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両親の意向
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「お父様からわたくしの婚約の話を聞きましたの」グロリアが語りだしたその話は、なんと言って良いのかすら分かりませんでした。
一昔前に、公の舞台で婚約破棄騒動を起こした王太子と、その側近数名がおられました。破棄を受け入れたご令嬢方は他国に留学されそのまま嫁がれたり、王国でも何かしらの地位に就き、婿を取るなりされたのです。
王太子殿下は王子殿下となられ、王太子には第二王子殿下が就かれました。側近の方々もそのまま自領でお過ごしになる、もしくは身近なご親族に家督をお譲りになられました。
そういった方々に嫁ぐのを嫌悪されたご令嬢たちもまた、親族や他国の貴族などと速やかに婚約された為に、王国には現在20~28歳位の高位貴族に釣り合う適齢期の女性が少ないのです。
その王子の妃にグロリアを、というのがお父様の望む筋書だったようです。グロリアが王子妃になれば、我が家にも王家との伝が出来て……との希求を父は、胸の内で描いていたようです。
そして、その希望は、ほとんど実現しかかっていたようです。それでグロリアが幸せになれるか否かは別として。
ところが、その件の王子が先日、儚くなってしまわれたそうです。お父様の宿願は潰えてしまいました。有望な娘であるのに水面下で進めていた縁談は露と消え去って、今度は娘に釣り合う相手が居ない、という問題に直面したわけです。
ならば、不出来な方の娘はさっさと騎士あたりにでも嫁がせて、手塩に掛けた娘を中継ぎとは言え伯爵夫人にして、何とか子爵家を盛り立ててもらおう、という計画へ変更がなされたのです。
グロリアの出来が良いというのが判明してから、両親はせっせとグロリアを磨き上げました。少しでも優位な結婚を、という両親の気持ちは分かるのです。
貴族の娘ですから、その価値を値踏みされることもある、と理解はしておりました。ですが、それは娘たちの育て方や扱い方に差をつけてまでしなくてはならないことなのでしょうか。
それが叶わないとなると、今度は細やかにも幸せを見つけようとしている娘を踏みにじっても良いと……思っているのでしょうね、お父様達は。
「グロリア、貴女はどう思っているの?ジェイムズ様のところへ嫁ぐつもりなの?」
グロリアは頭を振りながら、いいえと答えました。
「あれはお姉様に来た話ですわ。もう既に纏まってしまっているではありませんか。わたくしは幾つか届いている縁談の中から選ぶことになると思いますわ」
グロリアはわたくしから見ても、良い娘、良い妹だと思う。わたくしよりも確実に芸事にも勉学にも秀でて、それでいて出しゃばったり差し出がましくしない。
今もわたくしの方を優先しようとしている……
しかしながら、グロリアの他にも届いている縁談から選ぶ、という言葉を聞いて、わたくしは一瞬で体中の血が沸騰したように感じました。
グロリアは、自分には良い縁談が来ると確信しているのです。
自らを疑いなく優れた娘である、と。
「お父様達はそれをお許しになると思うの?」
わたくしは心配を顔に貼り付けて、グロリアに聞きました。自分が可愛い妹にたいして言語化出来ない想いを感じたことを、受け入れたくなかったのかもしれません。
そして、両親もわたくし自身も、グロリアもまた無意識に、きっとグロリアのおこぼれという形でしか、ジェイムズ様のような良いお相手をわたくしには見つけられないだろうと、考えていることを。
「きっと大丈夫よ、お姉様。お父様もお母様もお姉様には甘いもの」
わたくしは、グロリアの言葉に憮然といたしました。両親がグロリアに厳しい基準を強いた一方で、わたくしにそれ程構いつけなかったことを、グロリアは、「わたくしに甘い」と考えていたのです。
わたくしから見る両親は、グロリアと跡取り息子のアーヴィンには手を掛けていて、わたくしは二人の邪魔をしない限り両親の目に入らないのです。
わたくしの躾と教育は、ひとつ年下のグロリアがその理解力を発揮した途端に、執事や家庭教師に一任されました。特に問題が起こらなければ良し、そうでなければ一方的に失望される、それがわたくしのこの家での立ち位置でした。
両親の側からしても、きっとわたくしキャスリーンをグロリアやアーヴィンほど出来た子ではない分甘やかしている、好きにさせてやっていると思っているということを理解したのでした。
わたくしは家族を愛しておりましたし、また家族もわたくしを愛してくれておりました。それでも、なお傷つけられることもあるのだと、これが初めてではない気付きを得たのでした。
家族がわたくしを邪気無くぞんざいに扱うのなら、わたくしも同じようにして悪いわけがございましょうか?
