キャスリーンかく語りき

きむらきむこ

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婚約解消

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わたくしとジェイムズ様の婚約の見直しの話し合いが行われたのは、夜会のしばらく後でした。

コノーヴァー家の言い分は次のようなものでした。
曰く、キャスリーンとの婚約はまだ披露していないので見直したい。
曰く、キャスリーンには恋人がいたのを、此度の婚約で引き裂かれたとの噂が出回っている。
曰く、低位の貴族の間で、ジェイムズが中継ぎ伯爵等と呼ばれているのを良しとしている。

と言ったような噂を元にした主張で、わたくしとの婚約を白紙に戻したい、というふうなことでございました。

 わたくしが伯爵家に嫁ぐのを妬ましく思う人たちが広めているのですと、真実を述べて自分を擁護致しました。今回コノーヴァー家の方が、わざわざ婚約の見直しと言って来られはしたものの、実情は婚約の解消を望まれていることには、気づいておりました。

 両親も披露はしていないものの、キャスリーンあての縁談などはある程度理由を話してお断りしているので、今、解消となっても次の縁談のあてがないので困ります、と応戦していました。

 わたくしのクロード様との噂なども、理由の一つとして出てしまったので、そちらの方とご婚約されたら?とジェイムズ様のお姉様に押し切られてしまいました。

 きっとグロリアに相手を代えても、ジェイムス様とクレア家との婚約は成立しないだろう、そのことにキャスリーンは昏い喜びでもって震える思いがした。

 わたくしは血のつながった両親の苦境に、自分が手放すものを妹が手にしないことに、愉悦を感じております。なんとも親不孝なことでございましょう。言葉に出来ない妹への気持ちも、愛と妬みと色んなものが綯い交ぜになった想いで、今にも笑い声が出てしまいそうです。

 わたくしがグロリアへ抱く気持ちは、ほとんどそのまま周りの令嬢たちがわたくしたち姉妹へ抱くものと同じなのでしょう。今回の噂の出回る早さに、頷けるものがございます。

 この婚約はわたくしの有責の破棄になると思っておりましたが、図らずも見直しからの解消というわたくしにとって然程悪いことにはなりませんでした。きっとコノーヴァー家にしても破棄とせずに、解消を急ぐ理由が在るのでございましょう。 


 

 こうしてわたくし、キャスリーン・クレアとジェイムズ・コノーヴァー様との婚約は解消となりました。


 解消の話し合いからしばらくして、子爵家や男爵家を中心にクレア家を貶める噂が囁かれ始めました。

「キャスリーンの不貞が原因で婚約が成立しなかった」
「クレア家が調子に乗って、コノーヴァー家に迷惑をかけた」
「クレア家は家同士の契約を軽んじる家だから、婚約も成立しない」と言った、わたくしだけでなく家自体を貶めるものが多かったようです。

 ようです、というのは、やはり面と向かって仰るような方はいらっしゃいませんので、わたくしとしても囁かれる噂から想像するしかありません。

 自慢するわけではございませんが容姿だけは噂になるほどだったわたくしと、容姿端麗で怜悧なグロリアのクレア姉妹には、それなりに縁談も持ち込まれていたのですが、両親であるクレア子爵夫妻がより好みしてお断りしていたのです。

 断られた家からはもちろん、娘を持つ他の家からもよく思われていなかったのです。

 容姿だけで貞節さのない娘と、小賢しく驕った娘を持つ家、と掌を返したように我が家の評判は悪くなりました。

 そしてそれに応じて、グロリアへの縁談は潮が引くように無くなったのでした。


 そして婚約解消から程よく時間を置いた頃、ジェイムズ様とソフィア・オズボーン侯爵令嬢との婚約が公にされました。

 ソフィア・オズボーン侯爵令嬢は以前スチュアート侯爵家のご嫡男と結婚されておれましたが、私の婚約解消に先立って、離縁されておられます。

 家どうしの政略結婚で、スチュアート侯爵夫人自らがソフィア様を望まれたとのことでしたが、ご夫婦の相性がすこぶる悪く、特に旦那様がソフィア様への嫌悪をお隠しにならないことで、離縁もやむ無しとなったようでございます。

 オズボーン侯爵家のソフィア様といえば、わたくしたちよりも数年上の世代の社交界の華と言われる方で、ご結婚後もファッションリーダーであり、おもてなしの優れた女主人として、社交界で高嶺の花であり続けておられます。

 ご夫婦の離婚は社交界に衝撃をもたらしましたが、どうやらオズボーン侯爵家とコノーヴァー家との間に何やら約束が出来上がっていたのかもしれません。

 ジェイムズ様とソフィア様との婚約は、「ジェイムズ様が初恋を実らせた」と持て囃され、まるでわたくしキャスリーン・クレアが二人を邪魔立てしていたかのように囁かれたのでした。

 高位の方々には表立って言えなくとも、子爵位であるクレア家になら、と軽んじられているようで、わたくしの家への中傷は更に酷くなっていったのです。
 
 王宮主催のパーティーやお茶会などであれば、コノーヴァー家やオズボーン家の方がさり気なくわたくしや母、グロリアを庇ってくださるのですが、そういった方のいない会では、クレア家の人間はいないも同然の扱いとなったのでした。

 
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