結婚した話

きむらきむこ

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結婚した話

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貴族学校を出て18才で、かねてからの婚約者と結婚いたしました。

 ジュリエット・アドリアーナ子爵令嬢もといジュリエット・ファビアン侯爵夫人でございます。金髪碧眼、華奢な体型が密かな自慢です。お嫁に来てから、侍女たちがお手入れしてくれるので、髪もお肌もそれはもうツヤツヤのピカピカ。さすが侯爵家でございますわ。

 旦那様は、オーチャード・ファビアン侯爵 わたくしより5才年上で、黒髪、ヘーゼルの瞳の眉目秀麗、王太子様の側近で、結婚と同時に侯爵家を継がれました。

 子爵令嬢のわたくしが、侯爵家に嫁ぐことになったのは、もちろん理由がございます。オーチャード様にも小さい頃からの婚約者がいらしたので、本来ならその方と結婚なさるはずでした。

 回り回ってわたくしが妻となったのは、学生時代の王太子様たちのヤラカシが原因でございます。

 オーチャード様が学生でいらした7年前。
所謂庶子の女生徒をお気に召した殿下が、身の回りにその女生徒を置かれた事がきっかけでした。一人の女性庶子と王太子様を含む高位貴族の男子学生数人。お茶会で語られる「よくある話」と言うものでございます。

 よくあると言っても、せいぜい高位貴族と身分の低い女性1人、でございますが。この場合4~5人に女性1人なので、さらにスキャンダラスですわね。

 わたくしは年齢的に世代が違いますので、詳しく何があったかは分かりませんが、クリストファー王太子殿下と侯爵令嬢との婚約解消とともに、側近の方々もいくつかの婚約が解消されたとのことでした。

 結婚前のハメ外し、で済まない何かがあったのは言うまでもありません。

 新たな婚約者を探そうにも、高位貴族の中に婚約者のいない者が居りません、それに加えて王太子様御一行の評判の悪さもあり、子爵家のわたくしのところまで話が下りてきたのが、3年前でした。

 前侯爵夫人のお義母様も、本来なら私のような身分の低いものを嫁として迎えるのは、と不本意でおられたようですが、他になり手のいないので仕方ありません。
あ、これはご本人がわたくしに直接仰ったので、わたくしの被害妄想とかではございません。高位貴族の気位って面倒ですわね。

 わたくしも嫁ぐにあたって、お医者様の診断書を希望いたしましたから、お義母様が可愛げのない嫁、と思われても仕方ありませんわね。診断書?ああ、閨をともにする方ですから、主に下半身を中心に診ていただきたいと申しましたの。

 乙女らしくないと、両親からも義両親からもカンカンに叱られましたが、自分の身は自分で守らないと、との思いから譲りませんでしたの。いっそ「お前を愛することはない 白い結婚だ」とか言ってくださるような方なら、そんな心配をせずに済みましたのに。


 オーチャード様は後継ぎの責務と言うものをご理解なさっていて、果たすお気持ちもお有りなので、白い結婚という訳にはいかないのでした。残念。

 ここまでで貴族の乙女らしくない、なんか変だぞ、と思われた方、正解です。 

 お嫁入りのお話を頂いて、オーチャード様の事情を調べた時に「乙女ゲームかよっ」と、いささか荒い言葉遣いと共にぼんやりとした前世の記憶を思い出しましたの。かなり長い人生を送ったような気がしますが、すっかりぼんやりとしていて、自分の名前すら定かではありませんけどね。

 今の貴族としての人生も前世の感覚からすると窮屈ではありますが、食べ物にも住む場所にも苦労はありませんから、義務も果たすつもりでおります。元から「長いものには巻かれる」タイプでしたので、流されるのは得意でございますの。

 そんなこんなでオーチャード様と結婚して3ヶ月。むかつく胃、止まる月のモノ、続く微熱とコンボをかまして無事に妊娠発覚。

「ジュリエット、良くやってくれた、ありがとう」とオーチャード様はわたくしの手を握り、喜んでくださいました。

 お義父様もお義母様からも、良くやったとのお言葉を頂きました。

 妊娠発覚以来、オーチャード様がおうちに帰ってこられません。調べてみると、オーチャード様はどうも下町にあの女生徒を囲っていらっしゃるようなのです。それも側近の方々数人で、たった一人を!!

 これが性癖、というやつなのでしょうか?それとも頭に何か新種の花でも咲いてるんでしょうか?端的に言って気持ち悪いですわ。

 だいたいあの女生徒は修道院に居るはずなのでは?と思っていたら、どうやら王太子様が密かに、引き取られたようなのです。わたくし達にバレてる時点で密かではありませんが。

 妊娠をきっかけに御褥辞退も視野に入れましょう。旦那様から病気を頂くのは、ご遠慮したいんですのよ。

 お義父様とお義母様には事情を話して、子どもは一人で満足していただきましょう。それにしても旦那様は一体王宮でナニをされてるんでしょうか?
政治を主導されてるらしい(未来の宰相と言われている)のですが、そんな人はすぐにバレるような愛人や小細工を為さらないと思いますの。

 王太子様の新しい婚約者は未だ決まっていませんが、なんと恐ろしい事にオーチャード様たちと共に下町に通っていらっしゃるようなのです。

 もうすぐ第2王子殿下も成人されるので、王太子の変更もあるのでは?とアチコチで囁かれております。わたくしも確実にそうなるだろうと思います。

 そうなるとオーチャード様の今後も、ある程度は見えてまいります。

 我が侯爵家も決断を迫られます。オーチャード様にはご兄弟がいらっしゃらないので、わたくしのお腹の子の為にも、舵取りを慎重にしなくてはなりません。
お義父様たちと何度も話し合いました。


 月は満ちて、わたくしは男の子を産みました。


 乳母として、出産したばかりの実妹を招き、信用のできる者たちで侯爵家を固めました。オーチャード様はあい変わらずで、周囲の様子が少しずつ変わっているのに気が付く様子もありません。

 閨を共にしないことも、ご自分に都合良くお考えのようでした。本当に優秀な方だったのでしょうか?成績が良くても、実生活には活かせないという実例のような方ですわね。


 息子はエドワードと名付けられ、すくすくと育ちました。




 明日は、エドワードの初等学校の入学式です。
お義父様やお義母様も、わたくしの実家の面々も式に参列する予定でございます。
エドワードの乳兄弟であるわたくしの甥も、明日入学なのです。甥は将来はエドワードの従者となる予定ですので、わたくしの実家も侯爵家とのつながりに少々興奮気味でございます。


 オーチャード様は、2年ほど前にご病気で亡くなられました。
エドワードは幼かったので、オーチャード様の記憶もあまりないと思います。その分、お義父様やお義母様が愛情深くかかわって下さってます。

 元々、お仕事で家にいらっしゃることも無かったので、オーチャード様がいらっしゃらなくても生活に変化は全くございません。冷たい嫁だとは思いますが、愛情は一人では育てられませんものね。仕方ありませんわ。


 「長いものには巻かれる」タイプのわたくしですが、今生は貴族として生まれ貴族として育ちました。思った以上に今生の考え方に染まっていたようでございます。
オーチャード様、あなた様の跡はエドワードがしっかりと継ぎますので、ご心配は無用ですわ。

 

 遥かな高みで第一王子殿下やご側近の皆さまと、お元気でお過し下さいませ。

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