わたくしは、この日を境に少しばかり考え込んだのでした。
一昔前に、公の舞台で婚約破棄騒動を起こした王太子と、その側近数名がおられました。破棄を受け入れたご令嬢方は他国に留学されそのまま嫁がれたり、王国でも何かしらの地位に就き、婿を取るなりされたのです。
王太子殿下は王子殿下となられ、王太子には第二王子殿下が就かれました。側近の方々もそのまま自領でお過ごしになる、もしくは身近なご親族に家督をお譲りになられました。
そういった方々に嫁ぐのを嫌悪されたご令嬢たちもまた、親族や他国の貴族などと速やかに婚約された為に、王国には現在20~28歳位の高位貴族に釣り合う適齢期の女性が少ないのです。
その王子の妃にグロリアを、というのがお父様の望む筋書だったようです。グロリアが王子妃になれば、我が家にも王家との伝が出来て……との希求を父は、胸の内で描いていたようです。
そして、その希望は、ほとんど実現しかかっていたようです。それでグロリアが幸せになれるか否かは別として。
ところが、その件の王子が先日、儚くなってしまわれたそうです。お父様の宿願は潰えてしまいました。有望な娘であるのに水面下で進めていた縁談は露と消え去って、今度は娘に釣り合う相手が居ない、という問題に直面したわけです。
ならば、不出来な方の娘はさっさと騎士あたりにでも嫁がせて、手塩に掛けた娘を中継ぎとは言え伯爵夫人にして、何とか子爵家を盛り立ててもらおう、という計画へ変更がなされたのです。
グロリアの出来が良いというのが判明してから、両親はせっせとグロリアを磨き上げました。少しでも優位な結婚を、という両親の気持ちは分かるのです。
貴族の娘ですから、その価値を値踏みされることもある、と理解はしておりました。ですが、それは娘たちの育て方や扱い方に差をつけてまでしなくてはならないことなのでしょうか。
それが叶わないとなると、今度は細やかにも幸せを見つけようとしている娘を踏みにじっても良いと……思っているのでしょうね、お父様達は。
「グロリア、貴女はどう思っているの?ジェイムズ様のところへ嫁ぐつもりなの?」
グロリアは頭を振りながら、いいえと答えました。
「あれはお姉様に来た話ですわ。もう既に纏まってしまっているではありませんか。わたくしは幾つか届いている縁談の中から選ぶことになると思いますわ」
グロリアはわたくしから見ても、良い娘、良い妹だと思う。わたくしよりも確実に芸事にも勉学にも秀でて、それでいて出しゃばったり差し出がましくしない。
今もわたくしの方を優先しようとしている……
しかしながら、グロリアの他にも届いている縁談から選ぶ、という言葉を聞いて、わたくしは一瞬で体中の血が沸騰したように感じました。
グロリアは、自分には良い縁談が来ると確信しているのです。
自らを疑いなく優れた娘である、と。
「お父様達はそれをお許しになると思うの?」
わたくしは心配を顔に貼り付けて、グロリアに聞きました。自分が可愛い妹にたいして言語化出来ない想いを感じたことを、受け入れたくなかったのかもしれません。
そして、両親もわたくし自身も、グロリアもまた無意識に、きっとグロリアのおこぼれという形でしか、ジェイムズ様のような良いお相手をわたくしには見つけられないだろうと、考えていることを。
「きっと大丈夫よ、お姉様。お父様もお母様もお姉様には甘いもの」
わたくしは、グロリアの言葉に憮然といたしました。両親がグロリアに厳しい基準を強いた一方で、わたくしにそれ程構いつけなかったことを、グロリアは、「わたくしに甘い」と考えていたのです。
わたくしから見る両親は、グロリアと跡取り息子のアーヴィンには手を掛けていて、わたくしは二人の邪魔をしない限り両親の目に入らないのです。
わたくしの躾と教育は、ひとつ年下のグロリアがその理解力を発揮した途端に、執事や家庭教師に一任されました。特に問題が起こらなければ良し、そうでなければ一方的に失望される、それがわたくしのこの家での立ち位置でした。
両親の側からしても、きっとわたくしキャスリーンをグロリアやアーヴィンほど出来た子ではない分甘やかしている、好きにさせてやっていると思っているということを理解したのでした。
わたくしは家族を愛しておりましたし、また家族もわたくしを愛してくれておりました。それでも、なお傷つけられることもあるのだと、これが初めてではない気付きを得たのでした。
家族がわたくしを邪気無くぞんざいに扱うのなら、わたくしも同じようにして悪いわけがございましょうか?
わたくしは、この日を境に少しばかり考え込んだのでした。
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