立場は悪くなるばかりでした。
アルフォンス様は王族であり、継承権を持つ公爵なのですから。
私はただ、誠実な話し合いだけを望んでおりました。なぜ婚約を反故にしたのか。私の何がいたらなかったのか。せめてアルフォンス様のお気持ちをお聞かせ頂ければ、次に進めると思ったのです。それも叶いませんでした。
「いいのか?」
「はいっ! お兄様」
「男も女もこぞって、あの女の話ばかりしているそうだ。どんな魅力があるだとか、どのような短い言葉を交わしたなどと、自慢し合う連中ばかりが集まっているらしいぞ!」
「自分たちは、こうはなりたくないからな。もはや色恋の話ではない。政治だよ」
お母様は両手で顔を覆います。
「なぜなのでしょう。なぜ女ばかりがこんな目に……」
皆に心配をかけて申し訳ございません。私は決断いたしました。
「大丈夫です。私はバシュラール家の伯爵令嬢なのですから」
努めて明るく振舞う私の顔を、お父様は沈痛な表情で見ております。
「……破棄通知の返事を出そう。舞踏会へのお前たち二人の出席も」
敗北は終結との意味もあります。終りの後には、いつも新しい物語が始まるのですから。
これで殿下とあの女の婚約を阻む障害はなくなります。
15
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~
ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。
そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。
自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。
マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――
※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。
※第二章まで完結してます。現在、最終章をゆっくり更新中です。書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m
※小説家になろう様にも投稿しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
婚約破棄されたので契約を終了しただけですが? ~王国が崩壊したのは私のせいではありません~
しおしお
恋愛
王立学園の卒業舞踏会。
王太子レオナードは突然、婚約者である公爵令嬢アデリーナとの婚約破棄を宣言する。
隣に立つのは、涙を流す義妹ミレイナ。
「お姉様に虐げられてきました」と訴える彼女の言葉を、貴族たちは信じてしまう。
悪女として断罪され、追放を宣告されるアデリーナ。
だが彼女は怒りも悲しみも見せず、ただ静かに微笑んだ。
「承知いたしました。では――契約を終了いたします」
その一言が、すべての始まりだった。
公爵家による融資、貿易、軍需支援。
王国を支えていたすべてが、静かに停止する。
財務は崩壊し、軍は止まり、商人は離反。
王都は混乱に包まれていく。
やがて明らかになる義妹の嘘。
そして王太子の責任。
すべてが暴かれたとき、二人を待っていたのは――
完全な破滅だった。
一方アデリーナは、隣国で静かな紅茶の時間を過ごしていた。
これは、
婚約破棄された公爵令嬢が“何もしなかった”ことで始まる、
王国崩壊と地獄のざまぁの物語。
――その報告書を、彼女が読むことは一度もなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる